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織人の調査
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「そんなことがあったのか」
「はい」
夜、織人さんに昼間のできごとを話した。夏樹が語ってくれた、あの頃の真相と、その後の三人についてをすべて。
複雑な感情をともなう話なので、夕飯の片付けを済ませて、リビングのソファに移動したタイミングで聞いてもらった。
時々言葉を詰まらせてしまう私の隣で、彼は口を挟むことなく、黙って最後まで耳を傾けてくれた。
どんな感情も受けいれてくれるような、ゆったりとした態度がありがたかった。そんな彼に話すことで、あらためて気持ちの整理ができた気がする。
だけど、織人さんの落ち着きには理由があったのだ。
「実はな、奈々子。俺も少し調べてみたんだ」
「……?」
どういう意味か分からずぽかんとする私を、織人さんが見つめる。真面目な眼差しを見返し、ハッとした。
「調べた、というのは……もしかして?」
「うん」
織人さんがスマートフォンを操作し、アプリを開く。表示されたのは、ファイルにまとめられたレポートだった。
「『西野綾華に関する報告』……これって」
「横浜で遭遇した、あの女。奈々子はもういいと言ったが、俺はどうにもおさまらなくてさ、特務室に調べてもらったんだ。西野綾華とその人間関係。過去から現在にいたるまで、できるだけ詳細に」
「ええっ!?」
特務室というのは、三保コンフォート本部秘書課に置かれた、CEO直属のアシスタントチームである。
「そ、そんな、仕事とは無関係な、個人的な調査を職場の方々に……」
「奈々子は俺の妻だ。社長夫人の安全を守るのは会社として当然の義務であり、調査は彼らの職務であり、なんら問題はない。気にするな!!」
キリッとしてみせるが、私には分かった。
この人は、やはり綾華を許せず、個人的な感情で動いている。私の指摘をかわそうとするのは、職権濫用を自覚してのこと。
「織人さん……」
「なんら問題はない。そうだろ?」
「う……」
やると言ったら必ずやる。猪突猛進な彼を誰が止められよう。
私は心の中で特務室のスタッフに謝りつつ、頷くほかなかった。
特務室の調査は詳細だった。一日でよくこれだけの情報を集められたと感心するほど。
そして、綾華たちのその後に関しては、夏樹の話と一致している。つまり織人さんは、このレポートがあったから、私の話を落ち着いて聞いていたのだと分かった。
「車田夏樹と加納莉央。彼女たちが高校卒業後、西野綾華と関係を断った事情がこれで明らかになった。二人とも脅されて付き合ってたようなもんだからな。奈々子を無視したのも、不本意だったわけだ」
そのとおり、彼女たちも被害者である。
綾華の命令に逆らえずいじめに加担し、罪悪感を抱えたまま高校時代を過ごした。だけど二人とも、最後に決断したのだ。綾華と決別すると。
「奈々子は、許せるのか」
織人さんが顔を覗き込んだ。
「事情があったにせよ、彼女たちが君を孤立させたのは事実だ。友達を犠牲にして自己保身を図る……土下座しようが、許されることじゃないと俺は思うけどね」
「それは……」
あの頃、確かに私は苦しんだ。毎日毎日、辛くて仕方なかった。
でも、事情を知った今、二人に対する気持ちは驚くほど和らいでいる。
これも事実なのだ。
「今回、車田夏樹は謝罪しに来たが、あまりにも遅すぎる。加納莉央にしても、奈々子に会おうともしない。悪いと思ってるなら、詫びの一つも入れるべきだろ」
「織人さん、それは違います。夏樹だってずっと苦しんでたし、莉央も、後悔してるからこそ会いに来れないんです」
奈々子に合わせる顔がない。
夏樹が話してくれたとおり、あの子なら、そう言うだろう。
「はい」
夜、織人さんに昼間のできごとを話した。夏樹が語ってくれた、あの頃の真相と、その後の三人についてをすべて。
複雑な感情をともなう話なので、夕飯の片付けを済ませて、リビングのソファに移動したタイミングで聞いてもらった。
時々言葉を詰まらせてしまう私の隣で、彼は口を挟むことなく、黙って最後まで耳を傾けてくれた。
どんな感情も受けいれてくれるような、ゆったりとした態度がありがたかった。そんな彼に話すことで、あらためて気持ちの整理ができた気がする。
だけど、織人さんの落ち着きには理由があったのだ。
「実はな、奈々子。俺も少し調べてみたんだ」
「……?」
どういう意味か分からずぽかんとする私を、織人さんが見つめる。真面目な眼差しを見返し、ハッとした。
「調べた、というのは……もしかして?」
「うん」
織人さんがスマートフォンを操作し、アプリを開く。表示されたのは、ファイルにまとめられたレポートだった。
「『西野綾華に関する報告』……これって」
「横浜で遭遇した、あの女。奈々子はもういいと言ったが、俺はどうにもおさまらなくてさ、特務室に調べてもらったんだ。西野綾華とその人間関係。過去から現在にいたるまで、できるだけ詳細に」
「ええっ!?」
特務室というのは、三保コンフォート本部秘書課に置かれた、CEO直属のアシスタントチームである。
「そ、そんな、仕事とは無関係な、個人的な調査を職場の方々に……」
「奈々子は俺の妻だ。社長夫人の安全を守るのは会社として当然の義務であり、調査は彼らの職務であり、なんら問題はない。気にするな!!」
キリッとしてみせるが、私には分かった。
この人は、やはり綾華を許せず、個人的な感情で動いている。私の指摘をかわそうとするのは、職権濫用を自覚してのこと。
「織人さん……」
「なんら問題はない。そうだろ?」
「う……」
やると言ったら必ずやる。猪突猛進な彼を誰が止められよう。
私は心の中で特務室のスタッフに謝りつつ、頷くほかなかった。
特務室の調査は詳細だった。一日でよくこれだけの情報を集められたと感心するほど。
そして、綾華たちのその後に関しては、夏樹の話と一致している。つまり織人さんは、このレポートがあったから、私の話を落ち着いて聞いていたのだと分かった。
「車田夏樹と加納莉央。彼女たちが高校卒業後、西野綾華と関係を断った事情がこれで明らかになった。二人とも脅されて付き合ってたようなもんだからな。奈々子を無視したのも、不本意だったわけだ」
そのとおり、彼女たちも被害者である。
綾華の命令に逆らえずいじめに加担し、罪悪感を抱えたまま高校時代を過ごした。だけど二人とも、最後に決断したのだ。綾華と決別すると。
「奈々子は、許せるのか」
織人さんが顔を覗き込んだ。
「事情があったにせよ、彼女たちが君を孤立させたのは事実だ。友達を犠牲にして自己保身を図る……土下座しようが、許されることじゃないと俺は思うけどね」
「それは……」
あの頃、確かに私は苦しんだ。毎日毎日、辛くて仕方なかった。
でも、事情を知った今、二人に対する気持ちは驚くほど和らいでいる。
これも事実なのだ。
「今回、車田夏樹は謝罪しに来たが、あまりにも遅すぎる。加納莉央にしても、奈々子に会おうともしない。悪いと思ってるなら、詫びの一つも入れるべきだろ」
「織人さん、それは違います。夏樹だってずっと苦しんでたし、莉央も、後悔してるからこそ会いに来れないんです」
奈々子に合わせる顔がない。
夏樹が話してくれたとおり、あの子なら、そう言うだろう。
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