一億円の花嫁

藤谷 郁

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新たな見合い話

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「ちよっと、遅いじゃないの。何度電話しても出ないし、ずうっと待ってたのよ?」

 自宅の玄関を入ったとたん、母が廊下をすっ飛んできた。普段おっとりした人なので、少しびっくりする。

「ご、ごめんなさい。マナーモードにしてたから、気付かなくて」
「ああ、もう、そんなことどうでもいいわ。とにかく早くリビングに来て。お父様がお見合いのことで、あなたに確認したいことがあるのよ。もちろん私もね」
「えっ……」

 帰ったばかりなのに、早速その話?
 ただでさえ落ちている気分が、さらに落下していく。
 父も母も、私の都合などどうでも良いのだ。いつものことだけれど、今日は身に沁みて、悲しい。

 ――断る勇気を持つのじゃ

 花ちゃんの声が耳にこだまする。
 でもやっぱり、そんな勇気は湧いてこない。身も心も疲れ果てて、エネルギーも空っぽである。

「分かりました。着替えてから、すぐに行きます」

 力なく返事をして、階段を上がった。

 私の部屋は二階の北側の、隅っこにある。見栄っ張りの父が大きな家を建てたので、部屋数だけは多いが、そのうち最も小さな部屋をあてがわれた。

 お金が大好きな父は、人間の価値を収入の額で計る。つまり、稼ぎの少ない私には、それなりの場所しか与えられない。

 自室の床面積は、姉の部屋の二分の一。つまり、商社のエリート社員である姉と、地元の小さな会社勤めの私とでは、待遇が違うのだ。

 でも、仕方がない。

 父が私を冷遇するのは、年収の問題のみならず、昔、家族に迷惑をかけてしまったのも原因だから。

(無理だよ、花ちゃん。私はもう、お見合い結婚するしかないの)

 この家を出て、別の家に移る。
 おそらく、行った先でも自由がないだろう。見合い相手は、ワンマンな性格と、吝嗇で有名な人である。
 不動産業界では、父に負けず劣らず評判が悪いと、姉が言っていた。
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