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スイートホーム
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その新築マンションは、都心部のM区にあった。三保コンフォート東京本社まで徒歩5分という便利な立地である。
「俺としては職場から離れた場所が良かったんだけど、役員会議で決められちゃってさ」
「えっ、役員会議で?」
CEOの新居を会社が決めるなんて、そんなことがあるのだろうか。
スタイリッシュな外観の高層マンションを見上げつつ、私は首を傾げる。
「なるべく近くに置いて、監視したいんだろ。つまり、信用されてないわけ」
ボソッとつぶやき、苦笑してみせる。
「監視って、どうして……」
「トップシークレット」
その言葉と表情から、私はなんとなく察することができた。
経営陣としては、CEOが変な真似をしないよう監視したいのだ。
例えば、あの格好で羽目を外したり、ところ構わず動画撮影とか。
「ちなみに、今まではどこにお住まいだったのですか?」
もしかして実家かしらと思いながら訊ねた。
「CEOに就任して以来、ずっとホテル暮らし。何かと便利だからね」
「え……ホテル?」
「しかも本社近くの、系列のホテルだよ。徹底してるだろ?」
「な、なるほど」
想像を超えた答えに、それしかコメントできなかった。それも役員会議で決められたのだろうか。
「俺は最高責任者として、やるべきことはやってる。少しくらい息抜きしてもいいと思わないか?」
「え、ええ。でも」
その息抜きが問題のような……と言おうとして引っ込めた。
キングを刺激してはいけない。
「そっ、そうですね。役員の方には、もっと信用してほしいですよね」
「だろ!?」
関根さんの怒り顔が目に浮かぶ。役員に信用されないCEOって、一体……
由比さんの周囲の人々にあらためて同情するとともに、お目付け役が必要なわけだと納得した。
「そんなことより、さっさと部屋に行こう。こんなところに突っ立ってたら、雪だるまになっちまうぞ」
「は、はい」
織人さんに手を取られ、エントランスに入った。
「すごい……立派なマンションですね」
新築だけあって、どこもかしこもピカピカ。高級ホテルさながらのデザインが施されている。
「住人は金持ちばかりだからな。充実した設備と上質なサービス。特に防犯に関しては最新のシステムを導入しているそうだ」
「なるほど」
そう言う織人さんも、お金持ちの一人だ。
彼にとっては何でもない空間も、私には場違いな世界であり、なんだか落ち着かない。
「そうだ、これ」
エレベーターに乗る前、織人さんがカードキーを私に持たせた。
「カードがめんどうなら生体認証も使える。設定すれば、駐車場から部屋まで手ぶらで行けるぞ」
「そうなんですね」
何から何まで最新モードだが、私は普通で十分。あまりにも便利な生活は慣れないし、贅沢な気がする。
「奈々子らしく、のびのびと暮らせばいいさ。これからは俺が付いてるし」
エレベーターの扉が閉まる。
織人さんがパネルを操作し、最上階フロアを指定した。
(ペントハウス……)
私は急激に、緊張してきた。
「俺としては職場から離れた場所が良かったんだけど、役員会議で決められちゃってさ」
「えっ、役員会議で?」
CEOの新居を会社が決めるなんて、そんなことがあるのだろうか。
スタイリッシュな外観の高層マンションを見上げつつ、私は首を傾げる。
「なるべく近くに置いて、監視したいんだろ。つまり、信用されてないわけ」
ボソッとつぶやき、苦笑してみせる。
「監視って、どうして……」
「トップシークレット」
その言葉と表情から、私はなんとなく察することができた。
経営陣としては、CEOが変な真似をしないよう監視したいのだ。
例えば、あの格好で羽目を外したり、ところ構わず動画撮影とか。
「ちなみに、今まではどこにお住まいだったのですか?」
もしかして実家かしらと思いながら訊ねた。
「CEOに就任して以来、ずっとホテル暮らし。何かと便利だからね」
「え……ホテル?」
「しかも本社近くの、系列のホテルだよ。徹底してるだろ?」
「な、なるほど」
想像を超えた答えに、それしかコメントできなかった。それも役員会議で決められたのだろうか。
「俺は最高責任者として、やるべきことはやってる。少しくらい息抜きしてもいいと思わないか?」
「え、ええ。でも」
その息抜きが問題のような……と言おうとして引っ込めた。
キングを刺激してはいけない。
「そっ、そうですね。役員の方には、もっと信用してほしいですよね」
「だろ!?」
関根さんの怒り顔が目に浮かぶ。役員に信用されないCEOって、一体……
由比さんの周囲の人々にあらためて同情するとともに、お目付け役が必要なわけだと納得した。
「そんなことより、さっさと部屋に行こう。こんなところに突っ立ってたら、雪だるまになっちまうぞ」
「は、はい」
織人さんに手を取られ、エントランスに入った。
「すごい……立派なマンションですね」
新築だけあって、どこもかしこもピカピカ。高級ホテルさながらのデザインが施されている。
「住人は金持ちばかりだからな。充実した設備と上質なサービス。特に防犯に関しては最新のシステムを導入しているそうだ」
「なるほど」
そう言う織人さんも、お金持ちの一人だ。
彼にとっては何でもない空間も、私には場違いな世界であり、なんだか落ち着かない。
「そうだ、これ」
エレベーターに乗る前、織人さんがカードキーを私に持たせた。
「カードがめんどうなら生体認証も使える。設定すれば、駐車場から部屋まで手ぶらで行けるぞ」
「そうなんですね」
何から何まで最新モードだが、私は普通で十分。あまりにも便利な生活は慣れないし、贅沢な気がする。
「奈々子らしく、のびのびと暮らせばいいさ。これからは俺が付いてるし」
エレベーターの扉が閉まる。
織人さんがパネルを操作し、最上階フロアを指定した。
(ペントハウス……)
私は急激に、緊張してきた。
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