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織人の調査
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「はあ……」
織人さんがまつ毛を伏せて、ため息を漏らす。呆れたのかもしれない。
「俺だったら、誰に脅されようが絶対に奈々子を裏切らない。必ず守り抜いてみせるよ。それが愛ってもんだろ」
「えっ……あ、愛?」
この場合は『友情』だと思うけれど……と言いかけるが、織人さんの真剣な態度に押され、うなずくのみ。
「だけど、許すんだな。奈々子、君って人は本当に……」
お人好しと言いたいのだと思った。自分でも分かっているから。
「呆れちゃいますよね。でも私は……」
「本当に、なんて優しい女性なんだ!!」
「ひゃっ?」
思いきり抱きしめてきた。
反射的に身を引くが、強引に捕まえられる。
「お、織人さん、ちょっとあの、苦し……」
腕の中でもごもごすると、少し緩めてくれた。
しかし顔が近い。
「いいか、奈々子。よく聞け」
「は、はい」
抱きしめられ、至近距離で見つめられるのは、もう何度目だろう。少しは慣れても良いはずなのに、なぜかますますドキドキして、声がうわずってしまう。
「優しさって言うのは、人間が持つ高度な精神性の表れであり、豊かな感受性の賜物と言える」
「?」
よく分からないが、織人さんの口調は肯定的で、褒められているのだと感じる。
「様々な苦難に翻弄されながらも、感受性を育んできた。打たれても打たれても、なお優しさを失わない奈々子は強く、素晴らしい女性だよ。俺の理想をはるかに超えて、まさに女神!」
「ええっ?」
いくらなんでも大げさな。
だけど、彼の身体から伝わる熱量は、嘘でない証拠。たぶん、本気で言っている。
「つ、強くなんかありません。私は、傷つかないように、びくびくしながら生きてきたくらいで。優しいんじゃなくて、お人好しというか」
「うんうん。奈々子は可愛いなあ」
再び抱きしめられ、愛しそうに髪を撫でられる。
「自分の素晴らしさに気付いてないところが可愛い。謙虚な心が可愛い。とにかく奈々子は、世界一可愛い俺の愛妻なんだ」
「……」
全肯定の極みである。
まるで、ロマンス小説に描かれる『溺愛』そのもの。
(織人さん……)
憧れのシチュエーションだけど、いざとなると少し……いや、かなり恥ずかしい。
小説のヒロインなら、気の利いたセリフで応えるのだろうが、私にはハードルが高すぎる。
何も言えなくなり、されるがままになった。
「だけどな、奈々子」
ふと、髪を撫でる手が止まった。
「許しちゃならねえ奴もいる。少なくとも俺は、絶対に見逃さないぞ」
「え……」
そっと上を向くと、織人さんの厳しい表情かおがあった。
「西野綾華。過去に奈々子を苦しめ、今もなおいたぶろうとするクソ女を俺は許さねえ。てなわけで、奴が現在どんな状況なのか徹底的に調べ上げたぜ。奈々子を全力で守るためにな。だがその結果、とんでもない事実が判明した」
「ど、どういうことですか?」
夏樹によると、綾華は現在親元で暮らし、花嫁修業中のはず。それ以外の情報があったのだろうか。
しかも、とんでもないというのは?
「信じたくもない、看過できない事実だよ」
織人さんが座り直し、きちんと向き合う。
さっきとはまったく意味の違う、不穏なドキドキがしてきた。
看過できないとは?
まさか、私に関係すること?
固唾を呑んで、彼の言葉を待った。
「昨日、西野綾華があのビルを訪れたのは、見合いのためだそうだ。西野社長が大本命とする政略結婚のお相手と」
「お見合い……あ」
そういえば、夏樹が推測していた。
綾華の装いを思い出して、私は納得する。
「報告によると、その相手というのが」
織人さんが言葉を切り、そして苦々しげに告げた。
「大手デベロッパーの社長令息にして俺の親友……羽根田翼だ」
織人さんがまつ毛を伏せて、ため息を漏らす。呆れたのかもしれない。
「俺だったら、誰に脅されようが絶対に奈々子を裏切らない。必ず守り抜いてみせるよ。それが愛ってもんだろ」
「えっ……あ、愛?」
この場合は『友情』だと思うけれど……と言いかけるが、織人さんの真剣な態度に押され、うなずくのみ。
「だけど、許すんだな。奈々子、君って人は本当に……」
お人好しと言いたいのだと思った。自分でも分かっているから。
「呆れちゃいますよね。でも私は……」
「本当に、なんて優しい女性なんだ!!」
「ひゃっ?」
思いきり抱きしめてきた。
反射的に身を引くが、強引に捕まえられる。
「お、織人さん、ちょっとあの、苦し……」
腕の中でもごもごすると、少し緩めてくれた。
しかし顔が近い。
「いいか、奈々子。よく聞け」
「は、はい」
抱きしめられ、至近距離で見つめられるのは、もう何度目だろう。少しは慣れても良いはずなのに、なぜかますますドキドキして、声がうわずってしまう。
「優しさって言うのは、人間が持つ高度な精神性の表れであり、豊かな感受性の賜物と言える」
「?」
よく分からないが、織人さんの口調は肯定的で、褒められているのだと感じる。
「様々な苦難に翻弄されながらも、感受性を育んできた。打たれても打たれても、なお優しさを失わない奈々子は強く、素晴らしい女性だよ。俺の理想をはるかに超えて、まさに女神!」
「ええっ?」
いくらなんでも大げさな。
だけど、彼の身体から伝わる熱量は、嘘でない証拠。たぶん、本気で言っている。
「つ、強くなんかありません。私は、傷つかないように、びくびくしながら生きてきたくらいで。優しいんじゃなくて、お人好しというか」
「うんうん。奈々子は可愛いなあ」
再び抱きしめられ、愛しそうに髪を撫でられる。
「自分の素晴らしさに気付いてないところが可愛い。謙虚な心が可愛い。とにかく奈々子は、世界一可愛い俺の愛妻なんだ」
「……」
全肯定の極みである。
まるで、ロマンス小説に描かれる『溺愛』そのもの。
(織人さん……)
憧れのシチュエーションだけど、いざとなると少し……いや、かなり恥ずかしい。
小説のヒロインなら、気の利いたセリフで応えるのだろうが、私にはハードルが高すぎる。
何も言えなくなり、されるがままになった。
「だけどな、奈々子」
ふと、髪を撫でる手が止まった。
「許しちゃならねえ奴もいる。少なくとも俺は、絶対に見逃さないぞ」
「え……」
そっと上を向くと、織人さんの厳しい表情かおがあった。
「西野綾華。過去に奈々子を苦しめ、今もなおいたぶろうとするクソ女を俺は許さねえ。てなわけで、奴が現在どんな状況なのか徹底的に調べ上げたぜ。奈々子を全力で守るためにな。だがその結果、とんでもない事実が判明した」
「ど、どういうことですか?」
夏樹によると、綾華は現在親元で暮らし、花嫁修業中のはず。それ以外の情報があったのだろうか。
しかも、とんでもないというのは?
「信じたくもない、看過できない事実だよ」
織人さんが座り直し、きちんと向き合う。
さっきとはまったく意味の違う、不穏なドキドキがしてきた。
看過できないとは?
まさか、私に関係すること?
固唾を呑んで、彼の言葉を待った。
「昨日、西野綾華があのビルを訪れたのは、見合いのためだそうだ。西野社長が大本命とする政略結婚のお相手と」
「お見合い……あ」
そういえば、夏樹が推測していた。
綾華の装いを思い出して、私は納得する。
「報告によると、その相手というのが」
織人さんが言葉を切り、そして苦々しげに告げた。
「大手デベロッパーの社長令息にして俺の親友……羽根田翼だ」
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