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アクションスター
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【華麗なる一撃~最強『キング』のチャレンジ~世界一のアクションスターは俺だ!!】
一年前に開設された『キング』のチャンネル登録者数は、現在2380人。多いのか少ないのか、私にはよく分からないが、本人は有名になったつもりらしい。
熱心な視聴者が多いようで、コメント欄に熱い応援が並んでいる。
関根さんの解説によると、『キング』(年齢不詳)はアクション映画のヒーローに憧れる謎の格闘家。夢はカンフースターとしてハリウッドデビューすること。
なんでも、子どもの頃に通った空手道場の先生が見せてくれた香港映画がものすごくかっこよくて、主演のタイガー•ウォンというスターに夢中になったのがきっかけとか。
なんだか、花ちゃんみたいなエピソードである。
とにかく彼は、世界一のアクションスターを夢見るウーチューバ―であり、ハリウッドからオファーが来るまで配信を続ける……というコンセプトなのだ。
更新は週に一度。
マッチョ自慢、派手な格闘技の披露、過酷な訓練のレクチャーなど、動画内で行っている。
お決まりのスタイルは猿のマスクにピチピチの黒のタイツで、上半身裸。
マスクを被るのは正体を隠すためだが、不気味な雰囲気がカッコいいとの理由もあるそうな。
『強く、カッコよく、カリスマ性にあふれたスターになるぜ!!』
降りしきる雪の中で、彼は叫ぶ。汗びっしょりになって鍛錬に励む姿は、とても暑苦しい。鍛え上げられた筋肉を見せつける、自信にあふれたポーズは、見ているほうが恥ずかしくなる。
信じられない。
信じたくないけれど、このウーチューバ―が由比さんであるのは現実。
「無理……どう考えても、私には無理」
レストランに向かう途中、何度もつぶやく私を、関根さんが心配そうにうかがってきた。
「本当に、申しわけございません。なぜ大月様に執着するのか、私にも、大野にすら教えてくれなくて……それが分からなくては、説得のしようがなく」
レストランの入り口まで来ると、彼女は悔しそうに唇を噛んだ。
辛そうな表情を見て、私は、逆に申しわけない気持ちになる。彼女も、大野さんも、いつもこんな風に、由比さんに振り回されているのだろう。
このお見合いも、反対してくれたに違いない。
私の気の弱さや、断れない性格を、きっと見抜いている。
しっかりしなくては……
思い描いた展開と、かなり違ってしまったけれど、ここまで来たのは私である。
自分で、ちゃんと断るべきだ。
キングは由比さんであって、由比さんではない。あの人と結婚して生活をともにするなど不可能。生理的に、無理。
今こそ、断る勇気を出さなければ。
「関根さん、いろいろとお世話になりました。私、せいいっぱい頑張りますので、心配しないでください」
「大月様……」
「ここからは一人で大丈夫です。由比さんにきちんと、お話ししてきますね」
関根さんはもう何も言わず、レストランのドアを開けてくれた。
「ありがとうございます」
「ご健闘を、お祈りいたします」
中に入ると、ドアがそっと閉められた。
高級感あふれる中華レストラン。静かに流れる美しい調べは、胡弓だろうか。貸し切りなので、他の客はいない。
中央のテーブルに由比さんが座り、私を見るとすぐに立ち上がり、近づいてきた。猿のマスクは被らず、髪をきれいに整えて、スタイリッシュなスーツ姿である。
(由比さん……)
輝く容姿。スマートなたたずまい。どこからどう見ても、王子様なのに。
(あなたは本当に、キングなのですか?)
動画とのギャップに戸惑いながら、私も前に進んだ。
一年前に開設された『キング』のチャンネル登録者数は、現在2380人。多いのか少ないのか、私にはよく分からないが、本人は有名になったつもりらしい。
熱心な視聴者が多いようで、コメント欄に熱い応援が並んでいる。
関根さんの解説によると、『キング』(年齢不詳)はアクション映画のヒーローに憧れる謎の格闘家。夢はカンフースターとしてハリウッドデビューすること。
なんでも、子どもの頃に通った空手道場の先生が見せてくれた香港映画がものすごくかっこよくて、主演のタイガー•ウォンというスターに夢中になったのがきっかけとか。
なんだか、花ちゃんみたいなエピソードである。
とにかく彼は、世界一のアクションスターを夢見るウーチューバ―であり、ハリウッドからオファーが来るまで配信を続ける……というコンセプトなのだ。
更新は週に一度。
マッチョ自慢、派手な格闘技の披露、過酷な訓練のレクチャーなど、動画内で行っている。
お決まりのスタイルは猿のマスクにピチピチの黒のタイツで、上半身裸。
マスクを被るのは正体を隠すためだが、不気味な雰囲気がカッコいいとの理由もあるそうな。
『強く、カッコよく、カリスマ性にあふれたスターになるぜ!!』
降りしきる雪の中で、彼は叫ぶ。汗びっしょりになって鍛錬に励む姿は、とても暑苦しい。鍛え上げられた筋肉を見せつける、自信にあふれたポーズは、見ているほうが恥ずかしくなる。
信じられない。
信じたくないけれど、このウーチューバ―が由比さんであるのは現実。
「無理……どう考えても、私には無理」
レストランに向かう途中、何度もつぶやく私を、関根さんが心配そうにうかがってきた。
「本当に、申しわけございません。なぜ大月様に執着するのか、私にも、大野にすら教えてくれなくて……それが分からなくては、説得のしようがなく」
レストランの入り口まで来ると、彼女は悔しそうに唇を噛んだ。
辛そうな表情を見て、私は、逆に申しわけない気持ちになる。彼女も、大野さんも、いつもこんな風に、由比さんに振り回されているのだろう。
このお見合いも、反対してくれたに違いない。
私の気の弱さや、断れない性格を、きっと見抜いている。
しっかりしなくては……
思い描いた展開と、かなり違ってしまったけれど、ここまで来たのは私である。
自分で、ちゃんと断るべきだ。
キングは由比さんであって、由比さんではない。あの人と結婚して生活をともにするなど不可能。生理的に、無理。
今こそ、断る勇気を出さなければ。
「関根さん、いろいろとお世話になりました。私、せいいっぱい頑張りますので、心配しないでください」
「大月様……」
「ここからは一人で大丈夫です。由比さんにきちんと、お話ししてきますね」
関根さんはもう何も言わず、レストランのドアを開けてくれた。
「ありがとうございます」
「ご健闘を、お祈りいたします」
中に入ると、ドアがそっと閉められた。
高級感あふれる中華レストラン。静かに流れる美しい調べは、胡弓だろうか。貸し切りなので、他の客はいない。
中央のテーブルに由比さんが座り、私を見るとすぐに立ち上がり、近づいてきた。猿のマスクは被らず、髪をきれいに整えて、スタイリッシュなスーツ姿である。
(由比さん……)
輝く容姿。スマートなたたずまい。どこからどう見ても、王子様なのに。
(あなたは本当に、キングなのですか?)
動画とのギャップに戸惑いながら、私も前に進んだ。
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