一億円の花嫁

藤谷 郁

文字の大きさ
194 / 198
大合戦!

しおりを挟む
 利き手を負傷しながらも、織人さんは三面六臂の大活躍。次々と敵を倒していく。
 ボディガードの皆も勇敢に戦った。特に雲井さんの活躍たるやものすごく、しかもほとんど笑顔なのが怖い。

 そんなわけで、戦闘開始5分も経たず、勝敗がほぼ明らかとなる。
 もちろん、由比軍の圧倒的勝利だ。

「弱すぎるぞ、若造ども!」

 雲井さんが上着を脱いでぶん回し、残りの男2人を追い込む。行手に立ちはだかるのは織人さん。他の男たちはのびている。もはや最後の抵抗だった。

「奈々子さん、綾華が……!」
「え?」

 見ると、綾華が工場を出ていく。
 男たちを見捨てて、一人で逃げるつもりだ。

「綾華!」

 冗談ではない。こんなことをしでかして、なんの責任も取らず逃亡など絶対に許さない。

「綾華を捕まえる!」
「奈々子さん、待って。私も行きますっ」

 私とエミさんは部屋を飛び出し、外階段を使って下に降りた。
 表に回り込もうとして、角から飛び出してきた綾華と思いきりぶつかる。

「痛ぁっ! 何すんのよバカ!」
「そっちこそ、逃げるんじゃないわよ!」

 振り切ろうとする綾華に飛びつき、一緒に倒れた。ごろごろと雪まみれになって、掴み合う。

「離せよ、グズが調子に乗ってんじゃないよ、この!」
「逃げるな、クソ女! 卑怯者!!」

 罵り合いながら、めちゃくちゃにつかみ合う。エミさんが加勢しようとするが綾華のげんこつに当たって、倒れ込んだ。

「あ、エミさん!」
「どけぇ!」

 よそ見した私を突き飛ばし、綾華が走っていく。

「待てえっ!!」

 懸命に追いかけるが、私ときたら悲しいほど足が遅い。エミさんは織人さんに知らせに行ったようだ。
 でも間に合わない。
 このままじゃ逃げられてしまう。綾華は死んでも逃げ切ろうとする。

「逃がさないし、死なせない。あんたは詫びなければならない!」

 15メートルほど先に正門がある。綾華が駆け抜けようとするのを見た、その時だった。

「!?」

 まばゆい光が目に飛び込む。そして、夜の山々に轟く爆音。
 突如として現れた巨大なバイクが、綾華の逃亡を阻んだ。

「奈々子!!」
「は……えっ? も、もしかして……」

 私は慌てて駆け寄り、その姿を確かめる。

「花ちゃん!?」

 バイクの後ろから飛び降り、ヘルメットを放り投げた彼女に叫ぶ。
 そして、花ちゃんを乗せてきた大柄な人物は……

「まさか……!」

 雪の上にへたり込む綾華に二人は近づき、圧力をかけた。

「ふうっ、いいタイミングでしたね」
「状況がよく分からんが、そのようじゃのう」

 綾華はあぜんとして、二人を見返す。そして、彼がヘルメットを取ると驚愕した。

「は、羽根田翼? なんであなたがここに……!」
「その節はどうも、西野綾華さん」

 なぜ見合いした相手がここにいるのか綾華は理解できず、呆然とする。だが、背後から織人さんたちが走ってくるのに気づくと逃げようとした。

「おっと、そのままで頼みますよ」

 翼さんが捕まえた。両腕を拘束された綾華はもがくが、無駄だとわかったのか抵抗をやめる。

「おう、翼。花ちゃんも来てくれたのか」

 織人さんの姿を見て、二人はギョッとした。キングの格好で素顔を晒しているから。

「いろいろあったみたいだな」
「まあな。ちなみに、こいつが首謀者だ」

 綾華を顎で指した。
 
「なんなの、一体。どいつもこいつも寄ってたかって私をいじめて、何が楽しいのよ!」

 私たちは顔を見合わせ、再びへたり込んだ綾華を見下ろす。
 今、なんて言った?

「ふざけないで。さんざんいじめてきたのは綾華でしょ?」

 いかにも被害者ぶった態度がわざとらしく、見苦しく、ふてぶてしい。綾華への憎しみがめらめらと燃え上がる。

「謝りなさい。エミさんと格闘家の人たちにも。家族を人質にして借金まみれにして苦しめたことを、誠心誠意!」
「いやよ、私が悪いんじゃないもの」

 頭をブンブンと振り、拒絶した。

「……本気で言ってるの?」

 私も膝をつき、綾華と視線を合わせた。誰も口を出さず、見守っている。

「あなたでなければ、誰が悪いの?」
「……」

 ふと、私から目を逸らす。
 この女は息を吐くように嘘をつき、自分に都合の良い理屈で生きている。
 私を孤立させた時もそうだった。

「言ってみて。分かるように」
「偉そうに……!」

 悔しそうに顔を歪めるが、喚きはしなかった。
 いつの間にか、剛田や天空、負傷した男たちが集まっていた。猿渡も撮影を止めて、それぞれが恨めしそうに綾華を睨んでいる。

「しょ……しょうがないでしょ。だって私は、そういう風に育てられたんだもの。人をコントロールするのがお前の仕事だって。つまり、とにかく、あれもこれも全部パパのせいだし……そうよ、あの人が悪い。私だって被害者なんだから、謝る必要なんて……」

 その瞬間だった。
 長い間耐え続けてきた、張りつめた何かが、ブチギレた。

「ひあっ!!」

 綾華を殴った。
 拳を握りしめて思いっきり。
 至近距離からの、容赦ない一撃だった。

「ふぁっ、な、なにすんの……」
「うるさい! 黙れ! このクソ女!」

 綾華の襟首をつかみ、さらに打った。
 2発、3発、鼻血が噴き出たところで止められた。見なくてもわかる、織人さんだ。
 暴力なんて私らしくない。後悔すると知っているから。
 でも、どうしても許せない。

「いやあ、血が、血が……た、助けてぇ!」
「黙れって言ってんのよ!」

 両手で襟首を絞り上げ、がくがくと揺さぶる。自分のものとは思えないドスのきいた声と馬鹿力だった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

高嶺の花の高嶺さんに好かれまして。

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の低田悠真のクラスには『高嶺の花』と呼ばれるほどの人気がある高嶺結衣という女子生徒がいる。容姿端麗、頭脳明晰、品行方正な高嶺さんは男女問わずに告白されているが全て振っていた。彼女には好きな人がいるらしい。  ゴールデンウィーク明け。放課後にハンカチを落としたことに気付いた悠真は教室に戻ると、自分のハンカチの匂いを嗅いで悶える高嶺さんを見つける。その場で、悠真は高嶺さんに好きだと告白されるが、付き合いたいと思うほど好きではないという理由で振る。  しかし、高嶺さんも諦めない。悠真に恋人も好きな人もいないと知り、 「絶対、私に惚れさせてみせるからね!」  と高らかに宣言したのだ。この告白をきっかけに、悠真は高嶺さんと友達になり、高校生活が変化し始めていく。  大好きなおかずを作ってきてくれたり、バイト先に来てくれたり、放課後デートをしたり、朝起きたら笑顔で見つめられていたり。高嶺の花の高嶺さんとの甘くてドキドキな青春学園ラブコメディ!  ※2学期編4が完結しました!(2025.8.4)  ※お気に入り登録や感想、いいねなどお待ちしております。

You Could Be Mine ぱーとに【改訂版】

てらだりょう
恋愛
高身長・イケメン・優しくてあたしを溺愛する彼氏はなんだかんだ優しいだんなさまへ進化。 変態度も進化して一筋縄ではいかない新婚生活は甘く・・・はない! 恋人から夫婦になった尊とあたし、そして未来の家族。あたしたちを待つ未来の家族とはいったい?? You Could Be Mine【改訂版】の第2部です。 ↑後半戦になりますので前半戦からご覧いただけるとよりニヤニヤ出来るので是非どうぞ! ※ぱーといちに引き続き昔の作品のため、現在の状況にそぐわない表現などございますが、設定等そのまま使用しているためご理解の上お読みいただけますと幸いです。

借りてきたカレ

しじましろ
恋愛
都合の良い存在であるはずのレンタル彼氏に振り回されて…… あらすじ システムエンジニアの萩野みさをは、仕事中毒でゾンビのような見た目になるほど働いている。 人の良さにつけ込まれ、面倒な仕事を押しつけられたり、必要のない物を買わされたり、損ばかりしているが、本人は好きでやっていることとあまり気にしていない。 人並みに結婚願望はあるものの、三十歳過ぎても男性経験はゼロ。 しかし、レンタル彼氏・キキとの出会いが、そんな色の無いみさをの日常を大きく変えていく。 基本的にはカラッと明るいラブコメですが、生き馬の目を抜くIT企業のお仕事ものでもあるので、癖のあるサブキャラや意外な展開もお楽しみください!

管理人さんといっしょ。

桜庭かなめ
恋愛
 桐生由弦は高校進学のために、学校近くのアパート「あけぼの荘」に引っ越すことに。  しかし、あけぼの荘に向かう途中、由弦と同じく進学のために引っ越す姫宮風花と二重契約になっており、既に引っ越しの作業が始まっているという連絡が来る。  風花に部屋を譲ったが、あけぼの荘に空き部屋はなく、由弦の希望する物件が近くには一切ないので、新しい住まいがなかなか見つからない。そんなとき、 「責任を取らせてください! 私と一緒に暮らしましょう」  高校2年生の管理人・白鳥美優からのそんな提案を受け、由弦と彼女と一緒に同居すると決める。こうして由弦は1学年上の女子高生との共同生活が始まった。  ご飯を食べるときも、寝るときも、家では美少女な管理人さんといつもいっしょ。優しくて温かい同居&学園ラブコメディ!  ※特別編11が完結しました!(2025.6.20)  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。

泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。 でも今、確かに思ってる。 ―――この愛は、重い。 ------------------------------------------ 羽柴健人(30) 羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問 座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』 好き:柊みゆ 嫌い:褒められること × 柊 みゆ(28) 弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部 座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』 好き:走ること 苦手:羽柴健人 ------------------------------------------

こじらせ女子の恋愛事情

あさの紅茶
恋愛
過去の恋愛の失敗を未だに引きずるこじらせアラサー女子の私、仁科真知(26) そんな私のことをずっと好きだったと言う同期の宗田優くん(26) いやいや、宗田くんには私なんかより、若くて可愛い可憐ちゃん(女子力高め)の方がお似合いだよ。 なんて自らまたこじらせる残念な私。 「俺はずっと好きだけど?」 「仁科の返事を待ってるんだよね」 宗田くんのまっすぐな瞳に耐えきれなくて逃げ出してしまった。 これ以上こじらせたくないから、神様どうか私に勇気をください。 ******************* この作品は、他のサイトにも掲載しています。

処理中です...