一億円の花嫁

藤谷 郁

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大合戦!

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「えええーっ! お、お前、由比織人だったのおーっ!?」

 猿渡が叫んだ。
 織人さんは彼を見下ろし、

「ああ、そうだ。この前はコメントをありがとうな、アンチくん!」
「へ? あっ……!」

 猿渡がひどく動揺する。
 綾華が立ち上がり、わけがわからないといった様子で、二人を見比べた。

「どういうことよ。猿渡、あんたコイツの正体知ってたの!?」
「とんでもねえ。お、俺だってびっくりですよ、まさかあの由比織人が、こんな格好であんな動画撮ってるなんて。知らずにコメントしちまったんだ」

 猿渡はキングの動画を知っていた。そして、クレイジー・Lについて書き込んだアンチでもあったようだ。
 織人さんはいつ気づいたのだろう。

「でもやべえ……こいつは大スクープだ! 再生回数がやばいことになるぜ!」

 猿渡は開き直ったのか、嬉々として撮影を続けた。

「スクープ!? なに呑気なこと……!」

 綾華が怒りかけ、しかしなぜか笑いだした。そして私を見上げ、さもバカにしたように言い放った。

「ほんと、大スクープだわ。ホテル界の王子とか完璧御曹司とか、上流階級にチヤホヤされてる由比織人が、こんな変態筋肉野郎だったなんて。世間が知れば、高級ホテルのイメージが台無し。動画が配信されたら世界の笑い物! 三保コンフォートもお終いでしょ、ザマアミロ!」
「……っ」

 一気に捲し立て、狂ったように笑う。

「どうりであんたみたいなグズが結婚できるはずよ。化け物とグズ、お似合いだよあんたら!!」

 常軌を逸したその姿はさながら妖怪。私には、綾華のほうがよほど不気味に映った。
 男たちも恐怖しながら引いている。

「その上、こいつはこれから処刑されるのよ。史上最悪の残酷ショーが始まるの。猿渡、しっかり撮りなさい!」

 猿渡は返事をしなかった。橋の手すりに足をかけて腕組みする織人さんに集中している。

「織人さん! 頑張って!!」

 私は大声でエールを送る。
 キングの殻を破り、本当の自分になって戦う彼に、めいっぱいの気持ちをのせて。

「よっしゃ、やるか! お前ら遠慮なくかかってこい!」

 男たちは顔を見合わせると、それぞれ武器を握り直す。織人さんが手招くのを合図に、橋の両端から挟み撃ちにする。

「えっ?」

 その時、凄まじい大音声だいおんじょうを上げて、黒い集団が飛び込んできた。

「大丈夫ですか、織人様あーっ!!!」

 私は目を疑う。
 なぜ、どうして彼らがここに?

「え……なっ、奈々子さん。あの人たちは?」
「由比家のボディガードですっ」

 黒服のメンバーが5人。中央に立つのはリーダーの雲井さんだ。
 エミさんの問いに、震え声で答えた。嬉しいはずなのに、動揺している。
 驚きすぎて。

「戦闘態勢に入れ!」

 雲井さんが命令し、メンバーが男たちを囲むように散らばった。
 各々攻撃の構えをとる。

「おいおい、雲井さん。どうしてここが分かったんだ?」

 織人さんが橋から身を乗り出し、雲井さんに訊ねる。私も聞きたかった。

「本日21時、奈々子様が電話に出られないとの連絡を受け、我々は捜査しておりました。しかし情報を得られず、織人様に報告しようとするも今度は織人様が電話に出られない。やむをえず位置情報をたよりに緊急出動したしだいでございます!」
「そうだったのか。さすが雲井さん」
「岡崎様も心配しておりました。情報共有を依頼されたので、間もなく駆けつけると思われます!」

 私がいなくなった時に、織人さんがあちこちに電話したのだ。花ちゃんにも……

「えっ、花ちゃんも来るの?」

 思わず声を上げると、雲井さんがこちらに気づき、

「奈々子様、もう安心でございますよ。何やら大変な状況ですが、我々が片付けますので!」

 ガッツポーズを作った。気のせいか、ものすごく楽しそうな笑顔で。

「いやいや、俺一人で十分だから! このとおりマスクも取っちまったし、怖いもんなし。君たちは奈々子を守っててくれよ」
「もちろん、お守りします」

 メンバーの一人が梯子をのぼってきた。止めようとする男を簡単に撃退するのを見て、他の男たちがざわめく。

「この日のために、我々は肉体を鍛え、戦闘力を練り上げてまいりました。大暴れできるチャンスでございますゆえ、遠慮はご無用!」

 一気に形勢が逆転した。
 さすがの綾華も顔面蒼白。後ずさりしている。

「な、何よ。結局あんたも助けを呼んでるじゃないの、卑怯者!」

 織人さんは真顔になると、真正面から返した。

「俺は約束どおり一人で来たぜ! あんたも聞いてただろ? 彼らは俺と奈々子を助けるために、自主的に駆けつけてくれたんだ。奈々子の友達もな! 借金がどうのこうのと脅迫しなくても、全力で戦ってくれる。あんたには無い、これが絆ってもんだ!」

 綾華は反論できない。
 まったくそのとおりすぎて、口ごもっている。

「うっ……うるさい、うるさーい! あんたたち、あいつらをやっつけたら全員、借金ゼロにするようパパに言ってあげる。ダメなら私が払ってやるから、やっちまいな!!」

 男たちはもう、後に引けなかった。
 斧で襲いかかる男を織人さんが見事に捌くのを見て、雲井さんたちもいっせいに交戦する。

「私たちは大丈夫です。織人さんを助けてください!」

 梯子から2階に入ろうとするメンバーに叫んだ。彼は迷うが、

「この部屋はロックされています。安全な場所なので大丈夫です」

 エミさんの言葉を聞いてうなずき、ひらりと飛び降りて敵に向かった。
 工場内は大騒ぎ。
 つわものたちの大合戦が始まった。




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