6 / 198
強引なお誘い
2
しおりを挟む
とにかく、私が気を失ったあと、誰かが助けてくれたのだ。
彼はさっき、私どもがお運びしたと言った。ということは、変質者に気づいて私を救い、ここまで運んでくれたのはホテルの従業員だ。
警備の人とか、雪かきのスタッフとか。
それなら、お詫びするのはこちらである。
「私こそ、皆さんにご迷惑をかけてしまい、すみません。それで、変質者はどうなりましたか? 警察に通報は」
「えっ?」
二人とも目を丸くした。
なぜか、ずいぶんと狼狽した様子。
「へ、変質者については、大丈夫でございます。こちらで処理しましたので、どうかご安心を」
総支配人が微笑みを浮かべる。なんだかぎこちなく見えるのは、気のせいだろうか。
だが、処理というからには警察に通報、あるいは既に逮捕されたということ。変質者については、もう心配しなくていいのだ。
「分かりました。いろいろと、ありがとうございます」
ホッとしたら、急に力が抜けて身体がふらついた。関根さんが慌てて私を支え、ベッドに横たわらせる。
「私を助けてくださったのは、従業員の方ですよね。ありがとうとお伝えください」
「は、はい。あの、大月様。実は……」
「?」
まだなにか問題が?
関根さんの緊張した顔つきを見て、私は不安になる。
しかし彼女が口にしたのは、変質者についてではなく……
「実は本日、三保コンフォートのCEOが来館しております。大月様の件を報告したところ、直接お詫びをしたいとのことで、できればご夕食をともにしたいと申しておりますが、いかがいたしましょう」
「はい……?」
三保コンフォートのCEO。
つまり、ホテルの経営者であり最高責任者だ。
突然の申し出に、私は再びがばりと起き上がった。
「いえいえいえ、と、とんでもないです。私ごときにそんな、偉い方がお詫びされるなんて。お気持ちだけで十分ですとお伝えください」
本当に、心から遠慮した。迷惑をかけたのは私……というか、あの変態男なのに、偉い方に謝罪されては困ってしまう。
「左様でございますか。残念ですが、無理をされてはお体に障りますし、ひとまずそのようにお伝えいたします」
関根さんは、なぜか安堵の表情になった。横で見守る総支配人はハンカチを持ち、しきりと汗を拭いている。
どうやら彼らは、CEOと私が食事するのを望んでいない。
なぜなのかは、よく分からないけれど。
「ご夕食については、後ほどご相談させていただきますので、とにかく今は、ごゆっくりとお休みください」
関根さんが申しわけなさそうに言い置き、総支配人とともに部屋を出ていった。
私は息をついて、ベッドにゆっくりと倒れる。
なんてことだろう。
最高の旅になるはずが、とんだ災難に見舞われた。私はつくづく運のない女なのだ。
「頭にくる。もう、あの変態男め!」
ともあれ、無事だったのだから良しとしよう。少し休めば調子が戻るだろうし、旅をリスタートできる。予定どおり、憧れのスイートルームと自由を満喫するのだ。
瞼を閉じて、休むことに専念した。
彼はさっき、私どもがお運びしたと言った。ということは、変質者に気づいて私を救い、ここまで運んでくれたのはホテルの従業員だ。
警備の人とか、雪かきのスタッフとか。
それなら、お詫びするのはこちらである。
「私こそ、皆さんにご迷惑をかけてしまい、すみません。それで、変質者はどうなりましたか? 警察に通報は」
「えっ?」
二人とも目を丸くした。
なぜか、ずいぶんと狼狽した様子。
「へ、変質者については、大丈夫でございます。こちらで処理しましたので、どうかご安心を」
総支配人が微笑みを浮かべる。なんだかぎこちなく見えるのは、気のせいだろうか。
だが、処理というからには警察に通報、あるいは既に逮捕されたということ。変質者については、もう心配しなくていいのだ。
「分かりました。いろいろと、ありがとうございます」
ホッとしたら、急に力が抜けて身体がふらついた。関根さんが慌てて私を支え、ベッドに横たわらせる。
「私を助けてくださったのは、従業員の方ですよね。ありがとうとお伝えください」
「は、はい。あの、大月様。実は……」
「?」
まだなにか問題が?
関根さんの緊張した顔つきを見て、私は不安になる。
しかし彼女が口にしたのは、変質者についてではなく……
「実は本日、三保コンフォートのCEOが来館しております。大月様の件を報告したところ、直接お詫びをしたいとのことで、できればご夕食をともにしたいと申しておりますが、いかがいたしましょう」
「はい……?」
三保コンフォートのCEO。
つまり、ホテルの経営者であり最高責任者だ。
突然の申し出に、私は再びがばりと起き上がった。
「いえいえいえ、と、とんでもないです。私ごときにそんな、偉い方がお詫びされるなんて。お気持ちだけで十分ですとお伝えください」
本当に、心から遠慮した。迷惑をかけたのは私……というか、あの変態男なのに、偉い方に謝罪されては困ってしまう。
「左様でございますか。残念ですが、無理をされてはお体に障りますし、ひとまずそのようにお伝えいたします」
関根さんは、なぜか安堵の表情になった。横で見守る総支配人はハンカチを持ち、しきりと汗を拭いている。
どうやら彼らは、CEOと私が食事するのを望んでいない。
なぜなのかは、よく分からないけれど。
「ご夕食については、後ほどご相談させていただきますので、とにかく今は、ごゆっくりとお休みください」
関根さんが申しわけなさそうに言い置き、総支配人とともに部屋を出ていった。
私は息をついて、ベッドにゆっくりと倒れる。
なんてことだろう。
最高の旅になるはずが、とんだ災難に見舞われた。私はつくづく運のない女なのだ。
「頭にくる。もう、あの変態男め!」
ともあれ、無事だったのだから良しとしよう。少し休めば調子が戻るだろうし、旅をリスタートできる。予定どおり、憧れのスイートルームと自由を満喫するのだ。
瞼を閉じて、休むことに専念した。
26
あなたにおすすめの小説
わたしの愉快な旦那さん
川上桃園
恋愛
あまりの辛さにブラックすぎるバイトをやめた。最後塩まかれたけど気にしない。
あ、そういえばこの店入ったことなかったな、入ってみよう。
「何かお探しですか」
その店はなんでも取り扱うという。噂によると彼氏も紹介してくれるらしい。でもそんなのいらない。彼氏だったらすぐに離れてしまうかもしれないのだから。
店員のお兄さんを前にてんぱった私は。
「旦那さんが欲しいです……」
と、斜め上の回答をしてしまった。でもお兄さんは優しい。
「どんな旦那さんをお望みですか」
「え、えっと……愉快な、旦那さん?」
そしてお兄さんは自分を指差した。
「僕が、お客様のお探しの『愉快な旦那さん』ですよ」
そこから始まる恋のお話です。大学生女子と社会人男子(御曹司)。ほのぼのとした日常恋愛もの
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?
藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。
結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの?
もう、みんな、うるさい!
私は私。好きに生きさせてよね。
この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。
彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。
私の人生に彩りをくれる、その人。
その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。
⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。
⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。
You Could Be Mine ぱーとに【改訂版】
てらだりょう
恋愛
高身長・イケメン・優しくてあたしを溺愛する彼氏はなんだかんだ優しいだんなさまへ進化。
変態度も進化して一筋縄ではいかない新婚生活は甘く・・・はない!
恋人から夫婦になった尊とあたし、そして未来の家族。あたしたちを待つ未来の家族とはいったい??
You Could Be Mine【改訂版】の第2部です。
↑後半戦になりますので前半戦からご覧いただけるとよりニヤニヤ出来るので是非どうぞ!
※ぱーといちに引き続き昔の作品のため、現在の状況にそぐわない表現などございますが、設定等そのまま使用しているためご理解の上お読みいただけますと幸いです。
売れ残り同士、結婚します!
青花美来
恋愛
高校の卒業式の日、売り言葉に買い言葉でとある約束をした。
それは、三十歳になってもお互いフリーだったら、売れ残り同士結婚すること。
あんなのただの口約束で、まさか本気だなんて思っていなかったのに。
十二年後。三十歳を迎えた私が再会した彼は。
「あの時の約束、実現してみねぇ?」
──そう言って、私にキスをした。
☆マークはRシーン有りです。ご注意ください。
他サイト様にてRシーンカット版を投稿しております。
君がたとえあいつの秘書でも離さない
花里 美佐
恋愛
クリスマスイブのホテルで偶然出会い、趣味が合ったことから強く惹かれあった古川遥(27)と堂本匠(31)。
のちに再会すると、実はライバル会社の御曹司と秘書という関係だった。
逆風を覚悟の上、惹かれ合うふたりは隠れて交際を開始する。
それは戻れない茨の道に踏み出したも同然だった。
遥に想いを寄せていた彼女の上司は、仕事も巻き込み匠を追い詰めていく。
傷痕~想い出に変わるまで~
櫻井音衣
恋愛
あの人との未来を手放したのはもうずっと前。
私たちは確かに愛し合っていたはずなのに
いつの頃からか
視線の先にあるものが違い始めた。
だからさよなら。
私の愛した人。
今もまだ私は
あなたと過ごした幸せだった日々と
あなたを傷付け裏切られた日の
悲しみの狭間でさまよっている。
篠宮 瑞希は32歳バツイチ独身。
勝山 光との
5年間の結婚生活に終止符を打って5年。
同じくバツイチ独身の同期
門倉 凌平 32歳。
3年間の結婚生活に終止符を打って3年。
なぜ離婚したのか。
あの時どうすれば離婚を回避できたのか。
『禊』と称して
後悔と反省を繰り返す二人に
本当の幸せは訪れるのか?
~その傷痕が癒える頃には
すべてが想い出に変わっているだろう~
偽りの愛に囚われた私と、彼が隠した秘密の財産〜最低義母が全てを失う日
紅葉山参
恋愛
裕福なキョーヘーと結婚し、誰もが羨む生活を手に入れたはずのユリネ。しかし、待っていたのはキョーヘーの母親、アイコからの陰湿なイジメでした。
「お前はあの家にふさわしくない」毎日浴びせられる罵倒と理不尽な要求。愛する旦那様の助けもなく、ユリネの心は少しずつ摩耗していきます。
しかし、ある日、ユリネは見てしまうのです。義母アイコが夫キョーヘーの大切な財産に、人知れず手をつけている決定的な証拠を。
それは、キョーヘーが将来ユリネのためにと秘密にしていた、ある会社の株券でした。
最低なアイコの裏切りを知った時、ユリネとキョーヘーの関係、そしてこの偽りの家族の運命は一変します。
全てを失うアイコへの痛快な復讐劇が、今、幕を開けるのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる