一億円の花嫁

藤谷 郁

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14歳の頃

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 綾華はただ拗ねてるだけ。
 これまでも自分の思い通りにならないと、不機嫌になることがあった。でもそれは、友達に対するポーズであり、彼女らしい甘えである。
 親しいからこそ、わがままになるのだ。

 私は、そんな風に受け止めていた。
 だから、すぐにまた仲良くなれると、思っていたのだけれど……


『綾華、まだ怒ってるのかな』
「う、うーん……」

 週末の夜、莉央が電話をくれた。彼女らしくもない気弱な声を聞き、胸がズキッとする。

 旅行の件で綾華がむくれてから、2週間が過ぎた。私の予想に反して、状況は改善の兆しが見えず……いや、むしろ悪化した。
 綾華は完全に、莉央を無視している。

『ホントに嫌われちゃったのかなあ。どうしよう、奈々子』

 涙声になり、言葉を途切れさせる。
 無理もない。
 さすがの莉央もこたえるのだろう。

 綾華の態度は頑なで、そばにいる私にもストレスだった。

 例えば朝、教室で。
 莉央と私が席に着いて「おはよう」と言うと、綾華は私だけを見て挨拶を返す。4人でおしゃべりする時も絶対に莉央と目を合わせないし、彼女の発言に反応しない。

 とにかく、徹底的に空気扱いなのだ。

 いつまで続くのだろう。どうにかしなければと悩むうちに、綾華の態度がエスカレートしてきた。
 それは昨日、体育の授業でのこと。
 体操で3人グループを作る際、綾華は私と夏樹の手を引っ張り、莉央に背を向けたのだ。あからさまな仲間外れである。

 いくらなんでも酷すぎる。
 私は莉央のほうへ行こうとしたが綾華は許さず、ものすごい力で引き留めてきた。
 夏樹に助けを求めるが、「ムダムダ」と首を振り、はなからあきらめている。

 不穏な空気に気付いてか、クラスメイトがヒソヒソ囁くのが分かった。

 莉央はしばらくオロオロしていたが、教師が他の子と組ませたので、その場はおさまった。
 だけど、私の心にモヤモヤが残った。これではまるで、いじめではないか、と。

『奈々子、どうしよう』

 切羽詰まった声。
 今にも泣き出しそうな莉央に、私は思わず提案していた。

「明日、家においでよ。二人で相談しよう」

 直接会って話したほうがいい。
 莉央も同じ気持ちだったのか、すぐに『うん』と返事した。


◇ ◇ ◇


 翌日、日曜日の午前中に莉央が訪ねてきた。

「こんにちは。加納莉央と申します」

 私と一緒に玄関まで出てきた父に、彼女はきちんと挨拶した。

「あの、これはうちの商品ですが、皆様でどうぞお召し上がりください」
「おお、わざわざありがとうございます。かのう屋の最中……というと、隣町の老舗会社さんですな」

 莉央の家は和菓子屋さんである。彼女も二人姉妹の妹で、お姉さんが後を継ぐと決まっているそうだ。

「お口に合うと良いのですが」
「いやいや、私も奈々子も和菓子には目がなくて、なにより嬉しいお土産ですよ。なあ?」
「う、うん。ありがとう、莉央」

 父は私の友人が来ると、いつも顔を出す。どこの誰と付き合っているのか確認し、査定するためだ。特に気にするのは、ステイタスである。

「私、お茶を入れてくるから、先に部屋に行っててくれる?」

 父が根掘り葉掘りしないうちに、莉央を2階に上げた。
 キッチンに向かうと、父もあとをついてくる。

「挨拶もしっかりできるし、まあまあちゃんとした友達だな。実家はあまり景気が良くなさそうだが」
「えっ?」

 どういう意味だろう。
 質問しようとするが、私に最中の箱を持たせると、「興味なし」とつまらなそうに言い、リビングに行ってしまった。

「……まったく」

 綾華の時とはえらい違いである。
 で友達を分け隔てする父に反感を覚えた。


「お待たせ。コーヒーで良かったかな?」

 部屋に入り、テーブルを挟んで座る。莉央はホッとした表情で私と向き合った。
 学校では綾華の目が気になり会話も不自由だが、二人きりならなんでも話すことができる。

「ゆっくりしていってね」
「うん。ありがとう、奈々子」

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