一億円の花嫁

藤谷 郁

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幼なじみ襲来!

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 翌朝。
 花ちゃんとの電話について、織人さんに話した。朝食をとりながらの短い時間なので少し端折ったけれど、彼は大体呑み込んでくれた。

「それで、俺のことはどう言ってた?」
「えっ?」
「ほら、結婚までの流れとか、驚いただろうし……怒ってた? それとも呆れてた?」

 この人に誤魔化しは通じない。私は正直に伝えた。

「両方です。『なんという男だ!』って、何回も叫んでました」
「あはは! さすが花ちゃん。全面的に奈々子の味方だな」

 褒められたわけでもないのに、織人さんが嬉しそうに笑う。
 本当に、よく分からない人だ。

「でも、花ちゃんも織人さんにぜひ会いたいそうです。なるべく早く、顔を見て話がしたいって」
「それはありがたいお言葉。で、彼女の都合は?」
「えっと……急なんですが、明日の土曜日が空いてるらしくて、午前中が良いみたいです」
「いいよ」

 二つ返事でOKが出て、ちょっとびっくりする。

「いいんですか?」
「もちろん。明日は俺も休みだし、親の顔合わせは日曜日だから、被らなくて良かったな」
「は、はい。じゃあ、返事しておきますね。あ、何時ごろにしましょう」
「花ちゃんの都合に合わせるよ。二人で決めて、あとで教えてくれ」

 織人さんはニコリと笑い、ナプキンで口もとを拭うと椅子を立った。

「ごちそうさま。愛妻の手料理でエネルギー充電完了! 今日も元気に仕事するぞ」

 あっという間に身支度を整え、玄関へと向かう。動きの鈍い私は、置いてかれそうになる。


 小走りで追いかける私を、織人さんが玄関で待っていた。

「あの、いってらっしゃいませ」
「いってきます」

 ぎゅっとハグして、軽くキスをする。
 彼にとっては普通の挨拶でも、こちらは一向に慣れず、相変わらず戸惑ってしまう。

「花ちゃんによろしくな」
「は、はい」

 織人さんが出ていくと家の中がシンとして、嵐が通り過ぎたあとのよう。
 
「ふう。なんだか熱い」

 バイタリティーあふれる旦那様の体温がうつったのかしら。
 パタパタと頬を煽ぎながら、朝の家事に取りかかった。

◇ ◇ ◇

 花ちゃんは今日、おじい様たちのおともで朝から出かけると言っていた。
 
「忙しくしてるだろうし、電話じゃなくてメールで連絡しよう」

 家事を終わらせてから、アプリでメッセージを送った。
 すると、1分もしないうちに返事が来て、数回のやり取りで午前10時に来訪と決まる。
 織人さんにもメールしておいた。

「……速攻で決まった。急がなくていいのに、花ちゃんと織人さんって、せっかちなところもよく似てる」

 昨夜、花ちゃんに『結婚』の詳細を話した。ジェットコースターみたいな展開に彼女は驚き、織人さんの強引なやり方に怒ったり呆れたり、かなり興奮していた。

「あの感情のまま織人さんに会ったら、どうなるのかな」

 一抹の不安を覚える。
 だけど、親友の来訪はやはり嬉しい。せいいっぱいおもてなしさせてもらおう。

 三日月堂の和菓子と、花ちゃん好みの緑茶。あとは、お土産も渡したい。織人さんも用意すると言っていたが、私は私で見繕う。
 なんだかワクワクしてきた。

 あとは、似たもの同士の二人が仲良くなりますようにと、願うばかりである。
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