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強引なお誘い
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午後7時ちょうどに、関根さんが迎えにきた。
ドアを開ける前に、もう一度鏡を覗いて身だしなみをチェックする。
お気に入りのワンピースは、色は地味だが可愛らしく上品なデザインだ。ミディアムヘアはアップにして、真珠の髪飾りでまとめておいた。
(メイクはいつもどおり簡単だけど、いいよね)
額の怪我は本当にかすり傷ていどだった。あとが残るほどでもないが、心配して大げさに手当てしたのだろう。
ガーゼをはがして普通にメイクすることができた。
とりあえず、偉い人と食事するための体裁が整い、ホッとする。
「すみません、お待たせしました」
私がドアを開けると、関根さんが一瞬「おやっ?」という顔をした。
しかしすぐに笑みを浮かべて、
「体調が戻られたようで、安心しました。それでは、会場へご案内いたします」
エレベーターへと先導し、一緒に乗り込んだ。
「えっ?」
関根さんがパネルにカードをかざし、5階のボタンを押すのを見て、私は戸惑う。
「あの、レストランは別棟にあるんじゃ……」
1階のロビーから別棟に抜ける通路があるはず。レストランと温泉は別棟にあると、チェックインのときに案内されている。
「ご夕食は、特別室Sのダイニングルームにご用意させていただきました」
「??」
特別室Sは、5階フロアを占有する最高級のスイートルームだ。
「CEOは、5階の特別室にお泊りなのですか?」
私の問いに、関根さんがゆるゆると首を振る。
「いいえ。本日、特別室Sは空室になっております。ご予約のお客様が直前にキャンセルされたためですが、『それなら空いた部屋を食事会場にしよう』と、CEOが指定したのです」
「で、では、特別室で二人きり……ってことですか?」
「はい。レストランよりも、ゆったりと食事ができるだろうとのご配慮で」
私は、いざとなって不安に襲われる。
やはり、どう考えてもおかしい。ホテルの敷地内で災難に遭ったとはいえ、VIPでもない客をCEOが食事に招いて詫びるなんて、大げさだ。
なんだか、別の意図が感じられる。
エレベーターが上昇し、あっという間に5階に到着。関根さんが開いた扉を押さえて私が降りるのを待つが、足が動かなかった。
ホールの奥に特別室Sの玄関が見える。
「大月様?」
「あ、あの…‥私、やっぱり、ご遠慮したいような気がしてきました」
三保コンフォートのCEOがどんな人なのか知らない。たぶん、父親と変わらない年齢のおじさんだろう。しかも強引な性格の。
そんな人とホテルの部屋で二人きりで食事するのは躊躇われる。考えすぎかもしれないが、危ない気がした。
ていうか、はっきり言って怖い。
「ああ、申し訳ございません。そうですよね」
関根さんが察した顔になった。
ドアを開ける前に、もう一度鏡を覗いて身だしなみをチェックする。
お気に入りのワンピースは、色は地味だが可愛らしく上品なデザインだ。ミディアムヘアはアップにして、真珠の髪飾りでまとめておいた。
(メイクはいつもどおり簡単だけど、いいよね)
額の怪我は本当にかすり傷ていどだった。あとが残るほどでもないが、心配して大げさに手当てしたのだろう。
ガーゼをはがして普通にメイクすることができた。
とりあえず、偉い人と食事するための体裁が整い、ホッとする。
「すみません、お待たせしました」
私がドアを開けると、関根さんが一瞬「おやっ?」という顔をした。
しかしすぐに笑みを浮かべて、
「体調が戻られたようで、安心しました。それでは、会場へご案内いたします」
エレベーターへと先導し、一緒に乗り込んだ。
「えっ?」
関根さんがパネルにカードをかざし、5階のボタンを押すのを見て、私は戸惑う。
「あの、レストランは別棟にあるんじゃ……」
1階のロビーから別棟に抜ける通路があるはず。レストランと温泉は別棟にあると、チェックインのときに案内されている。
「ご夕食は、特別室Sのダイニングルームにご用意させていただきました」
「??」
特別室Sは、5階フロアを占有する最高級のスイートルームだ。
「CEOは、5階の特別室にお泊りなのですか?」
私の問いに、関根さんがゆるゆると首を振る。
「いいえ。本日、特別室Sは空室になっております。ご予約のお客様が直前にキャンセルされたためですが、『それなら空いた部屋を食事会場にしよう』と、CEOが指定したのです」
「で、では、特別室で二人きり……ってことですか?」
「はい。レストランよりも、ゆったりと食事ができるだろうとのご配慮で」
私は、いざとなって不安に襲われる。
やはり、どう考えてもおかしい。ホテルの敷地内で災難に遭ったとはいえ、VIPでもない客をCEOが食事に招いて詫びるなんて、大げさだ。
なんだか、別の意図が感じられる。
エレベーターが上昇し、あっという間に5階に到着。関根さんが開いた扉を押さえて私が降りるのを待つが、足が動かなかった。
ホールの奥に特別室Sの玄関が見える。
「大月様?」
「あ、あの…‥私、やっぱり、ご遠慮したいような気がしてきました」
三保コンフォートのCEOがどんな人なのか知らない。たぶん、父親と変わらない年齢のおじさんだろう。しかも強引な性格の。
そんな人とホテルの部屋で二人きりで食事するのは躊躇われる。考えすぎかもしれないが、危ない気がした。
ていうか、はっきり言って怖い。
「ああ、申し訳ございません。そうですよね」
関根さんが察した顔になった。
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