一億円の花嫁

藤谷 郁

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14歳の頃

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 私が想像するよりずっと、莉央は弱っていた。
 夜はよく眠れず、朝が来ると絶望感に苛まれ、胃がキリキリと痛みだすという。

「うちの学校、中高一貫でしょ? もし綾華に無視されたままだったら、やばすぎる。だってあの子は成績優秀で、アイドルみたいに可愛くて、お父さんは大企業の社長。完璧な女の子だもん。しかも学校に多額の寄付をしてるって自慢してた。何かあっても、理事会はあの子を守るだろうし」
「な、何かあっても……?」

 どういうことだろう。泣きそうな莉央を、私はじっと見つめた。

「例えば、綾華が私を仲間はずれにしても、問題視されないと思う。それどころか、誰もがあの子の味方をするよね? クラスの子全員、担任はもちろん、理事長だって」
「莉央……」

 何があってもーーというのはつまり『いじめ』である。体育での一件を、莉央もいじめと感じたのだ。

「そもそも綾華みたいなお嬢様が、私みたいな庶民と友達なのが奇跡だし、みんなだって不思議に思ってるよ」
「うっ……」

 莉央が恐れるのはヒエラルキーだ。学校は階級社会であり、下位の者はあらゆる面で不利な扱いを受ける。
 彼女の気持ちが分かりすぎて、つらい。

「綾華の噂してる男子とか、ついでみたいにうちらを悪く言うヤツが、たまにいるじゃん」
「ああ……」

 綾華は目立つ子だし、噂の一つや二つ日常茶飯事だ。特に男の子たちが、彼女に興味津々だった。

 ーー西野ってキレイだよな
 ーーワガママなお嬢様って感じが最高
 ーーまさにパーフェクト

 綾華に憧れる男子は多い。同学年はもとより、3年生にも告白されたりする。

 ーーにしても、友達が冴えねーよな。なんであんな地味なやつらと仲良しなの?

 わざわざ聞こえるように言う男子が、たまにいる。男子だけでなく、あからさまに疑問を向けてくる女子も……

『無視すればいーのよ。妬んでるだけなんだから』

 一笑に付す綾華。彼女と同じくヒエラルキー上位の夏樹も余裕の笑みを浮かべ、相手にするなと言う。

 だけど、私にとっては苦痛だった。目立つのが嫌いだし、周囲の目をどうしても意識してしまうから。
 莉央も同じくらい気にしていたのだ。

「ねえ、どうすればいい? 仲直りしたいけど、綾華ってば顔も見てくれないし」
 
 莉央は私の友達。綾華も同じくらい大切な友達だ。これからも付き合っていきたい。
 ヒエラルキーなど関係なく。

「莉央は、綾華と仲直りしたいんだね」

 それは確かめておきたかった。
 学校生活における不安は、痛いほど解るけれどーー仲間はずれにされたらやばいとか、損得だけの関係で付き合い続けるのは違うから。

「うん。いじめっぽいことされて、嫌な思いしたけど……綾華に嫌われたくないし、嫌いたくない」

 私はホッとすると同時に、莉央のこんなところが好きだと感じる。お人好しと言われようとも。

「わかった。莉央の代わりに、私が綾華に話すよ」
「ほんとに?」

 莉央の顔が喜びに輝く。だけど、すぐにオドオドした。

「でも、幼なじみの夏樹があきらめちゃうくらいなのに、話を聞いてくれるのかな。奈々子まで無視されたら」
「それは……」

 もちろん、絶対の自信はない。
 夏樹が言ったように、綾華はお嬢様というより女王様だ。プライドが高いし、簡単には引かないだろう。
 だけど、それでも私が間に入って、橋渡しをしなければ!
 
「大丈夫だよ。だって私たち、楽しくやってきたじゃない」

 横浜で初めて遊んだ日も、夏休みの旅行も、最高に楽しかった。もともと相性のいい4人だもの。きっとまた笑い合える。

「ああ……そうだよね。北海道、すっごく楽しかったなあ」

 莉央の声が明るく弾む。私もだけど、彼女もかなりの旅行好きのようだ。

(旅行か……)

 そういえば、綾華が怒ったきっかけは莉央が冬休みの旅行を断ったこと。
 あの時、莉央自身がとても辛そうだったのを思い出す。
 
「あの……成績が落ちて怒られたって言ってたよね」

 遊びを制限されるなんて、よほど深刻な状況なのだろうか。今更だが、少し心配になる。

「ああ、うん……確かに、順位とか下がったよ。でも……」

 莉央は苦笑を浮かべると、しばらく黙り込んだ。なぜか気まずそうな様子で、私の顔をうかがいながら。

「莉央?」
「ああもう……奈々子には言うよ! でも綾華と夏樹にはまだ話さないで。恥ずかしいから」
「?」

 莉央はためらいつつも、旅行に行けない本当の理由を、話してくれた。

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