69 / 198
14歳の頃
2
しおりを挟む
二学年に進級して一週間が過ぎた。
昼休みのランチルームで、私たちは食後のお喋りを楽しんでいる。
「ねえ、今度の日曜日にみんなで出かけない?」
綾華の提案に、他の3人は目を輝かせた。もちろん私も含めて。
「賛成! 行く行く」
莉央が元気よく答える。
「ラッキー、その日は塾が休みなんだ。どこに行く?」
夏樹がスケジュールを確認しながら、綾華に訊いた。
「それなんだけど……あ、奈々子も行けるよね?」
「うん、もちろん!」
「良かったあ。奈々子の家って厳しそうだから、誘ってもいいのか迷ってたのよ」
綾華が腕を絡め、くっついてきた。ふわりと良い香りがして、私はなぜかドキドキする。
「ずいぶん仲良しじゃん。綾華がベタベタするなんて珍しい」
「からかわないでよ、夏樹。莉央も、ヤキモチ妬いちゃダメよ?」
「や、妬かないよお!」
と言いつつ過剰反応する莉央が可笑しくて、みんな笑った。
同じクラスで席が近い私たち4人は、始業式の日に『友達』になった。
オリエンテーションが終わって帰ろうとした時、前の席の綾華が振り向き、話しかけてきたのだ。
どこの校区? 電車で通ってるの? 担任ヤバいよね。などなど……
綾華は一見お嬢様だが、とても気さくな性格で、私も莉央も驚いてしまった。
夏樹は私たちの様子を見て、面白そうに笑っていた。
車田夏樹は綾華と小学校からの友達で、親ぐるみで仲が良いとのこと。彼女も有名企業の社長令嬢だが、ボーイッシュなタイプだ。付属高校の特進クラスに入るため、有名な進学塾に通っていると言う。
莉央は私と同じく、父親が中小企業の社長で、母親は専業主婦。それだけでもあい通ずるものがあり、なんだか安心した。
ただ彼女のほうがずっと明るくて、フレンドリーな性格だと思う。
だからたぶん、綾華の言動にドギマギしたり、緊張するのは私だけだろう。
知り合ったばかりだし、それに、綾華は自分にとって眩しすぎる存在で、この状況が奇跡みたいだから。
綾華は横浜港に行こうと提案した。
「日帰りで行けるし、遊ぶところもいっぱいあるし、いいと思わない? あっ、それと、パパが進級のお祝いにってお小遣いをくれたの。だから、電車賃とかご飯のお金とか、みんなのぶんも私が出してあげる」
「ええっ!?」
私と莉央はびっくりして、顔を見合わせた。
夏樹は平然としている。
「さすが綾華、太っ腹だねー。ていうか、一体どんだけもらったのさ」
「入学祝に比べたらちょっぴりだよ」
綾華とは家族ぐるみの付き合いだという夏樹は、「相変わらず甘やかされてんなー」と、けらけら笑った。
「で、でも、悪いよそんな。綾華に全部出してもらうなんて。ねえ、奈々子」
「うん」
私たちが遠慮すると、綾華がむくれた。頬をふくらませた顔すら、天使のように可愛くて、美しい。
「なによ、二人とも。私の親切が迷惑だって言うの?」
「とんでもない! もちろん気持ちは嬉しいけど……」
私が言いかけるのを、夏樹が遮った。
「いいんだって、おとなしく従っとけば。綾華はお嬢様っつーより、女王様なんだから。逆らうと痛い目に合わされるよー」
「い、痛い目?」
不穏当な発言に、ぎょっとする。
莉緒と私がおどおどすると、綾華がますますむくれる。
「冗談に決まってるでしょ! 夏樹も、いいかげんにしてよね」
「ハイハイ」
結局、交通費と食事代は綾華が負担することになった。「絶対に私が出すの!」と綾華が引かないため、とりあえず受け入れたのだ。
私には驚くような行為も、彼女にとっては普通のことらしい。本物のお嬢様とはこういうものなのね……と、莉央と頷き合った。
それにしても、夏樹は冗談がきつい。幼なじみとはいえ、周りに誤解を与えるような発言はどうかと思う。
確かに綾華は強引だけど、女王様なんかじゃない。明るくて、くったくがなくて、感情豊かなだけなのだ。
強引な言動はリーダーシップの表れであり、それは、わがままとは違う。
その頃の私は、本当にそう感じていた。
無邪気に腕にからみついてくる彼女は、新しい環境が苦手な私にとって、まさに天使のような存在だったのだ。
昼休みのランチルームで、私たちは食後のお喋りを楽しんでいる。
「ねえ、今度の日曜日にみんなで出かけない?」
綾華の提案に、他の3人は目を輝かせた。もちろん私も含めて。
「賛成! 行く行く」
莉央が元気よく答える。
「ラッキー、その日は塾が休みなんだ。どこに行く?」
夏樹がスケジュールを確認しながら、綾華に訊いた。
「それなんだけど……あ、奈々子も行けるよね?」
「うん、もちろん!」
「良かったあ。奈々子の家って厳しそうだから、誘ってもいいのか迷ってたのよ」
綾華が腕を絡め、くっついてきた。ふわりと良い香りがして、私はなぜかドキドキする。
「ずいぶん仲良しじゃん。綾華がベタベタするなんて珍しい」
「からかわないでよ、夏樹。莉央も、ヤキモチ妬いちゃダメよ?」
「や、妬かないよお!」
と言いつつ過剰反応する莉央が可笑しくて、みんな笑った。
同じクラスで席が近い私たち4人は、始業式の日に『友達』になった。
オリエンテーションが終わって帰ろうとした時、前の席の綾華が振り向き、話しかけてきたのだ。
どこの校区? 電車で通ってるの? 担任ヤバいよね。などなど……
綾華は一見お嬢様だが、とても気さくな性格で、私も莉央も驚いてしまった。
夏樹は私たちの様子を見て、面白そうに笑っていた。
車田夏樹は綾華と小学校からの友達で、親ぐるみで仲が良いとのこと。彼女も有名企業の社長令嬢だが、ボーイッシュなタイプだ。付属高校の特進クラスに入るため、有名な進学塾に通っていると言う。
莉央は私と同じく、父親が中小企業の社長で、母親は専業主婦。それだけでもあい通ずるものがあり、なんだか安心した。
ただ彼女のほうがずっと明るくて、フレンドリーな性格だと思う。
だからたぶん、綾華の言動にドギマギしたり、緊張するのは私だけだろう。
知り合ったばかりだし、それに、綾華は自分にとって眩しすぎる存在で、この状況が奇跡みたいだから。
綾華は横浜港に行こうと提案した。
「日帰りで行けるし、遊ぶところもいっぱいあるし、いいと思わない? あっ、それと、パパが進級のお祝いにってお小遣いをくれたの。だから、電車賃とかご飯のお金とか、みんなのぶんも私が出してあげる」
「ええっ!?」
私と莉央はびっくりして、顔を見合わせた。
夏樹は平然としている。
「さすが綾華、太っ腹だねー。ていうか、一体どんだけもらったのさ」
「入学祝に比べたらちょっぴりだよ」
綾華とは家族ぐるみの付き合いだという夏樹は、「相変わらず甘やかされてんなー」と、けらけら笑った。
「で、でも、悪いよそんな。綾華に全部出してもらうなんて。ねえ、奈々子」
「うん」
私たちが遠慮すると、綾華がむくれた。頬をふくらませた顔すら、天使のように可愛くて、美しい。
「なによ、二人とも。私の親切が迷惑だって言うの?」
「とんでもない! もちろん気持ちは嬉しいけど……」
私が言いかけるのを、夏樹が遮った。
「いいんだって、おとなしく従っとけば。綾華はお嬢様っつーより、女王様なんだから。逆らうと痛い目に合わされるよー」
「い、痛い目?」
不穏当な発言に、ぎょっとする。
莉緒と私がおどおどすると、綾華がますますむくれる。
「冗談に決まってるでしょ! 夏樹も、いいかげんにしてよね」
「ハイハイ」
結局、交通費と食事代は綾華が負担することになった。「絶対に私が出すの!」と綾華が引かないため、とりあえず受け入れたのだ。
私には驚くような行為も、彼女にとっては普通のことらしい。本物のお嬢様とはこういうものなのね……と、莉央と頷き合った。
それにしても、夏樹は冗談がきつい。幼なじみとはいえ、周りに誤解を与えるような発言はどうかと思う。
確かに綾華は強引だけど、女王様なんかじゃない。明るくて、くったくがなくて、感情豊かなだけなのだ。
強引な言動はリーダーシップの表れであり、それは、わがままとは違う。
その頃の私は、本当にそう感じていた。
無邪気に腕にからみついてくる彼女は、新しい環境が苦手な私にとって、まさに天使のような存在だったのだ。
4
あなたにおすすめの小説
わたしの愉快な旦那さん
川上桃園
恋愛
あまりの辛さにブラックすぎるバイトをやめた。最後塩まかれたけど気にしない。
あ、そういえばこの店入ったことなかったな、入ってみよう。
「何かお探しですか」
その店はなんでも取り扱うという。噂によると彼氏も紹介してくれるらしい。でもそんなのいらない。彼氏だったらすぐに離れてしまうかもしれないのだから。
店員のお兄さんを前にてんぱった私は。
「旦那さんが欲しいです……」
と、斜め上の回答をしてしまった。でもお兄さんは優しい。
「どんな旦那さんをお望みですか」
「え、えっと……愉快な、旦那さん?」
そしてお兄さんは自分を指差した。
「僕が、お客様のお探しの『愉快な旦那さん』ですよ」
そこから始まる恋のお話です。大学生女子と社会人男子(御曹司)。ほのぼのとした日常恋愛もの
思い出のチョコレートエッグ
ライヒェル
恋愛
失恋傷心旅行に出た花音は、思い出の地、オランダでの出会いをきっかけに、ワーキングホリデー制度を利用し、ドイツの首都、ベルリンに1年限定で住むことを決意する。
慣れない海外生活に戸惑い、異国ならではの苦労もするが、やがて、日々の生活がリズムに乗り始めたころ、とてつもなく魅力的な男性と出会う。
秘密の多い彼との恋愛、彼を取り巻く複雑な人間関係、初めて経験するセレブの世界。
主人公、花音の人生パズルが、紆余曲折を経て、ついに最後のピースがぴったりはまり完成するまでを追う、胸キュン&溺愛系ラブストーリーです。
* ドイツ在住の作者がお届けする、ヨーロッパを舞台にした、喜怒哀楽満載のラブストーリー。
* 外国での生活や、外国人との恋愛の様子をリアルに感じて、主人公の日々を間近に見ているような気分になれる内容となっています。
* 実在する場所と人物を一部モデルにした、リアリティ感の溢れる長編小説です。
昨日、あなたに恋をした
菱沼あゆ
恋愛
高すぎる周囲の評価に頑張って合わせようとしているが、仕事以外のことはポンコツなOL、楓日子(かえで にちこ)。
久しぶりに、憂さ晴らしにみんなで呑みに行くが、目を覚ましてみると、付けっぱなしのゲーム画面に見知らぬ男の名前が……。
私、今日も明日も、あさっても、
きっとお仕事がんばります~っ。
網代さんを怒らせたい
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「なあ。僕たち、付き合わないか?」
彼がなにを言っているのかわからなかった。
たったいま、私たちは恋愛できない体質かもしれないと告白しあったばかりなのに。
しかし彼曰く、これは練習なのらしい。
それっぽいことをしてみれば、恋がわかるかもしれない。
それでもダメなら、本当にそういう体質だったのだと諦めがつく。
それはそうかもしれないと、私は彼と付き合いはじめたのだけれど……。
和倉千代子(わくらちよこ) 23
建築デザイン会社『SkyEnd』勤務
デザイナー
黒髪パッツン前髪、おかっぱ頭であだ名は〝市松〟
ただし、そう呼ぶのは網代のみ
なんでもすぐに信じてしまい、いつも網代に騙されている
仕事も頑張る努力家
×
網代立生(あじろたつき) 28
建築デザイン会社『SkyEnd』勤務
営業兼事務
背が高く、一見優しげ
しかしけっこう慇懃無礼に毒を吐く
人の好き嫌いが激しい
常識の通じないヤツが大嫌い
恋愛のできないふたりの関係は恋に発展するのか……!?
フローライト
藤谷 郁
恋愛
彩子(さいこ)は恋愛経験のない24歳。
ある日、友人の婚約話をきっかけに自分の未来を考えるようになる。
結婚するのか、それとも独身で過ごすのか?
「……そもそも私に、恋愛なんてできるのかな」
そんな時、伯母が見合い話を持ってきた。
写真を見れば、スーツを着た青年が、穏やかに微笑んでいる。
「趣味はこうぶつ?」
釣書を見ながら迷う彩子だが、不思議と、その青年には会いたいと思うのだった…
※他サイトにも掲載
期待外れな吉田さん、自由人な前田くん
松丹子
恋愛
女子らしい容姿とざっくばらんな性格。そのギャップのおかげで、異性から毎回期待外れと言われる吉田さんと、何を考えているのか分からない同期の前田くんのお話。
***
「吉田さん、独り言うるさい」
「ああ!?なんだって、前田の癖に!前田の癖に!!」
「いや、前田の癖にとか訳わかんないから。俺は俺だし」
「知っとるわそんなん!異議とか生意気!前田の癖にっ!!」
「……」
「うあ!ため息つくとか!何なの!何なの前田!何様俺様前田様かよ!!」
***
ヒロインの独白がうるさめです。比較的コミカル&ライトなノリです。
関連作品(主役)
『神崎くんは残念なイケメン』(香子)
『モテ男とデキ女の奥手な恋』(マサト)
*前著を読んでいなくても問題ありませんが、こちらの方が後日談になるため、前著のネタバレを含みます。また、関連作品をご覧になっていない場合、ややキャラクターが多く感じられるかもしれませんがご了承ください。
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?
藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。
結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの?
もう、みんな、うるさい!
私は私。好きに生きさせてよね。
この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。
彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。
私の人生に彩りをくれる、その人。
その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。
⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。
⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる