一億円の花嫁

藤谷 郁

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三人のその後

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「あの子は私と同じ。あんたを守れなかったことを後悔してる。地面に頭を擦り付けて土下座して、それでもまだ足りないくらいにね」

 姉がスマホをポケットに仕舞い、独り言のようにつぶやく。

 私は目を閉じて、夏樹の面影を瞼に浮かべた。クールで、頭が良くて、ボーイッシュな女の子。いつも綾華のそばにいた。

 夏樹にとって、綾華は女王様だった。わがままで残酷な幼なじみ。家族ぐるみの付き合いなら、縁も深いだろう。
 縁というより、しがらみかもしれない。

 もしかしたら、彼女こそが一番の犠牲者なのでは……
 初めてする想像だった。

「私、気づかなかった。あの頃、自分のことでいっぱいいっぱいで」

 目を開き、顔を上げた。
 まっすぐに見つめる私に、姉が微笑みを浮かべる。

「お姉ちゃん、夏樹は? まだ外にいるの?」



◇ ◇ ◇



姉が連れて来たのは駅近くのカフェ。1階がカウンター席で、2階はテーブル席という配置だ。
 今日は足元が悪いためか店内は空いており、2階に行くと客が1人いるだけだった。
 ショートカットの、スーツを着た女性である。私たちの気配を感じてか、こちらを振り向く。

「あ……っ」

 彼女が立ち上がり、かけていた眼鏡を外す。仕事の資料らしきものをテーブルに広げていた。

 姉が私の腕を取り、彼女の席へと引っ張っていく。いざとなって動揺する私を、前進させるみたいに。
 
「奈々子……」
「夏樹……」

 あの頃より背が高い。でも顔立ちはほとんど変わっていない。もともと大人びた雰囲気だから、そう見えるのだろうか。
 パンツの膝が汚れているのは、さっき土下座したせいだ。
 目が赤いのは、泣いたせい。

「お待たせ、夏樹さん。あなたの話、奈々子は信じたみたいよ」

 姉に促され、夏樹と私は向き合って座った。オーダーを取りに来た店員に、私は紅茶を頼む。夏樹が飲んでいるのと同じものを。

「すぐに帰らず、ここで待つように言っておいたの。やっぱり直接会うべきだと思ってさ」
「あ、ありがとう、お姉ちゃん」

 録音を聴いて、それからどうするのか決めろと姉は言った。押し付けるのではなく、私の意思を尊重してくれたのだ。

「そうそう。これはあんたが持っていなさい」

 姉がポケットからカードを取り出し、私の手に持たせた。夏樹の名刺である。

「それから……」

 夏樹へと視線を移した。

「忙しそうだけど、今日は時間大丈夫なの?」
「あ、はい。半休を取ったので」

 姉がテーブルの書類を見やり、私が持つ名刺と見比べた。

「外資コンサルの日本法人か。大手メーカーや官公庁を相手に業績を上げてる有名企業よね。最近はスタートアップ戦略を始めたとかで話題になってたっけ。その若さでマネージャーなんて、大したもんだわ」
「いえ、そんな。恐れ入ります」
「マジですごいって。相当、努力したのね」

 恐縮する夏樹の肩を、ぽんと叩いた。

「それじゃ、奈々子。私は下でコーヒー飲んでるから、話が終わったら声をかけて」
「うん、分かった」

 姉が階段を下りていき、フロアはシンとなる。
 残された二人は、しばし口も聞けずに見つめ合う。
 様々な思いが、胸に去来していた。
 


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