一億円の花嫁

藤谷 郁

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再会

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 12月最初の日曜日。
 ついに、お見合い当日である。今日は気温が低いものの、一日晴れるとの天気予報だ。

 私は早朝から美容院に出掛けて、髪をセットし、着物を着付けてもらった。

 成人式で着て以来、箪笥に仕舞われたままの振袖である(実際は、年に一度は虫干しするなど、手入れしてはいるけれど)

 落ちこぼれの私でも、着物だけは姉と同じくらい良いものを作ってもらえた。母が着物に凝る人なので、仕立てる時に、妥協できなかったのだ。

 牡丹の柄は、高貴でありながら可愛らしく、私も気に入っている。

(良かった。由比さんとお見合いするなら、上等な着物でなきゃ、失礼だものね)

 ホテルに向かうタクシーの中で、あれこれ考えながら頬を染める。
 相手が由比さんと決まったわけではないが、私はずっとドキドキしっぱなしで、彼のことばかり考えてしまう。

(きっと、由比さんだよ。だって、他に当てはまる人がいないもの)

 自分に言い聞かせるように、つぶやいた。ヒロインになるという意志が、揺らがないように。奇跡を信じるのだ。


 もうすぐホテルに到着する。
 車窓から外を覗くと、休日の街がどこか楽しげに見えた。
 商業ビルの広場に、大きなクリスマスツリーが飾られている。本格的なクリスマスシーズンを迎えて、街も人もキラキラと輝いているのだ。

 私は、由比さんと過ごした一日を思い出す。雪景色の観光地を巡り、夜はスキー場のゴンドラに乗り、散策路を寄り添って歩いた。それから……彼に告白されて、口づけを交わしたのだ。

 あの季節が再び街に降りてきて、もう一度、夢を見られるかもしれない。いいえ、夢ではなく、今度は現実になって、由比さんと私は……

「お客さん、着きましたよ」
「えっ!?」

 運転手さんの声で、我に返った。
 いつの間にか、ホテルのロータリーにタクシーが停まっている。


「すみません、ありがとうございました」

 タクシーを降りると、冷たい風が頬を刺した。急いでホテルに入ろうとするが、着物に慣れないのでモタモタしてしまう。

「ふう……寒かった。えっと、最上階のラウンジで待ち合わせだから、まずはエレベーターに乗らなきゃ」

 早めに出たので、約束の時間まで余裕がある。私は、とにかく落ち着いて行動しようと思い、ゆっくりとした歩調でロビーを横切り、奥にあるエレベーターホールへと進んだ。

 ロビーは賑やかだった。見ると、大階段で撮影会が行われている。ポーズを取るのは、ウエディングドレスとタキシードの、若いカップルだ。私は、このホテルが結婚式場でもあるのを思い出した。

(花嫁さん、すごく綺麗……いいなあ)

 カップルの姿に自分と由比さんを重ねてしまい、一人で照れた。
 まだお見合いの前なのに、というか、まだ相手が由比さんと決まったわけではないのに、私は既に、その気になっている。

 どちらに転ぶか分からないけれど、私の人生が決定づけられる、今日はまさに、運命の日になるだろう。

(絶対に、由比さんが来る。大丈夫、大丈夫)



 エレベーターを降りて、廊下をまっすぐ行くと、ラウンジの入口があった。

 名前を告げて受付を済ませ、先方が指定したという奥の席に座る。
 案内役のスタッフが飲み物をすすめてきたが、遠慮した。緊張のせいか喉が渇くけれど、水分を摂りすぎてトイレが近くなっては困る。
 着物なので、いろいろと気を使うのだ。

 最上階ラウンジはVIP専用とのこと。人が少なく、雰囲気も落ち着いている。
 静かすぎる気もするが、ラグジュアリーホテルは、こういったものかもしれない。

「もうすぐ、由比さんに会えるのね」

 もう二度と会えないと思っていたのに、まさか、お見合いすることになるなんて。

 あの日、私が望まぬ結婚の話をしたから、由比さんはすぐにプランを練り、素早く動いてくれたのだ。私に直接言わなかったのは、慎重にことを運ぶためだろう。

 だけど、どうしてそこまでしてくれるの?

 なぜ私を選んでくれたのか、やっぱり不思議だった。彼の周りには、もっと相応しい女性がいるはずなのに。
 容姿端麗、頭脳明晰、生まれながらの王子様みたいな彼が、求めてくれる理由は?

 甘い囁きが、耳に蘇る。


 私は、あなたのことが可愛くて、愛しい――
 あなたが愛しくて、あなたの望みを叶えたいと思ったのです――


 私の望み。
 それは、王子様との恋。
 なぜか彼には、その気持ちが伝わっていた。

 囁きに嘘はなく、本当に私を愛しいと感じて、選んでくれたの?


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