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十億円の花嫁
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「人質解放の条件はただ一つ。実にシンプルな話だ」
剛田が交渉を始めた。
綾華はもう邪魔をせず、大人しく椅子に座っている。私を睨みつけながら。
「俺が求めるのはズバリ、金。身代金を現金で用意し、ここまで持って来い。もちろん、あんた一人でな」
『いくらだ』
「十億」
思わず叫びそうになった。ニット帽と、綾華ですら驚いている。
だが剛田はククッと笑い、
「と、言いたいところだが、半分に負けてやるよ。五億でいい。それぐらいなら今すぐ用意できるだろ、あんたなら」
これは駆け引きだ。最初に高い値段をふっかけたあと、値引きする。相手に得したように誤認させて交渉を有利に運ぶやり方である。
『五億、だと?』
織人さんが下を向き、頭を抱えた。
半値だろうと、五億は大金である。いくら織人さんがお金持ちでも、簡単に払える金額ではない。「受け入れてはダメ」と、カメラ越しに念を送った。
「そう、五億だ。これ以上、びた一文まけないぜ。奈々子さんを助けたければ、きっちりと払うんだな!」
剛田が声を張り上げた。そして勝ち誇ったように笑う。
(織人さん……)
どうして、こんなことになってしまったのだろう。綾華という人間は一体、どこまで私を苦しめるのか。
だが最も悔しいのは、自分自身の不甲斐なさだ。なぜもっと用心して行動しなかったのか。
私のせいで織人さんが苦悩している。こんなにも……
『ふざけるな』
低いつぶやきが、剛田の笑い声を消した。
織人さんが顔を上げ、怒りに満ちた眼差しをこちらに向ける。
「……!?」
いつの間にか、剛田が私の横に立っていた。織人さんの視線は、彼を刺している。
「ふざける? とんでもない、こっちは大真面目だよ。しのごの言わずに五億円を……」
『身代金は十億だ。びた一文負けるなと言ってるんだ!』
「……は?」
沈黙が流れた。
剛田はもちろん、私もあんぐりと口を開けて、織人さんを見つめる。
「な、何言ってんだ、あんた……」
動揺をあらわに、剛田がディスプレイに近づく。
今度は織人さんが足を組み、椅子にふんぞりかえった。
『身代金は十億だ。俺の花嫁にはそれだけの価値があるのだからな。それに……』
剛田が何か言いたそうにするのを無視して、織人さんは続けた。
『500万香港ドルは80年代のレートで1億円。現代の価値に換算すると約十億円なんだよ。だから十億円』
「はあ?」
突然わけのわからない説明をされた剛田は、きょとんとしている。
だけど私は、あっと思った。
(織人さん、もしかして……ヒーローになろうとしてる?)
目で問う私に、織人さんがニヤリとした。それは、自分たちのみに通じる合図だ。
(『一億円の花嫁』……ですね)
誘拐されたヒロインを、イケメンのカンフーヒーローが助けるというアクション映画。織人さんが憧れるタイガー•ウォン主演の、80年代の作品である。
そして、ヒロインの身代金は500万香港ドルだった。日本円で一億、現代の価値にすると十億円ということ。
なんて人なの!
こんな時に、映画の設定を持ち出すなんて。確かに、似たようなシチュエーションだけれど……
余裕たっぷりの態度に、剛田は気圧されている。私といえば、呆れるを通り越して、可笑しくてしょうがない。
やっぱり織人さんは凄い。
まさに絶対無敵!
『おい、聞いてるのか。十億と言ったら十億だ。分かったか!』
「お、おう……」
剛田がディスプレイから後ずさりして、私をチラリと見た。
「おい、こいつマジなんだろうな。何言ってんのかさっぱりだが」
「ええ、本気です。いつもの織人さんです」
剛田のへんてこな表情を見て、噴きそうになる。
「よ、よし……じゃあ十億で決まりだ。どういうつもりか知らねえが、そっちが言い出したことだからな、間違いなく用意しろよ」
『当たり前だ。それより、どこに行けばいいのか早く教えろ』
交渉の主導権は織人さんへと移り、剛田は聞かれるまま答えると、通話を切ってしまった。
「あ……」
織人さんと言葉を交わしたかったのに。
ペースを乱されたためか、剛田はトークタイムをもうけると言ったのを忘れてしまったようだ。
剛田が交渉を始めた。
綾華はもう邪魔をせず、大人しく椅子に座っている。私を睨みつけながら。
「俺が求めるのはズバリ、金。身代金を現金で用意し、ここまで持って来い。もちろん、あんた一人でな」
『いくらだ』
「十億」
思わず叫びそうになった。ニット帽と、綾華ですら驚いている。
だが剛田はククッと笑い、
「と、言いたいところだが、半分に負けてやるよ。五億でいい。それぐらいなら今すぐ用意できるだろ、あんたなら」
これは駆け引きだ。最初に高い値段をふっかけたあと、値引きする。相手に得したように誤認させて交渉を有利に運ぶやり方である。
『五億、だと?』
織人さんが下を向き、頭を抱えた。
半値だろうと、五億は大金である。いくら織人さんがお金持ちでも、簡単に払える金額ではない。「受け入れてはダメ」と、カメラ越しに念を送った。
「そう、五億だ。これ以上、びた一文まけないぜ。奈々子さんを助けたければ、きっちりと払うんだな!」
剛田が声を張り上げた。そして勝ち誇ったように笑う。
(織人さん……)
どうして、こんなことになってしまったのだろう。綾華という人間は一体、どこまで私を苦しめるのか。
だが最も悔しいのは、自分自身の不甲斐なさだ。なぜもっと用心して行動しなかったのか。
私のせいで織人さんが苦悩している。こんなにも……
『ふざけるな』
低いつぶやきが、剛田の笑い声を消した。
織人さんが顔を上げ、怒りに満ちた眼差しをこちらに向ける。
「……!?」
いつの間にか、剛田が私の横に立っていた。織人さんの視線は、彼を刺している。
「ふざける? とんでもない、こっちは大真面目だよ。しのごの言わずに五億円を……」
『身代金は十億だ。びた一文負けるなと言ってるんだ!』
「……は?」
沈黙が流れた。
剛田はもちろん、私もあんぐりと口を開けて、織人さんを見つめる。
「な、何言ってんだ、あんた……」
動揺をあらわに、剛田がディスプレイに近づく。
今度は織人さんが足を組み、椅子にふんぞりかえった。
『身代金は十億だ。俺の花嫁にはそれだけの価値があるのだからな。それに……』
剛田が何か言いたそうにするのを無視して、織人さんは続けた。
『500万香港ドルは80年代のレートで1億円。現代の価値に換算すると約十億円なんだよ。だから十億円』
「はあ?」
突然わけのわからない説明をされた剛田は、きょとんとしている。
だけど私は、あっと思った。
(織人さん、もしかして……ヒーローになろうとしてる?)
目で問う私に、織人さんがニヤリとした。それは、自分たちのみに通じる合図だ。
(『一億円の花嫁』……ですね)
誘拐されたヒロインを、イケメンのカンフーヒーローが助けるというアクション映画。織人さんが憧れるタイガー•ウォン主演の、80年代の作品である。
そして、ヒロインの身代金は500万香港ドルだった。日本円で一億、現代の価値にすると十億円ということ。
なんて人なの!
こんな時に、映画の設定を持ち出すなんて。確かに、似たようなシチュエーションだけれど……
余裕たっぷりの態度に、剛田は気圧されている。私といえば、呆れるを通り越して、可笑しくてしょうがない。
やっぱり織人さんは凄い。
まさに絶対無敵!
『おい、聞いてるのか。十億と言ったら十億だ。分かったか!』
「お、おう……」
剛田がディスプレイから後ずさりして、私をチラリと見た。
「おい、こいつマジなんだろうな。何言ってんのかさっぱりだが」
「ええ、本気です。いつもの織人さんです」
剛田のへんてこな表情を見て、噴きそうになる。
「よ、よし……じゃあ十億で決まりだ。どういうつもりか知らねえが、そっちが言い出したことだからな、間違いなく用意しろよ」
『当たり前だ。それより、どこに行けばいいのか早く教えろ』
交渉の主導権は織人さんへと移り、剛田は聞かれるまま答えると、通話を切ってしまった。
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織人さんと言葉を交わしたかったのに。
ペースを乱されたためか、剛田はトークタイムをもうけると言ったのを忘れてしまったようだ。
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