一億円の花嫁

藤谷 郁

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織人の調査

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『それで、どうしました。織人に頼まれての代行電話かな?』
「えっ?」

 ドキッとした。
 しかし翼さんの口調はユーモラスで、不愉快な様子でもない。
 織人さんの代行だとしても、私のことを拒否するつもりはなさそうだった。

「すみません。実はそうなのですが、それだけでなくて……私自身が翼さんにお伝えしたいことがあるのです」
『奈々子さんが俺に?』

 見当もつかないといった返事。
 私はためらわず、用件を切り出す。

「西野綾華という女性をご存知ですね」
『!?』

 ハッとした気配があった。

「昨日、翼さんがお見合いされた女性です」
『な、なぜその名前を』

 明らかに戸惑っている。
 だが彼はすぐ冷静になり、問い返してきた。

『織人ですね? やっぱりあいつが奈々子さんに電話をかけさせて』
「違います!」

 うんざりした声を払うように私は続けた。真剣な気持ちが届くよう、まっすぐにぶつける。

「西野綾華は、私の中学時代の同級生です。彼女について、どうしても伝えたいことがあってお電話しました。翼さんがお見合いの返事をしてしまう前に」
『ええっ?』

 私と綾華に接点があるなど、想定外だったろう。だけどこれで、話の内容を大体察したはずだ。
 沈黙は、検討の余地ありと判断したから。私の真剣な気持ちを受け止めてくれたのだと信じたい。
 
『奈々子さん』
「は、はいっ」

 やがて聞こえたのは、静かな呼びかけ。思わぬほど穏やかな声音であり、私はかえってビクッとした。

『すみませんが、まだ仕事中でして。その件については、後日あらためてお聞かせ願えませんでしょうか』
「あ……」

 届いた。
 織人さんがサムズアップして、うなずいている。

「もちろんです。私はいつでも大丈夫なので、翼さんの都合の良い時間にご連絡ください」
『分かりました。それで奈々子さん、一つだけ約束してほしいのですが』
「……え?」

 約束?
 どういうことだろう。
 守秘義務ならもちろん厳守すると答えようとすると……

『できれば直接会って、しかも織人のいないところでお願いします。あいつにああだこうだ言われるのは我慢ならんので』
「……は、はあ」

 どうやら翼さんは、お見合いや結婚に関して織人さんに口出しされるのを本当に嫌がっている。
 なぜかはよく分からないが、それが条件ということであれば、返事はただ一つ。

「承知しました。日時と場所を指定してくだされば、私一人で出向きます」

 翼さんに約束すると、織人さんの親指が下向きになった。
 


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