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14歳の頃
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「…………?」
今、なんと言ったのだろう。
楽しげな綾華の表情と残酷なセリフのギャップがありすぎて、理解できない。
「ほ、本格的に外すって……どういうこと?」
「だからあ、みんなで莉央を仲間はずれにするって言ってんの」
頭が混乱した。私が願うのと真逆の方向へと話が進んでいく。
すがるように夏樹を見るが、彼女は目を逸らし、諦めたように肩をすくめる。
(そんな……)
綾華の『いじめ宣言』にショックを受けながらも、私は足を踏ん張り、抵抗した。
莉央と約束したのだ。
「待って、綾華。そんなのダメだよ。仲間はずれなんて」
「いーんだってば! だいたい奈々子が甘やかすから莉央がつけ上がるのよ。私がいくら躾けても意味ないじゃん。優しいのもほどほどにしないとね」
「え……?」
綾華の言い様に戸惑いを覚えた。
彼女に無視され、意地悪をされても仲直りしたいと莉央は願っている。なぜなら、綾華が友達だからだ。
それなのに、つけ上がるとか躾けるとか、友達に対する言葉ではない。
しかも、ただでさえ傷つき弱っているのを知りながら、なおいたぶろうとするなんて……
どう考えても、綾華の思考は歪んでいる。
「ねぇ、奈々子。あんたは私の味方だよね。逆らったりしないよね?」
「綾華……」
逆らうなんて、対等な関係なら出てこない言葉だ。
やはり綾華は女王様である。
なら、私たちは?
家来、しもべ、下僕……
ううん、そんなはずない!
だって、みんなで過ごす毎日は本当に楽しくて、旅行も最高だった。
なにより、私も莉央も綾華を好きだし、友達だと思っている。
ヒエラルキーなんて関係なく……!
「仲間はずれになんてできない。綾華は友達だけど、莉央も同じくらい大事な友達だもの」
綾華の要望を断った。自分でも驚くほどハッキリとした口調で。
しばし沈黙が降りた。
責められるのを覚悟したが、綾華はなぜか無反応で、夏樹のほうが動揺している。
「……綾華?」
怒りもせず、失望もしない。綾華の静かすぎる態度は、かえって不気味だった。
重い空気が流れ、得体の知れない不安に苛まれる。早く何か言ってほしい。
「あーあ、つまんない」
「!?」
綾華がジロリと私を睨む。
長いまつ毛に縁取られた大きな目に、嗜虐的な色が満ちるのを、ゾッとしながら認めた。
「あ、綾華、あの……」
「もういい! せっかく可愛がってあげたのに、逆らうなんて。マジで最悪」
プイと前を向いてしまう。
綾華と口を利いたのは、これが最後だった。
綾華のターゲットが私に変わった。
もちろん、仲間はずれのターゲットである。
頼み事を断った私を彼女は許さず、徹底的に無視した。女王様に逆らう家来などいらないとばかりに、冷淡な態度で。
私が困ったり、おどおどするのを見て笑みを浮かべる。楽しげにヒソヒソ話をする。
莉央の時よりもあからさまで、分かりやすい『いじめ』だった。
やがてクラスの誰もが、浮いた存在の私を遠巻きにするようになり、秋の終わりには完全に孤立した。
そう、ひとりぼっちである。
あの日を境に、綾華は莉央とあっさり仲直りして、何事もなかったかのように元どおりの関係になった。夏樹も入れて3人グループで行動している。
私にとって最大のショックは、綾華に外されたことではない。
莉央という友達が、綾華の頼みを受け入れたという事実である。
『奈々子を仲間はずれにしようよ』
おそらく綾華は、莉央に要望したのだろう。莉央を外そうと言ったのと同じ口で。
それを、莉央は受け入れてしまったのだ。
莉央は私と目を合わさず、近寄らず、一言も喋らない。学校にいる間だけでなく、帰宅後に電話しても応答しなかった。
一度、どうしても会って話がしたくて家を訪ねたけれど、彼女の母親が出てきて『莉央は会いたくないそうです。迷惑なので、もう来ないでください』と言われてしまった。
裏切られたーーと、思いたくない。
きっと、圧力に負けてしまったのだろう。綾華を敵に回すのを、彼女は恐れていた。
仕方ないのだ。
莉央はきっと苦しんでいるはず。私が近づけば、彼女がますます苦しむ。
自分に言い聞かせた。莉央の家は大変な状況であり、親に余計な心配をかけられないのだと。女王様に逆らえるはずもなく、断腸の思いで私を切ったのだと。
私が悪かったのだ。
綾華の頼みを断ったばかりに……もっと違ったやり方があっただろうに。もっと上手く振る舞えば、全てが丸く収まったのに……
だから私は、孤立してしまったんだ。
冬休み前の教室で、3人が韓国旅行について話すのを震えながら聞いた。ホームルームが始まるので、その場を離れることもできず。
このクラスは席替えがない。グループを外されて以降、地獄だった。
『莉央の旅費はパパが出してくれるから、心配しないでね!』
綾華の楽しそうな声に胸を抉られた。
どうして……どうしてもっと上手くできなかったのだろう。
傷だらけの心に、後悔ばかりが渦巻いていた。
今、なんと言ったのだろう。
楽しげな綾華の表情と残酷なセリフのギャップがありすぎて、理解できない。
「ほ、本格的に外すって……どういうこと?」
「だからあ、みんなで莉央を仲間はずれにするって言ってんの」
頭が混乱した。私が願うのと真逆の方向へと話が進んでいく。
すがるように夏樹を見るが、彼女は目を逸らし、諦めたように肩をすくめる。
(そんな……)
綾華の『いじめ宣言』にショックを受けながらも、私は足を踏ん張り、抵抗した。
莉央と約束したのだ。
「待って、綾華。そんなのダメだよ。仲間はずれなんて」
「いーんだってば! だいたい奈々子が甘やかすから莉央がつけ上がるのよ。私がいくら躾けても意味ないじゃん。優しいのもほどほどにしないとね」
「え……?」
綾華の言い様に戸惑いを覚えた。
彼女に無視され、意地悪をされても仲直りしたいと莉央は願っている。なぜなら、綾華が友達だからだ。
それなのに、つけ上がるとか躾けるとか、友達に対する言葉ではない。
しかも、ただでさえ傷つき弱っているのを知りながら、なおいたぶろうとするなんて……
どう考えても、綾華の思考は歪んでいる。
「ねぇ、奈々子。あんたは私の味方だよね。逆らったりしないよね?」
「綾華……」
逆らうなんて、対等な関係なら出てこない言葉だ。
やはり綾華は女王様である。
なら、私たちは?
家来、しもべ、下僕……
ううん、そんなはずない!
だって、みんなで過ごす毎日は本当に楽しくて、旅行も最高だった。
なにより、私も莉央も綾華を好きだし、友達だと思っている。
ヒエラルキーなんて関係なく……!
「仲間はずれになんてできない。綾華は友達だけど、莉央も同じくらい大事な友達だもの」
綾華の要望を断った。自分でも驚くほどハッキリとした口調で。
しばし沈黙が降りた。
責められるのを覚悟したが、綾華はなぜか無反応で、夏樹のほうが動揺している。
「……綾華?」
怒りもせず、失望もしない。綾華の静かすぎる態度は、かえって不気味だった。
重い空気が流れ、得体の知れない不安に苛まれる。早く何か言ってほしい。
「あーあ、つまんない」
「!?」
綾華がジロリと私を睨む。
長いまつ毛に縁取られた大きな目に、嗜虐的な色が満ちるのを、ゾッとしながら認めた。
「あ、綾華、あの……」
「もういい! せっかく可愛がってあげたのに、逆らうなんて。マジで最悪」
プイと前を向いてしまう。
綾華と口を利いたのは、これが最後だった。
綾華のターゲットが私に変わった。
もちろん、仲間はずれのターゲットである。
頼み事を断った私を彼女は許さず、徹底的に無視した。女王様に逆らう家来などいらないとばかりに、冷淡な態度で。
私が困ったり、おどおどするのを見て笑みを浮かべる。楽しげにヒソヒソ話をする。
莉央の時よりもあからさまで、分かりやすい『いじめ』だった。
やがてクラスの誰もが、浮いた存在の私を遠巻きにするようになり、秋の終わりには完全に孤立した。
そう、ひとりぼっちである。
あの日を境に、綾華は莉央とあっさり仲直りして、何事もなかったかのように元どおりの関係になった。夏樹も入れて3人グループで行動している。
私にとって最大のショックは、綾華に外されたことではない。
莉央という友達が、綾華の頼みを受け入れたという事実である。
『奈々子を仲間はずれにしようよ』
おそらく綾華は、莉央に要望したのだろう。莉央を外そうと言ったのと同じ口で。
それを、莉央は受け入れてしまったのだ。
莉央は私と目を合わさず、近寄らず、一言も喋らない。学校にいる間だけでなく、帰宅後に電話しても応答しなかった。
一度、どうしても会って話がしたくて家を訪ねたけれど、彼女の母親が出てきて『莉央は会いたくないそうです。迷惑なので、もう来ないでください』と言われてしまった。
裏切られたーーと、思いたくない。
きっと、圧力に負けてしまったのだろう。綾華を敵に回すのを、彼女は恐れていた。
仕方ないのだ。
莉央はきっと苦しんでいるはず。私が近づけば、彼女がますます苦しむ。
自分に言い聞かせた。莉央の家は大変な状況であり、親に余計な心配をかけられないのだと。女王様に逆らえるはずもなく、断腸の思いで私を切ったのだと。
私が悪かったのだ。
綾華の頼みを断ったばかりに……もっと違ったやり方があっただろうに。もっと上手く振る舞えば、全てが丸く収まったのに……
だから私は、孤立してしまったんだ。
冬休み前の教室で、3人が韓国旅行について話すのを震えながら聞いた。ホームルームが始まるので、その場を離れることもできず。
このクラスは席替えがない。グループを外されて以降、地獄だった。
『莉央の旅費はパパが出してくれるから、心配しないでね!』
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どうして……どうしてもっと上手くできなかったのだろう。
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