一億円の花嫁

藤谷 郁

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気の合う二人

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 翼さんが縁談について織人さんに口出しされたくない理由。
 もしかしたら、と、思いつくことがあった。

 翼さんと織人さんは対照的なタイプであり、女性に対する関わり方も違うだろう。どちらかと言えば、翼さんは私に近いのではないか。
 つまり、基本的に異性が苦手で、不器用ということ。

 家のために、どんな相手だろうと結婚する。私も同じだったから理解できる。そんな私たちにとって織人さんは眩しすぎるのだ。
 生まれながらのモテ男子。魅力的で、器用で、自信にあふれている。

(男同士だから余計、あれこれ口出しされたくないのかも……)

 翼さんと待ち合わせた喫茶店へと歩きながら、つらつら考えた。
 約束どおり織人さん抜きで、私一人である。確かに、このほうが落ち着いて話せそうだ。

 今朝の織人さんを思い出す。

『奈々子ならあいつを説得できるだろう。どうやら翼のやつ、君のことは信用してるみたいだからな。しかし俺を蚊帳の外にするとはけしからん! しかも奈々子と二人きりで会いたいなんて、翼だから一万歩譲って許可するが、他のやつなら絶対に……ちよっと奈々子、聞いてるのか?』

 と、家事をする私にまとわりついていた。不満そうに頬を膨らませて、かなりうるさかった。

「ぷっ……」

 なんだか笑ってしまう。
 あれほど魅力的な男性でありながら、まるで子供のよう。あのギャップに最初は戸惑ったけれど、この頃は慣れてきて、かえって微笑ましいくらいだ。

 あの子供っぽさも、翼さんが同席させたくない理由かもしれない。何を言いだすか分からないところがある。例えば、「殺っちまおうぜ!」とか。
 本当にやりかねないから恐ろしい。



 喫茶店は商業施設の3階にあった。通りを見下ろせる窓際の席を翼さんが予約していた。
 ロッジ風の内装が素朴で、好ましい雰囲気である。
 私一人で来て正解だ、とあらためて思いながら待っていると、約束の午後3時ちょうどに翼さんが現れた。

「こんにちは、奈々子さん。お待たせしてすみません」
「いえ、今来たばかりですので」

 がっしりとした体躯を紺のスーツに包み、腕にコートを提げている。なんだかとても暑そうで、向かいに座ると「失礼」とことわってからネクタイを緩めた。

「昨夜は電話をありがとうございます。約束も守っていただけたようで、感謝しますよ」

 翼さんが周りを見回してから、ニコッと微笑む。コワモテだが人柄の良さが滲み出る笑顔に、私は和んだ。
 翼さんはやはり、良い人だ。
 だからこそ、綾華との縁談はすすめられない。絶対に。

 コーヒーを飲み、互いにリラックスしてから本題に入る。同じタイミングで、翼さんも聞く姿勢をとってくれた。
 私は西野綾華について、私の知る限りの事実すべてを、彼に伝えた。


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