一億円の花嫁

藤谷 郁

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強引なお誘い

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「大月様は若い女性でいらっしゃいます。不安になられるのも無理はありません」
「えっ!? いえ、別にそういうことでは……!」

 つい過剰反応してしまった。
 焦る私に、関根さんが分かりますと言うように、うんうんとうなずく。

「ご安心ください。その辺りは気遣うようにとCEO自らスタッフに命じております。ダイニングのドアは開放し、お食事中は給仕の者が出入りするため密室状態にはなりません」
「そ、そうなんですね」

 密室に二人きりではない、ということ。

 あからさまに安堵する私を見て、関根さんが微笑みを浮かべる。
 しかし、ふと眉を曇らせて、

「ただ、あの方は少々エキセントリックなところがありまして……」
「え、なんですか?」

 声が小さくて、よく聞こえない。私が覗き込むようにすると、彼女はハッとなった。

「いえ、その……予測不可能とでも申しましょうか、もしかすると、びっくりされることがあるやもしれません」
「?」

 どういう意味だろう。
 疑問の目を向けるが、彼女は答えを誤魔化すかのように笑みを浮かべた。さっきよりも明るく、そしてぎこちなく??

「とにかく、ご安心ください。CEOが紳士であることは間違いございませんので! ささ、こちらへどうぞ」
「は、はあ」

 よく分からないが、CEOという人はかなり変わった人のようだ。

 やっぱり断るべきだった?

 しかし、時すでに遅し。
 私は促されるまま、特別室Sの玄関を潜っていた。



 ホテル最上階に位置するスイートルームは、私が泊まる特別室よりも、はるかにゆったりとした空間だった。

 宿泊料が一桁違うのもうなずける。

 一言で表すなら、贅を尽くした部屋。インテリアから小物に至るまで、一つ一つにお金をかけているのがわかる。

 高貴な人々の世界に迷い込んだという心地だ。

(この部屋こそが、ホテル「まゆき」最高級のスイートルームなのね。私がずっと、憧れていた……)

「大月様。大丈夫ですか?」

 状況も忘れて夢見心地になる私に、関根さんが心配そうに声をかけた。

「あ、す、すみません。あまりにも素晴らしいお部屋なので、見とれてしまいました」
「そうなんですね。体調が悪いわけでは……」
「いえ、大丈夫です」

 関根さんはなおも心配そうにするが、前を向いて足を進めた。

 ガラス張りの窓に雪が舞い、ピアノ曲が静かに流れる。優雅さにあふれたリビングを抜けた奥に、ダイニングルームがあるらしい。

「こちらです」

 両開きのドアの前まで来て、関根さんがノックする。

「失礼します。大月様をお連れしました」
「ああ、どうぞ」

 中から返事がして、ドキッとする。
 ずいぶんと若々しい声に聞こえたが、気のせいだろうか。
 どうやら私は、かなり緊張している。

 関根さんがドアを大きく開けて、ストッパーで固定した。

「大月様、お入りください」
「は、はい」

 関根さんに促され、恐る恐る入室した。

 天井が高く、窓も大きい。リビングに負けないくらい広々としている。
 部屋の中央に鎮座するのは立派なダイニングテーブル。向き合って置かれた椅子の片方に座るのは……

「えっ……?」

 その人が立ち上がった。
 私は動揺し、思わず関根さんを振り返る。
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