一億円の花嫁

藤谷 郁

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マスク

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 高笑いするキングを見上げ、男たちがざわめいている。というか、怖気付いているように見えた。

「すごい。キングさん、天空さんに勝ったんですね」
「えっ?」

 エミさんが側に来て、窓を覗いた。

「てんくうさん……って、キングが戦った大きな人ですか?」
「はい。あの人は地下格メンバーのリーダーで、実力で言えばナンバーワンです。剛田さんもナイフを使わなければ勝てません」
「そうなの?」

 剛田のほうが圧倒的に強いと思っていた。

「イベント最大のスポンサーである西野社長が剛田さんを気に入っていて、わざと負けるよう天空さんに命じているんです。剛田さんは綾華の愛人だし、それに見栄えがいいから、勝てばお金持ちのマダムが喜ぶとか言って」
「お金持ちのマダム……」
「ええ。彼は元ホストで、綾華より太いファンが付いてます。特に中高年の女性に人気ですね」

 そういえば……と、思い出す。
 特務室の調査によると、剛田は世界的に有名な企業の女社長の愛人でもある。他にも金蔓の女が多数存在し、その人たちがイベントの上客であっても不思議ではない。

「ということは、地下の試合は八百長?」
「はい。集会はたぶん、その打ち合わせですね」
「じゃ、じゃあ、剛田が言っていた、ナイフで切り刻むとかの残酷な行為は……」
「あなたやキングさんを怖がらせるため、大げさに言ったんです。さすがに殺人は……あ、でも剛田さんはナイフを使うから、たまに事故はあるみたいですが」
「事故……」

 大男の頬についた傷痕を思い出した。

「そんなこともあって、剛田さんは天空さんたちに嫌われてます。打ち合わせに綾華が参加するのは、剛田さんに反発するメンバーを監視するよう社長に言われてるから、と思います。私は蚊帳の外なので、内容はよく分からないし、想像の域を出ませんが。でも一つ言えるのは……彼らの立場は同じってことです」
「え?」

 エミさんがため息をついた。

「こうなったらもう、全部話します。天空さんも、地下格のメンバーも、根は悪い人たちではありません。だけど、皆それぞれ事情があって、西野社長に弱みを握られています。一番多いのが借金で、それも普通の金額ではなく、彼らはもはや借金に縛られた『奴隷』そのもの」
「ええっ?」

 男たちを見直した。
 いずれも荒くれ者の雰囲気だけど、よく見るとただの若者のようでもある。
 多少やさぐれてはいるが、どこにでもいるような。

「皆、脱け出したいと思ってますよ。お金が必要だから必死なんです。今回のことも動機は全てお金です」
「身代金の分け前が欲しくて?」
「そうです。綾華はその必死さを利用してみんなを扇動したのでしょう。だから私は、天空さんたちは怖くない。人を人とも思わない綾華が怖くて、ずっと逆らえなかった」

 綾華は西野社長と同じ。金で人を操る。人の弱みにつけ込むのだ。
 時として金は、人の善悪を狂わせる。
 それを知っていて、人を争わせて楽しむ。ゲームのように。
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