一億円の花嫁

藤谷 郁

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気の合う二人

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「ああっ、そうだ! 奈々子に見せたいものがあったんだ」

 突然、織人さんが叫んだ。
 私はびっくりして、ソファの上で跳び上がる。

「な、なんですか?」
「あれだよ、あれ。ちょっと来てくれ」

 私の手を取り、引っ張っていく。リビングを出て、連れて来られたのはシアタールーム。
 プロジェクターに繋げたパソコンを見て、すぐにピンときた。

「もしかして……動画ですか?」
「そう! キングの新作動画。昨夜は間に合わなかったから、今朝早起きして編集したんだ。公開したばかりの出来たてホヤホヤだよ」

 生き生きとパソコンを操作する。スクリーンにチャンネルを映し出すと、彼は部屋のライトを落とした。
 まるで映画館のよう。

「さあ、一緒に見ようぜ。座って座って」
「え、あ、はい」

 ゆったりとしたシートに腰かける。織人さんも隣に座ると、私をじっと見つめた。

「朝は時間がなくて、奈々子に見せられなかった。本当は一番に見せたかったけど、動画は旬が命で、出来たら即アップが鉄則なんだ」
「そ、そうですよね」

 よく分からないが、うんうんと頷く。

「先に公開してしまって、本当にすまない。次からは必ず、奈々子に一番に見せるからな」
「……」

 シリアスに謝罪されて、噴きそうになった。正直、動画のことはすっかり忘れていたのだ。
 でも、それを言ったらややこしくなるので、素直に合わせなければ。

「えっと……そんな、気にしなくても大丈夫ですから。私よりも、楽しみにしているファンの皆さんを優先してください」
「奈々子、ありがとう。そんなふうに言ってくれるなんて、君は本当に優しい人だ」

 ぎゅっと抱きしめてきた。
 厚い胸板を感じながら、私は複雑な気持ちになる。

 キングは生理的に無理、と伝えてあるのに、なぜこんなにも動画を見せたがるのかしら。しかも一番に。
 だけど、動画のこととなると、彼はとてもウキウキして、幸せいっぱいの笑顔になる。それほどまでに夢中なのだ。
 キングは苦手だし、動画に興味はないけれど……水を差すのは無粋である。

 いつまでも抱きしめている織人さんを、そっと促した。

「織人さん、時間がなくなってしまいますよ? 早く見せてください」
「ああ、すまない。そうしようか」

 織人さんが少し照れた感じで、リモコンを操作する。
 スクリーンにサムネイルが並び、彼はNEWのアイコンがついたものを選択した。
 オープニングが始まり、いつものタイトルが表示される。暑苦しさ全開の画面を、私はただ眺めるばかり。

「今回もすごいだろ!」
「は、はい」

 相変わらず(いろんな意味で)、すごい動画である。
 いつもの鍛錬の他、超高度な技というのがテーマらしく、とにかく信じられない身体能力を披露している。

「空手の三角飛びの応用だよ。超人的なジャンプ力が求められるが、俺ぐらいのレベルになると……(以下略)」
「は、はあ……」

 撮影場所は、例のスタジオだろう。
 壁から壁へと猿の化け物が飛び回る奇怪な動画を、本人による熱心な解説付きで鑑賞した。

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