一億円の花嫁

藤谷 郁

文字の大きさ
68 / 198
14歳の頃

しおりを挟む
 公立小学校を卒業後、私は私立中学に進学した。中高一貫の大学付属校である。
 
 幼なじみの花ちゃんなど、同じ小学校の友達が何人かいたが、数えるほど。
 親の見栄のために選ばされた進路だった。
 知り合いがほとんどおらず、しかも『お金持ち学校』と呼ばれるほど、裕福な家庭の子女が通う学校である。

 姉も同じ進路だったが、彼女はむしろアウェーな環境にファイトを燃やすタイプで、勉強もスポーツも好成績を納め、交友関係も活発だった。
 
 だけど私は違う。
 最初から、居心地の悪さを感じていた。


 一年生のうちはまだ良かった。同じクラスに花ちゃんがいたから。

 花ちゃんは文武両道な上にコミュ力が高く、すぐにリーダー的存在になった。クラスだけでなく剣道部にも友達がたくさんいて、羨ましいほど学校に馴染んでいる。

 新しい環境に順応できずにいた私は、かなり助けてもらった。花ちゃんのおかげで最初の一年をスムーズに送れたと言って良い。

 だが二年生になると、状況が一変する。

 花ちゃんはスポーツ進学コースなのでクラスが分かれ、別棟の教室に行ってしまった。彼女繋がりで出来た数少ない友人も同様である。

 私は再び、新しい環境に一人で通うこととなった。



 二年生の春。始業式の日。

 私はうつむきかげんで、普通科クラスの校舎へと歩いた。
 教室に入ると、既にあちこちでグループが出来上がっていて、絶望的な気分になる。しかもなんだか、華やかな人が多い。
 女子が7割を占めているため、そう感じたのかもしれないけれど。

 私の席は窓際の最後列にあった。席順シールが貼られた机に座り、賑やかな教室をあらためて眺める。
 やはり、ほとんど知らない顔。しかもお洒落で活発そうな人ばかりだ。

(私、やっていけるのかな)

「あのう、あなたも知り合いゼロだったりする?」
「えっ?」

 隣の席から、声を掛けられた。
 小柄で、メガネの奥の丸っこい目が印象的な女の子。
 突然のことに私は動揺するが、嬉しくもあった。彼女が、とても親しみの持てる空気を纏っていたから。

「う、うん。ゼロではないけど、ほとんど知らない人ばかりで、圧倒されてた」
「同じ同じ! 知り合いがいても、ほとんど喋ったことのない男子とかでさー、ゼロとおんなじ。この先どうすんのって感じ」

 おどけた口調に、思わず笑みがこぼれる。彼女も笑顔になり、椅子ごと近づいてきた。

「はじめまして。私、加納莉央といいます。末長く、よろしくお願いします!」

 それが、莉央との出会いだった。

 そして、その5分後。
 予鈴とともに二人の女子が教室に入ってきて、私たちの前列に座った。
 莉央の前には、ショートカットの似合うボーイッシュ系女子。そして私の前に座るのは、ハッとするほど可愛い、アイドルみたいな女の子だ。

「わぁっ……めちゃくちゃ可愛いよね!」

 莉央が耳打ちするのに、うんうんとうなずく。
 長く艶やかな髪をサイドで結び、襟から覗くうなじの白さは、まるで雪のよう。
 それにスタイルも、同じ人間とは思えない完璧な比率だった。グレイの野暮ったい制服を、これほど美しく着こなせるなんて!

 クラスじゅうの、特に男子の注目がすごい。彼女はそれほどまでに魅惑的で、目立っていた。

「また注目されてる。今回も人気者になりそうだね、お嬢様」
「やめてよ」

 ボーイッシュな彼女とは友達のようだ。楽しげにおしゃべりしていたが、教師が来たので中断する。私も前を向き、莉央も慌てて椅子を戻した。


 オリエンテーションの前に行われた自己紹介で、彼女の名前が西野綾華であることを知った。そして、父親がニシノ製薬の社長だという情報は、教室のあちこちから聞こえる噂話から得られた。
 ニシノ製薬といえば、製薬会社の中でも上位の老舗企業である。

(すごい。本物のお嬢様だ……)

 正真正銘の社長令嬢を前に、私は緊張した。本物を見たと思った。

 だから、予想もしなかったのだ。
 その日のうちに、彼女と友達になるなんて。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

You Could Be Mine ぱーとに【改訂版】

てらだりょう
恋愛
高身長・イケメン・優しくてあたしを溺愛する彼氏はなんだかんだ優しいだんなさまへ進化。 変態度も進化して一筋縄ではいかない新婚生活は甘く・・・はない! 恋人から夫婦になった尊とあたし、そして未来の家族。あたしたちを待つ未来の家族とはいったい?? You Could Be Mine【改訂版】の第2部です。 ↑後半戦になりますので前半戦からご覧いただけるとよりニヤニヤ出来るので是非どうぞ! ※ぱーといちに引き続き昔の作品のため、現在の状況にそぐわない表現などございますが、設定等そのまま使用しているためご理解の上お読みいただけますと幸いです。

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

昨日、あなたに恋をした

菱沼あゆ
恋愛
 高すぎる周囲の評価に頑張って合わせようとしているが、仕事以外のことはポンコツなOL、楓日子(かえで にちこ)。 久しぶりに、憂さ晴らしにみんなで呑みに行くが、目を覚ましてみると、付けっぱなしのゲーム画面に見知らぬ男の名前が……。  私、今日も明日も、あさっても、  きっとお仕事がんばります~っ。

網代さんを怒らせたい

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「なあ。僕たち、付き合わないか?」 彼がなにを言っているのかわからなかった。 たったいま、私たちは恋愛できない体質かもしれないと告白しあったばかりなのに。 しかし彼曰く、これは練習なのらしい。 それっぽいことをしてみれば、恋がわかるかもしれない。 それでもダメなら、本当にそういう体質だったのだと諦めがつく。 それはそうかもしれないと、私は彼と付き合いはじめたのだけれど……。 和倉千代子(わくらちよこ) 23 建築デザイン会社『SkyEnd』勤務 デザイナー 黒髪パッツン前髪、おかっぱ頭であだ名は〝市松〟 ただし、そう呼ぶのは網代のみ なんでもすぐに信じてしまい、いつも網代に騙されている 仕事も頑張る努力家 × 網代立生(あじろたつき) 28 建築デザイン会社『SkyEnd』勤務 営業兼事務 背が高く、一見優しげ しかしけっこう慇懃無礼に毒を吐く 人の好き嫌いが激しい 常識の通じないヤツが大嫌い 恋愛のできないふたりの関係は恋に発展するのか……!?

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

フローライト

藤谷 郁
恋愛
彩子(さいこ)は恋愛経験のない24歳。 ある日、友人の婚約話をきっかけに自分の未来を考えるようになる。 結婚するのか、それとも独身で過ごすのか? 「……そもそも私に、恋愛なんてできるのかな」 そんな時、伯母が見合い話を持ってきた。 写真を見れば、スーツを着た青年が、穏やかに微笑んでいる。 「趣味はこうぶつ?」 釣書を見ながら迷う彩子だが、不思議と、その青年には会いたいと思うのだった… ※他サイトにも掲載

わたしの愉快な旦那さん

川上桃園
恋愛
 あまりの辛さにブラックすぎるバイトをやめた。最後塩まかれたけど気にしない。  あ、そういえばこの店入ったことなかったな、入ってみよう。 「何かお探しですか」  その店はなんでも取り扱うという。噂によると彼氏も紹介してくれるらしい。でもそんなのいらない。彼氏だったらすぐに離れてしまうかもしれないのだから。  店員のお兄さんを前にてんぱった私は。 「旦那さんが欲しいです……」  と、斜め上の回答をしてしまった。でもお兄さんは優しい。 「どんな旦那さんをお望みですか」 「え、えっと……愉快な、旦那さん?」  そしてお兄さんは自分を指差した。 「僕が、お客様のお探しの『愉快な旦那さん』ですよ」  そこから始まる恋のお話です。大学生女子と社会人男子(御曹司)。ほのぼのとした日常恋愛もの

処理中です...