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独身最後の贅沢
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「きゃっ」
突然、何かにぶつかった。はずみで尻もちをついた私に、
「おっ、すまない。大丈夫か」
と、誰かが声をかけた。
どうやら、前を歩いていた人にぶつかったらしい。顔に雪がふりかかるので、うつむいて走っていたせいだ。
私以外にも人がいたことに驚きながら、急いで立ち上がろうとした。
「す、すみません。こちらこそ体当たりしてしま……ひいっ?」
私は再び尻もちをつき、その体勢のまま後ずさった。びっくりしすぎて腰が抜けたのか、立つことができない。
「おい、しっかりしろ」
「きゃあああ、来ないで。妖怪!!」
自分でもぎょっとするほどの大声が出た。
鼓動の速さがハンパない。
私は一瞬で、恐怖とパニックに陥っていた。
「妖怪? 失礼なやつだな」
「だ、だって、か、顔が……」
突如として現れた、異様な生き物。
野性味あふれる筋肉質な体躯。一糸まとわぬ全裸で、しかもその顔は人間ではなく、猿!
どこからどう見ても、妖怪の『鵺』だ。
「顔? あー、これはマスクだよ。ははっ、だから驚いたのか」
「マ、マスク?」
妖怪が自らの頬をぺちぺちと叩いた。
よく見ると表面がツルツルしている。確かにマスクのようだが、私が驚いた原因はそれだけじゃない。
目の前に晒された、これまで見たことのない光景から目を逸らす。
「な、なんなんですか、あなたは、いったい……!?」
「なにって、人間だけど?」
「……」
とりあえず逃げなければ。
これはやっぱり妖怪だ。
人間であったとしてもまともではない。猿のマスク(だけ)を被り、雪の中に突っ立っているまともな人間がいるだろうか。
妖怪でないとしたら……
混乱する私の頭に、最悪の答えが浮かんだ。
「ああ、そういえば素っ裸だったな」
マスクから漏れるのは若い男の声。私は身の危険を感じてぶるぶる震えた。
しかし腰が立たず、ひたすら後ずさりするのみ。
「悪い悪い。でも別に、怪しいもんじゃないよ。ほら、もう見てもいいぞ」
恐る恐る目を戻す私に、彼は片手で前を隠しつつ、悪びれもせず言い放った。裸を見られて平然としていられるのは、変質者だからだ。
「ど、どう見たって怪しいでしょう。こんなところで、そんな格好して、観光客を襲うなんて……!」
「こんなところ?」
変質者の声が低くなる。
つい感情的に言い返してしまったことを、私はすぐに後悔した。ここはホテルから遠く離れた場所で、しかも吹雪のような悪天候。
大声で助けを呼んでも、誰も来ないだろう。
「あのさ、何か勘違いしてない?」
「ひいっ!」
変質者が近づいてくる。泣きそうになりながら、必死で後ずさった。
「落ち着けって。ていうか、もしかして君、俺のこと知らないの? 俺は……」
「やめて、来ないで! へんたーーーーーい!!」
恐怖が限界に達した。
どうしてこんな目に遭うの? せっかくの旅行なのに。独身最後の、贅沢で自由な時間を過ごすはずだったのに。
「……せめて、王子様と恋をしてから死にたかった…………」
意識が途切れる寸前、私は涙をこぼし、つぶやいていた。
突然、何かにぶつかった。はずみで尻もちをついた私に、
「おっ、すまない。大丈夫か」
と、誰かが声をかけた。
どうやら、前を歩いていた人にぶつかったらしい。顔に雪がふりかかるので、うつむいて走っていたせいだ。
私以外にも人がいたことに驚きながら、急いで立ち上がろうとした。
「す、すみません。こちらこそ体当たりしてしま……ひいっ?」
私は再び尻もちをつき、その体勢のまま後ずさった。びっくりしすぎて腰が抜けたのか、立つことができない。
「おい、しっかりしろ」
「きゃあああ、来ないで。妖怪!!」
自分でもぎょっとするほどの大声が出た。
鼓動の速さがハンパない。
私は一瞬で、恐怖とパニックに陥っていた。
「妖怪? 失礼なやつだな」
「だ、だって、か、顔が……」
突如として現れた、異様な生き物。
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どこからどう見ても、妖怪の『鵺』だ。
「顔? あー、これはマスクだよ。ははっ、だから驚いたのか」
「マ、マスク?」
妖怪が自らの頬をぺちぺちと叩いた。
よく見ると表面がツルツルしている。確かにマスクのようだが、私が驚いた原因はそれだけじゃない。
目の前に晒された、これまで見たことのない光景から目を逸らす。
「な、なんなんですか、あなたは、いったい……!?」
「なにって、人間だけど?」
「……」
とりあえず逃げなければ。
これはやっぱり妖怪だ。
人間であったとしてもまともではない。猿のマスク(だけ)を被り、雪の中に突っ立っているまともな人間がいるだろうか。
妖怪でないとしたら……
混乱する私の頭に、最悪の答えが浮かんだ。
「ああ、そういえば素っ裸だったな」
マスクから漏れるのは若い男の声。私は身の危険を感じてぶるぶる震えた。
しかし腰が立たず、ひたすら後ずさりするのみ。
「悪い悪い。でも別に、怪しいもんじゃないよ。ほら、もう見てもいいぞ」
恐る恐る目を戻す私に、彼は片手で前を隠しつつ、悪びれもせず言い放った。裸を見られて平然としていられるのは、変質者だからだ。
「ど、どう見たって怪しいでしょう。こんなところで、そんな格好して、観光客を襲うなんて……!」
「こんなところ?」
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つい感情的に言い返してしまったことを、私はすぐに後悔した。ここはホテルから遠く離れた場所で、しかも吹雪のような悪天候。
大声で助けを呼んでも、誰も来ないだろう。
「あのさ、何か勘違いしてない?」
「ひいっ!」
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「落ち着けって。ていうか、もしかして君、俺のこと知らないの? 俺は……」
「やめて、来ないで! へんたーーーーーい!!」
恐怖が限界に達した。
どうしてこんな目に遭うの? せっかくの旅行なのに。独身最後の、贅沢で自由な時間を過ごすはずだったのに。
「……せめて、王子様と恋をしてから死にたかった…………」
意識が途切れる寸前、私は涙をこぼし、つぶやいていた。
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