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気の合う二人
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「まあとにかく、イジメ女など論外中の論外。西野家との縁談はきっぱり断ります」
翼さんが吹っ切れたように笑い、私も微笑みを返す。
良かった。
本当に良かった。
間に合ったことを喜びながら、織人さんにすぐ報告したい気持ちに駆られる。
どんなに安心するだろう。
「ところで奈々子さん。俺と会う時間と場所を織人に言いましたか」
「え?」
なぜ今頃、そんなことを?
不思議に思いつつ、返事する。
「それは……はい。しつこく聞いてくるので、一応、教えましたが。でも、絶対に来ないよう念を押してあります」
再度確認するため、店内を見回す。もちろん織人さんの姿は見つからない。
「甘いですね」
「はい?」
翼さんが窓の外を見やった。
視線の先を追ってみると……
「ひっ!?」
向かいのビルの3階。この店と同じようにガラス張りのカフェがあり、その窓に、スーツ姿の男性が張り付いている。手に双眼鏡を持って。
「おっ、織人さん?」
びっくりして腰が抜けそうになる。
なぜ、どうしてあんなところから覗いているの?
「し、知りませんでした。ほんとに、信じてくださいっ」
「分かってますよ」
私の訴えを、翼さんはすんなりと受け入れた。
同情の眼差しで。
「相手が俺であろうと、愛する妻が他の男と二人きりになるのが心配なんでしょう。とはいえ、あいつの執着には呆れるを通り越して戦慄を覚えますが……奈々子さん、もう一度言わせてください」
「は、はい」
「えらい男に捕まりましたね」
「ううっ……」
向かいのビルへと、視線を戻す。
私に気づかれて開き直ったのか、織人さんが大きく手を振っている。
「まったく、子供みたいなやつだ」
苦笑混じりの翼さんの言葉は、そのままそっくり私の感想だった。
その日の夜――
「なあなあ、うまくいったんだろ? なんで怒ってるんだ」
「怒ってなんかいません」
呆れ果てているのです。あなたの奇行に。
遅く帰ってきた織人さんにコーヒーを入れながら、私は言葉を飲み込む。
翼さんに、『あいつなりに一生懸命なんです。多めに見てやってください』と頼まれてしまったから仕方ない。
でもやっぱり、塩対応になってしまう。
「奈々子が浮気するなんてこれっぽっちも考えてないよ。俺はただ、話し合いがうまくいくか心配だっただけで」
言い訳するところがあやしい。
ドリップしたコーヒーをマグカップに注ぎ、織人さんに持たせた。
「もう、わかりましたから。それより、お仕事は大丈夫だったんですか? スケジュールでは、あの時間は会議のはずですよね」
「ああ、全然。関根さんに調整してもらったよ」
また!?
織人さんと並んでリビングのソファに座り、私は頭を抱えた。
「何度も言いますが、関根さんや社員の皆さんに迷惑をかけないでください。しかも個人的なことで……私、合わせる顔がありません」
「俺だって何度も言ってるだろう? 優秀なチームがついてるから、多少のリスケは問題ないって」
この、けろっとした態度。
関根さんの怒り顔が目に浮かび、いたたまれなくなる。
「まあとにかくさ、君のおかげで翼がクソ女と結婚せずに済んだ。あいつの親友かつ幼なじみとして礼を言わせてもらうよ。ありがとうな、奈々子」
「や、やめてください、そんな……」
ここまでされると、何も言えなくなってしまう。人たらしと言うか、こういう素直なところが憎めないのだ。
(関根さんやチームの皆さんには、後日あらためてお詫びをしよう。これまでのぶんも、しっかりと)
ニコニコとご機嫌な彼を、やんわりと睨んだ。
翼さんが吹っ切れたように笑い、私も微笑みを返す。
良かった。
本当に良かった。
間に合ったことを喜びながら、織人さんにすぐ報告したい気持ちに駆られる。
どんなに安心するだろう。
「ところで奈々子さん。俺と会う時間と場所を織人に言いましたか」
「え?」
なぜ今頃、そんなことを?
不思議に思いつつ、返事する。
「それは……はい。しつこく聞いてくるので、一応、教えましたが。でも、絶対に来ないよう念を押してあります」
再度確認するため、店内を見回す。もちろん織人さんの姿は見つからない。
「甘いですね」
「はい?」
翼さんが窓の外を見やった。
視線の先を追ってみると……
「ひっ!?」
向かいのビルの3階。この店と同じようにガラス張りのカフェがあり、その窓に、スーツ姿の男性が張り付いている。手に双眼鏡を持って。
「おっ、織人さん?」
びっくりして腰が抜けそうになる。
なぜ、どうしてあんなところから覗いているの?
「し、知りませんでした。ほんとに、信じてくださいっ」
「分かってますよ」
私の訴えを、翼さんはすんなりと受け入れた。
同情の眼差しで。
「相手が俺であろうと、愛する妻が他の男と二人きりになるのが心配なんでしょう。とはいえ、あいつの執着には呆れるを通り越して戦慄を覚えますが……奈々子さん、もう一度言わせてください」
「は、はい」
「えらい男に捕まりましたね」
「ううっ……」
向かいのビルへと、視線を戻す。
私に気づかれて開き直ったのか、織人さんが大きく手を振っている。
「まったく、子供みたいなやつだ」
苦笑混じりの翼さんの言葉は、そのままそっくり私の感想だった。
その日の夜――
「なあなあ、うまくいったんだろ? なんで怒ってるんだ」
「怒ってなんかいません」
呆れ果てているのです。あなたの奇行に。
遅く帰ってきた織人さんにコーヒーを入れながら、私は言葉を飲み込む。
翼さんに、『あいつなりに一生懸命なんです。多めに見てやってください』と頼まれてしまったから仕方ない。
でもやっぱり、塩対応になってしまう。
「奈々子が浮気するなんてこれっぽっちも考えてないよ。俺はただ、話し合いがうまくいくか心配だっただけで」
言い訳するところがあやしい。
ドリップしたコーヒーをマグカップに注ぎ、織人さんに持たせた。
「もう、わかりましたから。それより、お仕事は大丈夫だったんですか? スケジュールでは、あの時間は会議のはずですよね」
「ああ、全然。関根さんに調整してもらったよ」
また!?
織人さんと並んでリビングのソファに座り、私は頭を抱えた。
「何度も言いますが、関根さんや社員の皆さんに迷惑をかけないでください。しかも個人的なことで……私、合わせる顔がありません」
「俺だって何度も言ってるだろう? 優秀なチームがついてるから、多少のリスケは問題ないって」
この、けろっとした態度。
関根さんの怒り顔が目に浮かび、いたたまれなくなる。
「まあとにかくさ、君のおかげで翼がクソ女と結婚せずに済んだ。あいつの親友かつ幼なじみとして礼を言わせてもらうよ。ありがとうな、奈々子」
「や、やめてください、そんな……」
ここまでされると、何も言えなくなってしまう。人たらしと言うか、こういう素直なところが憎めないのだ。
(関根さんやチームの皆さんには、後日あらためてお詫びをしよう。これまでのぶんも、しっかりと)
ニコニコとご機嫌な彼を、やんわりと睨んだ。
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