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スイートホーム
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「それは、会社の経費だったりしますか……?」
まさかと思いつつ、訊いてみた。
「ああ、ダメダメ。事業に関係ないから、会社は出してくれない。自分で買ったさ」
「自分で……」
都心の一等地のビルを、趣味のために購入する。
この人にとっては、お小遣いで本を買うていどの感覚なのだ。
(すごすぎる。というか、織人さんの年収っていくらなんだろう)
三保コンフォートは確かに一流企業だけれど、時価総額のランキングで最上位というわけではない。また、上場企業の経営者が法外な報酬を得られるわけもなく。
私はしばし考え、ぱっと思いついた。
(もしかして、織人さんには本業の他に収入源が……?)
きっとそうだ。
高額な買い物がぽんぽんできるのは、彼自身がお金持ちだから。
例えば株とか、不動産投資とか、個人資産を運用すれば収入源になる。
利益が出るとすれば、それこそ桁違いの額だろう。
「あの、織人さんは……」
「ん?」
確かめようとして、口を閉じる。
やめておこう。夫婦間でも、お金について根掘り葉掘りするのは憚られる。
私は詮索を打ち切り、話を元に戻した。
「いえ、えっと……それで織人さんは朝早く起きて、スタジオで動画を撮影したのですね」
「そう。久しぶりだから張り切っちゃったよ」
織人さんは動画の内容について生き生きと語った。
スクワット回数新記録だとか、ビール瓶の手刀切りとか?? 相変わらずよく分からない世界だけれど、あまりにも楽しそうなので、うなずきながら最後まで聞いた。
この人は本当に、ウーチューブの活動が好きなのだ。時間が許せば、一日中でも撮影に没頭するのだろう。
(あの動画は理解不能だけど……夢中になれるものがあるって、幸せだよね)
お金では買えない夢。
だからこそこんなにも、輝いているのだ。
「昼間は仕事だから、夜に編集して、それからアップする予定なんだ。奈々子には一番に見せてやるからな」
「あ、ありがとうございます」
嬉しいと言ったら嘘になるが、織人さんの気持ちは受け止めたい。
少年のような彼に、微笑みを返した。
「あの、ところで織人さん。私、お仕事の時間とか何も知らなくて。大体で良いのでスケジュールを教えてもらえますか?」
朝食を食べ終えてから、織人さんの予定を確認した。
昨日、彼は私とデートして一日潰してしまった。いくら優秀なチームでも、CEOがたびたび休んでは業務に支障が出るはず。
妻となったからには、彼のチームのためにも精一杯サポートすべきだ。
「そうだな。俺も奈々子とはすべての予定を共有したいと思ってたんだ」
織人さんは私のスマホにスケジュールアプリを設定してくれた。かなり細かな予定が記されている。
「帰りが遅くなる場合は電話する。奈々子も用事ができたり、何か変わったことがあれば、遠慮なく連絡してくれ。例えば、急に俺とデートしたくなったとか、どうしても会いたくなった時なんかに、ね」
「はあ」
冗談なのか本気なのか測りかね、曖昧に返事した。すると……
「そこはほら、素直に返してくれなきゃ! まったく奈々子は照れ屋なんだから」
「なっ……」
いつものように冗談めかす彼に、ムッとした。私は大真面目なのに。
「そうじゃなくて。とにかく私は、織人さんのお仕事をじゃましたくないんです。デートはともかく、わがままを言いたくないっていうか」
「奈々子……」
彼もキリッとした顔つきになる。気持ちが通じたのかと嬉しくなるが……
「奈々子のわがままなら大歓迎さ。いつどんな時も俺を求めてくれ。すぐに飛んでくるから」
「……」
なんかちょっと違う。
やっぱり、どこかふざけているのかしら。
というより、熱い眼差しとストレートな言葉が恥ずかしい。なぜこんなにも情熱的なのだろう。
熱視線に耐えられず、そっと目を逸らした。
テーブルの上を片付け始める私を、織人さんが物足りなそうに見てくるが、やがてあきらめたのか席を立った。
「さて、そろそろ仕事に行くよ。奈々子も、今日は足元が悪いから気をつけてな」
「あ、はい。織人さんも気をつけて」
私は今日、一旦実家に帰ろうと思っている。両親公認とはいえ、入籍とか、マンションに移ったことも報告すべきだし、運びたい荷物もある。
(それに、きちんと挨拶しなくちゃ。これまで育ててもらったんだから、けじめとして)
「次の休みは両家の顔合わせだ。場所は親父が連絡すると言ってたから、お義父さんによろしくお伝えしてくれ」
「わかりました」
私は急いで洗い物を済ませ、織人さんを玄関まで見送った。
「じゃ、行ってくる」
「は、はい。行ってらっしゃい」
なんだか急に、新婚夫婦であることを意識してしまう。織人さんも少し照れた感じで、それでも私の手を握ると、強引に抱き寄せた。
「あっ、織人さん?」
「はあ……奈々子は俺の妻。カワイイ」
しばらく抱きしめたあと軽くキスをして、私を解放した。
「よっしゃ、充電完了。行ってきまーす!!」
「あっ、あの……お気をつけて!」
ドアが閉まるとホッとした。やはり私は、かなり緊張しているのかもしれない。
だんだん実感が湧いてきたから。
好きな人と結婚した喜びと幸せ。新婚生活。そのすべてに……ドキドキする。
まさかと思いつつ、訊いてみた。
「ああ、ダメダメ。事業に関係ないから、会社は出してくれない。自分で買ったさ」
「自分で……」
都心の一等地のビルを、趣味のために購入する。
この人にとっては、お小遣いで本を買うていどの感覚なのだ。
(すごすぎる。というか、織人さんの年収っていくらなんだろう)
三保コンフォートは確かに一流企業だけれど、時価総額のランキングで最上位というわけではない。また、上場企業の経営者が法外な報酬を得られるわけもなく。
私はしばし考え、ぱっと思いついた。
(もしかして、織人さんには本業の他に収入源が……?)
きっとそうだ。
高額な買い物がぽんぽんできるのは、彼自身がお金持ちだから。
例えば株とか、不動産投資とか、個人資産を運用すれば収入源になる。
利益が出るとすれば、それこそ桁違いの額だろう。
「あの、織人さんは……」
「ん?」
確かめようとして、口を閉じる。
やめておこう。夫婦間でも、お金について根掘り葉掘りするのは憚られる。
私は詮索を打ち切り、話を元に戻した。
「いえ、えっと……それで織人さんは朝早く起きて、スタジオで動画を撮影したのですね」
「そう。久しぶりだから張り切っちゃったよ」
織人さんは動画の内容について生き生きと語った。
スクワット回数新記録だとか、ビール瓶の手刀切りとか?? 相変わらずよく分からない世界だけれど、あまりにも楽しそうなので、うなずきながら最後まで聞いた。
この人は本当に、ウーチューブの活動が好きなのだ。時間が許せば、一日中でも撮影に没頭するのだろう。
(あの動画は理解不能だけど……夢中になれるものがあるって、幸せだよね)
お金では買えない夢。
だからこそこんなにも、輝いているのだ。
「昼間は仕事だから、夜に編集して、それからアップする予定なんだ。奈々子には一番に見せてやるからな」
「あ、ありがとうございます」
嬉しいと言ったら嘘になるが、織人さんの気持ちは受け止めたい。
少年のような彼に、微笑みを返した。
「あの、ところで織人さん。私、お仕事の時間とか何も知らなくて。大体で良いのでスケジュールを教えてもらえますか?」
朝食を食べ終えてから、織人さんの予定を確認した。
昨日、彼は私とデートして一日潰してしまった。いくら優秀なチームでも、CEOがたびたび休んでは業務に支障が出るはず。
妻となったからには、彼のチームのためにも精一杯サポートすべきだ。
「そうだな。俺も奈々子とはすべての予定を共有したいと思ってたんだ」
織人さんは私のスマホにスケジュールアプリを設定してくれた。かなり細かな予定が記されている。
「帰りが遅くなる場合は電話する。奈々子も用事ができたり、何か変わったことがあれば、遠慮なく連絡してくれ。例えば、急に俺とデートしたくなったとか、どうしても会いたくなった時なんかに、ね」
「はあ」
冗談なのか本気なのか測りかね、曖昧に返事した。すると……
「そこはほら、素直に返してくれなきゃ! まったく奈々子は照れ屋なんだから」
「なっ……」
いつものように冗談めかす彼に、ムッとした。私は大真面目なのに。
「そうじゃなくて。とにかく私は、織人さんのお仕事をじゃましたくないんです。デートはともかく、わがままを言いたくないっていうか」
「奈々子……」
彼もキリッとした顔つきになる。気持ちが通じたのかと嬉しくなるが……
「奈々子のわがままなら大歓迎さ。いつどんな時も俺を求めてくれ。すぐに飛んでくるから」
「……」
なんかちょっと違う。
やっぱり、どこかふざけているのかしら。
というより、熱い眼差しとストレートな言葉が恥ずかしい。なぜこんなにも情熱的なのだろう。
熱視線に耐えられず、そっと目を逸らした。
テーブルの上を片付け始める私を、織人さんが物足りなそうに見てくるが、やがてあきらめたのか席を立った。
「さて、そろそろ仕事に行くよ。奈々子も、今日は足元が悪いから気をつけてな」
「あ、はい。織人さんも気をつけて」
私は今日、一旦実家に帰ろうと思っている。両親公認とはいえ、入籍とか、マンションに移ったことも報告すべきだし、運びたい荷物もある。
(それに、きちんと挨拶しなくちゃ。これまで育ててもらったんだから、けじめとして)
「次の休みは両家の顔合わせだ。場所は親父が連絡すると言ってたから、お義父さんによろしくお伝えしてくれ」
「わかりました」
私は急いで洗い物を済ませ、織人さんを玄関まで見送った。
「じゃ、行ってくる」
「は、はい。行ってらっしゃい」
なんだか急に、新婚夫婦であることを意識してしまう。織人さんも少し照れた感じで、それでも私の手を握ると、強引に抱き寄せた。
「あっ、織人さん?」
「はあ……奈々子は俺の妻。カワイイ」
しばらく抱きしめたあと軽くキスをして、私を解放した。
「よっしゃ、充電完了。行ってきまーす!!」
「あっ、あの……お気をつけて!」
ドアが閉まるとホッとした。やはり私は、かなり緊張しているのかもしれない。
だんだん実感が湧いてきたから。
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