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幼なじみ襲来!
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「はい、奈々子で……」
『あんた無事!?』
いきなり姉が訊ねた。彼女らしくもない甲高い声に、耳がジーンとなる。
「お、お姉ちゃん? どうしたの」
『無事なのかって聞いてるの。今どこにいるの?』
「自宅だけど。マンションの部屋」
『そう。とりあえず、何ごともなく過ごしてるみたいね』
ホッとした気配。一体、どうしたと言うのだろう。
「お姉ちゃんはどこにいるの? 海外出張だったよね」
『さっき家に帰ったところよ。お母さんと土産をつまみにお茶を飲んで、それで、気になることを聞いたから、慌てて電話したの』
「気になること?」
私に関する話かしら。
よく分からず、首を傾げた。
『最近、変わったことはない? 変なやつにつけられたとか』
「?」
姉の言わんとすることが、やはり分からなかった。
「つけられるって、誰に?」
『変なやつによ。怪しげな若い男とか』
「??」
『分かった、ちょっと待って。順番に話すから。私としたことが、焦っちゃって』
姉があらためて、電話をかけてきた理由を説明した。
『お母さんが最近、家の周りで怪しげな男を何度も目撃してるのよ。帽子を目深に被ってマスクしてるから顔はわからないけど、あんな人、近所にいないって。お父さんが空き巣の下見だろって警察に通報して、パトロールしてもらったら消えたみたいだけど』
実家でそんなことがあったなんて。
空き巣と聞いて心配になるが、でも、その怪しい男が私とどう関係するのだろう。
姉が話を続けた。
『でね、もしかしたらって思ったのよ。その男、あの女の仲間かもしれないって』
「えっ?」
あの女。
姉の憎々しげな言い方が、一人の人物を思い浮かばせる。
だけど、なぜなのか理解できない。
「あの女って……綾華のこと?」
『そうよ』
きっぱりとした返事。
根拠のある話なのだと察し、私の胸は不安でいっぱいになる。
どうして綾華の仲間が……?
『取り越し苦労かもしれない。でも、用心するに越したことはないわ。夏樹さんも忠告してたでしょ』
「あ……」
ーー奈々子さんに伝えたかったんです。綾華に気をつけてくださいとーー
夏樹はSNSで、綾華からダイレクトメールを受け取っている。それは、横浜で遭遇した私についてのメールだった。
どんな内容なのか私は知らない。
でも、姉は夏樹からデータを転送してもらい、確認している。
その内容こそが、『根拠』だった。
『夏樹さんが言った通り、あんたについて面白おかしく書いてあった。まったく……精神年齢いくつだよって感じ』
姉の言い草から、大体察することができた。中学生の綾華を想像すればいい。彼女の思考は今でも、あの頃のままなのだ。
『それで、私が引っかかったのは最後の数行。聞きたくないだろうけど、これだけは読み上げるわよ』
「う、うん」
深呼吸して心を落ち着かせる。姉が引っかかったのは、綾華を疑う『根拠』に違いないから。
姉は少し間を置き、一気に読み上げた。
『「~というわけで、また奈々子に逃げられちゃった。でも今度こそ許さないんだから。あの子のせいで私たちがバラバラになったんだもん、謝ってもらわないとね。莉央も呼んで同窓会しようよ!」』
「……」
想像以上だった。
寒気がして、身体の芯まで凍りそうになる。
『奈々子、大丈夫?』
「だ……大丈夫。ちょっと、びっくりしただけ」
横浜での遭遇を思い出す。
一見、大人の女性。だけど彼女は本当に、本質的に中学生のまま、ちっとも変わっていない。
『西野綾華は、夏樹さんたちの件を奈々子のせいだと思ってる。ていうか、そういうことにしてるのよ。あの女の中に、プライドを傷つけられた屈辱的な出来事としてずっと残ってるから、奈々子に偶然会ったことで、それが蘇ったんじゃない?』
姉の推測は多分、当たっている。
綾華は今でも私を……女王様に逆らった家来を許せないのだろう。
『だから、夏樹さんたちとまだ仲良くしてるみたいな作り話をして、その上、連絡先を聞き出そうとした。でも、また逃げられてしまった……』
そうだった。
あの時の、綾華の嗜虐的な目を思い出してゾッとする。
ーー莉央が今度結婚するから、久々にグループで集まることになったのよ
ーーそうよ、加納莉央。懐かしいよね、奈々子が一番仲良かったものね
ーー良かったら二次会に来ない?
ーー連絡先を交換しようよ
綾華がスマホを取り出すのを見て、私は総毛立った。そして、逃げた。
身の危険を感じて、全速力で。
『あんた無事!?』
いきなり姉が訊ねた。彼女らしくもない甲高い声に、耳がジーンとなる。
「お、お姉ちゃん? どうしたの」
『無事なのかって聞いてるの。今どこにいるの?』
「自宅だけど。マンションの部屋」
『そう。とりあえず、何ごともなく過ごしてるみたいね』
ホッとした気配。一体、どうしたと言うのだろう。
「お姉ちゃんはどこにいるの? 海外出張だったよね」
『さっき家に帰ったところよ。お母さんと土産をつまみにお茶を飲んで、それで、気になることを聞いたから、慌てて電話したの』
「気になること?」
私に関する話かしら。
よく分からず、首を傾げた。
『最近、変わったことはない? 変なやつにつけられたとか』
「?」
姉の言わんとすることが、やはり分からなかった。
「つけられるって、誰に?」
『変なやつによ。怪しげな若い男とか』
「??」
『分かった、ちょっと待って。順番に話すから。私としたことが、焦っちゃって』
姉があらためて、電話をかけてきた理由を説明した。
『お母さんが最近、家の周りで怪しげな男を何度も目撃してるのよ。帽子を目深に被ってマスクしてるから顔はわからないけど、あんな人、近所にいないって。お父さんが空き巣の下見だろって警察に通報して、パトロールしてもらったら消えたみたいだけど』
実家でそんなことがあったなんて。
空き巣と聞いて心配になるが、でも、その怪しい男が私とどう関係するのだろう。
姉が話を続けた。
『でね、もしかしたらって思ったのよ。その男、あの女の仲間かもしれないって』
「えっ?」
あの女。
姉の憎々しげな言い方が、一人の人物を思い浮かばせる。
だけど、なぜなのか理解できない。
「あの女って……綾華のこと?」
『そうよ』
きっぱりとした返事。
根拠のある話なのだと察し、私の胸は不安でいっぱいになる。
どうして綾華の仲間が……?
『取り越し苦労かもしれない。でも、用心するに越したことはないわ。夏樹さんも忠告してたでしょ』
「あ……」
ーー奈々子さんに伝えたかったんです。綾華に気をつけてくださいとーー
夏樹はSNSで、綾華からダイレクトメールを受け取っている。それは、横浜で遭遇した私についてのメールだった。
どんな内容なのか私は知らない。
でも、姉は夏樹からデータを転送してもらい、確認している。
その内容こそが、『根拠』だった。
『夏樹さんが言った通り、あんたについて面白おかしく書いてあった。まったく……精神年齢いくつだよって感じ』
姉の言い草から、大体察することができた。中学生の綾華を想像すればいい。彼女の思考は今でも、あの頃のままなのだ。
『それで、私が引っかかったのは最後の数行。聞きたくないだろうけど、これだけは読み上げるわよ』
「う、うん」
深呼吸して心を落ち着かせる。姉が引っかかったのは、綾華を疑う『根拠』に違いないから。
姉は少し間を置き、一気に読み上げた。
『「~というわけで、また奈々子に逃げられちゃった。でも今度こそ許さないんだから。あの子のせいで私たちがバラバラになったんだもん、謝ってもらわないとね。莉央も呼んで同窓会しようよ!」』
「……」
想像以上だった。
寒気がして、身体の芯まで凍りそうになる。
『奈々子、大丈夫?』
「だ……大丈夫。ちょっと、びっくりしただけ」
横浜での遭遇を思い出す。
一見、大人の女性。だけど彼女は本当に、本質的に中学生のまま、ちっとも変わっていない。
『西野綾華は、夏樹さんたちの件を奈々子のせいだと思ってる。ていうか、そういうことにしてるのよ。あの女の中に、プライドを傷つけられた屈辱的な出来事としてずっと残ってるから、奈々子に偶然会ったことで、それが蘇ったんじゃない?』
姉の推測は多分、当たっている。
綾華は今でも私を……女王様に逆らった家来を許せないのだろう。
『だから、夏樹さんたちとまだ仲良くしてるみたいな作り話をして、その上、連絡先を聞き出そうとした。でも、また逃げられてしまった……』
そうだった。
あの時の、綾華の嗜虐的な目を思い出してゾッとする。
ーー莉央が今度結婚するから、久々にグループで集まることになったのよ
ーーそうよ、加納莉央。懐かしいよね、奈々子が一番仲良かったものね
ーー良かったら二次会に来ない?
ーー連絡先を交換しようよ
綾華がスマホを取り出すのを見て、私は総毛立った。そして、逃げた。
身の危険を感じて、全速力で。
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