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幼なじみ襲来!
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午後から買い物に出かけた。
「夕飯の材料はまだ在庫があるし、自分の用事に集中できるからありがたいよね」
ちなみに家事に関しては、なるべく自力で行うと決めている。隅々までの掃除や備品の管理は、家事代行サービスに頼るかもしれないけれど。
灰色の雲が浮かぶ冬空のもと、駅までの道を歩いた。今日は電車に乗って、三日月堂の店舗が入るデパートまで行く。
織人さんは「タクシーを使えばいい」なんて言うけれど、贅沢だし、荷物もそれほどでもないので歩いたほうが良い。
それに、クリスマスシーズンの街を歩くのは楽しいのだ。
三日月堂は私も花ちゃんもお気に入りの和菓子屋で、特に大好きなのはどら焼きと、季節をイメージした羊羹である。
「この前は花ちゃんちでどら焼きをご馳走になったから、今回は羊羹にしよう」
駅前のデパートに入り、エスカレーターで2階に上がる。買い物客で賑わう通路をまっすぐに進み、目的の場所へと向かった。
フロアの一角に、三日月堂駅前店と看板が掲げられた店舗を見つけた。
「あれっ、リニューアルしてる。三日月茶屋……?」
三日月堂の本店は実家近くにあるが、駅前店まで来るのは久しぶりだった。以前は無かったカフェがオープンしている。
「わあ、緑茶カフェだ。ちょっと寄っていこうかな」
カウンターで羊羹を購入してから、カフェに入る。ほとんどの席が埋まっていたが、運良く2人掛けのテーブルに座ることができた。
メニューが豊富なので迷ったが、あんみつと緑茶セットを頼んだ。三日月堂はあんみつも有名なのである。
「相変わらず美味しそう!」
花ちゃんの好物だったのを思い出す。帰りにあんみつも買っていこうと思いながら、盛り付けも美しい甘味をいただいた。
(和菓子屋さんといえば……)
中学時代の友人、加納莉央。
彼女の実家も和菓子屋だった。
ふと、夏樹の話を思い出す。
~『莉央は高校在学中に、いろいろあって……大学はあきらめて就職したんです。伊豆の温泉地にある和菓子店で、父親の伝手だと言っていました。それで、彼女の結婚相手というのは後継ぎの息子さんでして、そのことはお店のSNSで報告されています』~
莉央が結婚する。
相手はどんな人だろう。あの子のことだから、きっと明るくて頼りがいのある、優しい男性なんだろうな。
テーブルに置いたスマートフォンに手を伸ばしかけた。SNSを見れば、写真を確かめられる。
……だけど、やっぱりやめておく。莉央のことは、そっとしておきたいから。
「それに、お店の名前も知らない」
夏樹から聞くのを忘れた。いや……なんとなく聞きそびれたのだ。彼女も、あえて言わなかったのかもしれない。
莉央の気持ちを想えば自然なこと。
アカウントを特定してまで監視を続ける綾華はどうかしている。
昔は昔、今は今。
私の心はもう、前に進んでいる。
緑茶を飲み干すと、スマートフォンをバッグに仕舞い、カフェを出た。
◇ ◇ ◇
マンションに戻ると、午後4時を過ぎたところだった。
「夕飯を作るには早すぎるし、少し休憩しよう」
ソファに横たわり、先日実家から持ち帰ってきたロマンス小説を開く。大好きな読書は甘味と同じように、気持ちをリラックスさせてくれるのだ。
ロマンチックな展開に胸ときめかせていると、スマートフォンが鳴った。
起き上がり、発信者を確かめる。
「お姉ちゃん?」
海外出張から帰ってきたのかなと思いながら応答した。
「夕飯の材料はまだ在庫があるし、自分の用事に集中できるからありがたいよね」
ちなみに家事に関しては、なるべく自力で行うと決めている。隅々までの掃除や備品の管理は、家事代行サービスに頼るかもしれないけれど。
灰色の雲が浮かぶ冬空のもと、駅までの道を歩いた。今日は電車に乗って、三日月堂の店舗が入るデパートまで行く。
織人さんは「タクシーを使えばいい」なんて言うけれど、贅沢だし、荷物もそれほどでもないので歩いたほうが良い。
それに、クリスマスシーズンの街を歩くのは楽しいのだ。
三日月堂は私も花ちゃんもお気に入りの和菓子屋で、特に大好きなのはどら焼きと、季節をイメージした羊羹である。
「この前は花ちゃんちでどら焼きをご馳走になったから、今回は羊羹にしよう」
駅前のデパートに入り、エスカレーターで2階に上がる。買い物客で賑わう通路をまっすぐに進み、目的の場所へと向かった。
フロアの一角に、三日月堂駅前店と看板が掲げられた店舗を見つけた。
「あれっ、リニューアルしてる。三日月茶屋……?」
三日月堂の本店は実家近くにあるが、駅前店まで来るのは久しぶりだった。以前は無かったカフェがオープンしている。
「わあ、緑茶カフェだ。ちょっと寄っていこうかな」
カウンターで羊羹を購入してから、カフェに入る。ほとんどの席が埋まっていたが、運良く2人掛けのテーブルに座ることができた。
メニューが豊富なので迷ったが、あんみつと緑茶セットを頼んだ。三日月堂はあんみつも有名なのである。
「相変わらず美味しそう!」
花ちゃんの好物だったのを思い出す。帰りにあんみつも買っていこうと思いながら、盛り付けも美しい甘味をいただいた。
(和菓子屋さんといえば……)
中学時代の友人、加納莉央。
彼女の実家も和菓子屋だった。
ふと、夏樹の話を思い出す。
~『莉央は高校在学中に、いろいろあって……大学はあきらめて就職したんです。伊豆の温泉地にある和菓子店で、父親の伝手だと言っていました。それで、彼女の結婚相手というのは後継ぎの息子さんでして、そのことはお店のSNSで報告されています』~
莉央が結婚する。
相手はどんな人だろう。あの子のことだから、きっと明るくて頼りがいのある、優しい男性なんだろうな。
テーブルに置いたスマートフォンに手を伸ばしかけた。SNSを見れば、写真を確かめられる。
……だけど、やっぱりやめておく。莉央のことは、そっとしておきたいから。
「それに、お店の名前も知らない」
夏樹から聞くのを忘れた。いや……なんとなく聞きそびれたのだ。彼女も、あえて言わなかったのかもしれない。
莉央の気持ちを想えば自然なこと。
アカウントを特定してまで監視を続ける綾華はどうかしている。
昔は昔、今は今。
私の心はもう、前に進んでいる。
緑茶を飲み干すと、スマートフォンをバッグに仕舞い、カフェを出た。
◇ ◇ ◇
マンションに戻ると、午後4時を過ぎたところだった。
「夕飯を作るには早すぎるし、少し休憩しよう」
ソファに横たわり、先日実家から持ち帰ってきたロマンス小説を開く。大好きな読書は甘味と同じように、気持ちをリラックスさせてくれるのだ。
ロマンチックな展開に胸ときめかせていると、スマートフォンが鳴った。
起き上がり、発信者を確かめる。
「お姉ちゃん?」
海外出張から帰ってきたのかなと思いながら応答した。
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