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横浜デート
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人になにかを頼まれた時、私はNOと言えない。孤独だったあの頃を思い出すから。
今でも時々夢を見て、うなされる。
毎日ひとりぼっちで、うつむいて歩いていた。感情を殺して、みんなのじゃまにならないよう、卒業までの日々を過ごした。
私が悪かったのだ。もっといい方法があったはずなのに、上手く行かなくて、破綻させた。家族にも迷惑をかけて、期待を裏切り、失望させた。
だから私は、NOと言わない。みんなのために、自分のために。
それが一番正しい。
そうやって生きていくのだと、ずっと思っていた。
考えてみれば、人の要望を拒否したのは、あれ以来初めてのことだ。
しかも、自分でも驚くほどはっきりと。
――嫌です。あなたとは結婚しません!
結局、その意思は跳ね返されたけれど……
「奈々子、もうすぐ着くぞ。昼には早いが、先に食事でもする?」
「えっ? いえ、まだ大丈夫です」
「それならまず、観光だな。どこか行きたいところがあれば遠慮なく言えよ」
「はい。ありがとうございます」
車を運転する由比さんの隣で、私は物思いに耽っていた。
いつの間にか、横浜に着こうとしている。
「港は寒そうだなぁ。今日は雪がちらつくって予報だし」
と言いながら、鼻歌など口ずさんでいる。私が黙っていても彼は気にする様子もなく、ずっとご機嫌だ。
「ところで、奈々子は横浜でも良かったのか? 俺が勝手に決めちゃったけど」
「ええ、構いません」
デートの場所は、彼に決めてもらった。私はもう投げやりな気持ちだったし、何も考えられなかったから。
由比さんは横浜までドライブすると言って自らハンドルを握った。運転手さんにはその場で降りてもらい、帰りのタクシー代とチップを渡し、労いの言葉をかけていた。
運転手さんは嬉しそうに受け取ると、私にも丁寧にお辞儀をして、車を見送ってくれた。
「わあ……」
みなとみらいの景色が車窓に広がる。横浜に来るのは何年ぶりだろう。
めったに出歩かない自分にとって、観光地の眺めは新鮮で、思わず知らずワクワクしてしまう。
「まさか横浜は初めて?」
窓にかぶりつく私を見て、由比さんが面白そうに訊ねた。
「いえ、ずっと前に来たことがあります。山下公園を散歩したり、中華街でご飯を食べたり」
「ふうん。もしかして、ボーイフレンドと?」
サングラスをずらして、私をチラ見した。
「ち、違います。中学生の頃に……」
ふと、言葉を止めた。
そうだった。あれは中学2年の春。席が近い女の子たちとグループになり、日曜日に遊びに出かけたのだ。
クラス替えしたばかりで、知り合いがほとんどいなかった私は、誘われたことが嬉しくて仕方なかった。
「ふうん。じゃあ、友達とか?」
「は、はい。そうです……」
友達だった、あの頃はまだ。
でも、あれから数ヶ月後に、私は……
昔を思い出してしまい、さっきまでのワクワクがしぼんでいく。急激に時が戻っていくようで、暗い気持ちになる。
「奈々子? どうかしたのか」
「あ、いえっ、別に……!」
私は顔を上げて、笑みを作った。
彼には知られたくない。バカにされても同情されても、惨めになるから。
「お、お腹は空いてないけど、喉が渇きました。お茶でも飲みませんか?」
「いいね。了解」
ちょっと不自然だったかも。
でも由比さんは特に何も訊かず、パーキングを見つけるとその方へハンドルを切る。
私は胸の古傷を隠し、ひそかにため息をついた。
今でも時々夢を見て、うなされる。
毎日ひとりぼっちで、うつむいて歩いていた。感情を殺して、みんなのじゃまにならないよう、卒業までの日々を過ごした。
私が悪かったのだ。もっといい方法があったはずなのに、上手く行かなくて、破綻させた。家族にも迷惑をかけて、期待を裏切り、失望させた。
だから私は、NOと言わない。みんなのために、自分のために。
それが一番正しい。
そうやって生きていくのだと、ずっと思っていた。
考えてみれば、人の要望を拒否したのは、あれ以来初めてのことだ。
しかも、自分でも驚くほどはっきりと。
――嫌です。あなたとは結婚しません!
結局、その意思は跳ね返されたけれど……
「奈々子、もうすぐ着くぞ。昼には早いが、先に食事でもする?」
「えっ? いえ、まだ大丈夫です」
「それならまず、観光だな。どこか行きたいところがあれば遠慮なく言えよ」
「はい。ありがとうございます」
車を運転する由比さんの隣で、私は物思いに耽っていた。
いつの間にか、横浜に着こうとしている。
「港は寒そうだなぁ。今日は雪がちらつくって予報だし」
と言いながら、鼻歌など口ずさんでいる。私が黙っていても彼は気にする様子もなく、ずっとご機嫌だ。
「ところで、奈々子は横浜でも良かったのか? 俺が勝手に決めちゃったけど」
「ええ、構いません」
デートの場所は、彼に決めてもらった。私はもう投げやりな気持ちだったし、何も考えられなかったから。
由比さんは横浜までドライブすると言って自らハンドルを握った。運転手さんにはその場で降りてもらい、帰りのタクシー代とチップを渡し、労いの言葉をかけていた。
運転手さんは嬉しそうに受け取ると、私にも丁寧にお辞儀をして、車を見送ってくれた。
「わあ……」
みなとみらいの景色が車窓に広がる。横浜に来るのは何年ぶりだろう。
めったに出歩かない自分にとって、観光地の眺めは新鮮で、思わず知らずワクワクしてしまう。
「まさか横浜は初めて?」
窓にかぶりつく私を見て、由比さんが面白そうに訊ねた。
「いえ、ずっと前に来たことがあります。山下公園を散歩したり、中華街でご飯を食べたり」
「ふうん。もしかして、ボーイフレンドと?」
サングラスをずらして、私をチラ見した。
「ち、違います。中学生の頃に……」
ふと、言葉を止めた。
そうだった。あれは中学2年の春。席が近い女の子たちとグループになり、日曜日に遊びに出かけたのだ。
クラス替えしたばかりで、知り合いがほとんどいなかった私は、誘われたことが嬉しくて仕方なかった。
「ふうん。じゃあ、友達とか?」
「は、はい。そうです……」
友達だった、あの頃はまだ。
でも、あれから数ヶ月後に、私は……
昔を思い出してしまい、さっきまでのワクワクがしぼんでいく。急激に時が戻っていくようで、暗い気持ちになる。
「奈々子? どうかしたのか」
「あ、いえっ、別に……!」
私は顔を上げて、笑みを作った。
彼には知られたくない。バカにされても同情されても、惨めになるから。
「お、お腹は空いてないけど、喉が渇きました。お茶でも飲みませんか?」
「いいね。了解」
ちょっと不自然だったかも。
でも由比さんは特に何も訊かず、パーキングを見つけるとその方へハンドルを切る。
私は胸の古傷を隠し、ひそかにため息をついた。
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