一億円の花嫁

藤谷 郁

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絶体絶命

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 窓の向こうが騒がしかった。
 男たちは、私とエミさんが一階の機械エリアに隠れたと思ったらしい。
 
「様子を見てみます」
「き、気をつけて」

 エミさんにうなずくと、私は立ち上がって窓に近づく。ブラインドの隙間から、そっと覗いた。

 天井のライトに照らされた工場は、かなり広かった。製品を梱包する設備だろうか、大小の筐体が配置されて、ベルトコンベアーがそれらを繋げている。
 意外なほどきれいなことに驚く。

「ここは廃工場……ですよね?」
「ええ。筐体の中身は空です。ロボットとか古い機械はすべて処分済みで、残りは来年、建物とともに撤去されると綾華が言っていました」

 やはり、この工場は綾華が管理する施設なのだ。

「もしかして剛田のアジトなの? 綾華が提供する」
「そんな感じです。地下格のメンバーが集まって会合したり……何を話し合っているのかは、よく分からないけれど」

 地下格というのは、おそらく地下格闘家。あの男たちを指している。
 エミさんがやるせなさそうに言葉を継ぐ。

「私は、集会のたびに綾華の運転手として呼びつけられています。小間使いみたいに利用されて」
「……そうだったんですね」

 エミさんは支配されていた。子供の頃からずっと綾華の言いなりになって。
 今回も逆らえず、誘拐に加担したのだろう。
 でも、そんな関係も今日で終わり。いいえ、既に解消している。
 エミさんは綾華に意思表示したのだ。

「あ……!」

 綾華が工場に入ってきた。隅々まで探し回る男たちに、大声で喚き散らしている。
 キングと大男の姿はない。まだ倉庫で戦っているのだろうか。

「大丈夫、キングは絶対に負けない。尋常じゃない強さなんだから。私は、信じてる!」

 自分で自分を鼓舞した。
 エミさんのためにも頑張らなくては。だって、彼女の勇気に報いたい。
 だから、お願い……!

「はっ……」

 綾華と男たちの視線が、入り口に集中した。そこに現れたのは……

「キング!」

 胸を張り、堂々とした態度でVサインを掲げる。大男をやっつけたのだ。
 しかも元気いっぱい。
 一緒に入ってきたニット帽に「ちゃんと写せ」とジェスチャーしてから、捕まえようとする男たちをひょいひょいとかわし、ベルトコンベアーを跨ぐ金網の橋に駆け上がった。
 そして、19人の敵を睨み下ろす。

「まだまだ勝負はこれからだ。ていうか、お前ら全員ぶっとばしてやるぜ!!」

 頼もしい勝利宣言が、窓をビリビリと震わせた。
 キングはすごい!
 たちまち希望が湧いてくる。
 エミさんと顔を見合わせ、思わず微笑んでいた。



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