一億円の花嫁

藤谷 郁

文字の大きさ
126 / 198
幼なじみ襲来!

しおりを挟む
「お姉ちゃん……夏樹が言ったとおり、綾華が来ると思ってるんだね。私に、するために」
『やりかねないと思ってる』

 姉は勘が鋭い。
 分析力も優れている。

「じゃあ……その、お母さんが見たって言う怪しい男が、綾華の仲間ってこと?」
『確証はないけど、タイミング的にね。それに、西野綾華は夜の街で遊んでる。タチの悪い男とつるんでるかもしれない。色恋か、お金か、どっちかで操ってたりね』

 身体が震えてきた。
 確かに綾華ならやりかねない。
 でも何のために。仲間を使ってどうしようって言うの?
 恐ろしい疑問に、姉が答えをくれた。

『奈々子がまだ実家に住んでると思って、様子を探らせてるか……あるいは、拉致するか』
「……!」

 思わず息を呑んだ。
 呑気に街に出かけて買い物などした自分が信じられない。
 いよいよ震えが激しくなり、その場にへたりこむ。

「どうしよう、お姉ちゃん。もし襲われたら……」
『奈々子。このこと、織人さんに話しなさい』
「えっ」

 ハッとして、俯きかけた顔を上げた。

「織人さんに……」
『そうよ、あんたの旦那様。誰よりパーフェクトな男がそばにいるでしょ。彼なら絶対に守ってくれるわ』

 震えがぴたりと止まった。
 不思議なくらい強い気持ちが湧き上がってくる。

 そうだった。
 私には織人さんがいたのだ。

「分かった。織人さんにぜんぶ話して、相談する。ありがとう、お姉ちゃん!」


 ◇ ◇ ◇


 夜、帰宅した織人さんに、姉から聞いた話と推測についてすべて話した。
 本当は、食事が済んで落ち着いてからと思ったのだが、いつもと違う私の様子に彼が気づき、話すことになったのだ。

「なん……だと。あのクソ女が、仲間を使って奈々子を誘拐?」

 やはり食事の後にすればよかったと後悔するが、もう遅い。
 彼はさっそく特務室に連絡をとり、対策に没頭してしまった。

「あ、あの……織人さん。まだ推測の段階ですし、食事してからでも」
「いいや、ダメだ。俺としたことが、その可能性を考えなかったとは大失態。一刻でも早く対策しなければ、奈々子が攫われてしまう!」

 こうなったら止まらない。
 忙しくする彼の後ろで、私はウロウロするばかり。時間がどんどん過ぎて、料理もすっかり冷めてしまった。

「あっ、もしもし関根さん? 大至急、今送ったデータを確認してくれ。セキュリティチームの役割に関する詳細だ。各項目をチェックして、今夜中に返信を頼む」
「えっ……」

 時計を見れば午後10時。
 今から仕事をさせるつもり? と、慌てて止めようとするが、通話を切ってしまった。

「ま、また関根さんに無茶な仕事を」
「彼女なら速攻で処理するさ。さて、打つべき手は打った。奈々子には精鋭のボディガードを付けるから安心しろ」
「は、はい?」

 ボディガード?
 それは、いくらなんでも大げさである。

「私なら、外出を控えるから大丈夫です。実家にも行かないようにしますし」
「それじゃ不自由だろ。あと、大月家には見張りを配置すると俺が電話しておいた。お義母さんが喜んでたぞ」
「ええっ、いつの間に?」
 
 驚く私に、織人さんが爽やかに微笑む。まるで、一仕事終えたと言わんばかりに。

「これでクソ女対策は完璧だぜ。奈々子はこれまでどおり、フツーに過ごせばいい。俺の妻として、安心と幸福を満喫して……そういえば腹が減ったな」
「……」

 本当に、頼りになる旦那様だ。
 このバイタリティ、この行動力。

「今夜は中華料理です。もう遅いですし、軽めにしておきますか?」
「いや、ぜんぶ食べる」

 綾華が何を企もうと、私は絶対に大丈夫。
 もりもり食事する織人さんを前に、心の底から安堵するのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

You Could Be Mine ぱーとに【改訂版】

てらだりょう
恋愛
高身長・イケメン・優しくてあたしを溺愛する彼氏はなんだかんだ優しいだんなさまへ進化。 変態度も進化して一筋縄ではいかない新婚生活は甘く・・・はない! 恋人から夫婦になった尊とあたし、そして未来の家族。あたしたちを待つ未来の家族とはいったい?? You Could Be Mine【改訂版】の第2部です。 ↑後半戦になりますので前半戦からご覧いただけるとよりニヤニヤ出来るので是非どうぞ! ※ぱーといちに引き続き昔の作品のため、現在の状況にそぐわない表現などございますが、設定等そのまま使用しているためご理解の上お読みいただけますと幸いです。

期待外れな吉田さん、自由人な前田くん

松丹子
恋愛
女子らしい容姿とざっくばらんな性格。そのギャップのおかげで、異性から毎回期待外れと言われる吉田さんと、何を考えているのか分からない同期の前田くんのお話。 *** 「吉田さん、独り言うるさい」 「ああ!?なんだって、前田の癖に!前田の癖に!!」 「いや、前田の癖にとか訳わかんないから。俺は俺だし」 「知っとるわそんなん!異議とか生意気!前田の癖にっ!!」 「……」 「うあ!ため息つくとか!何なの!何なの前田!何様俺様前田様かよ!!」 *** ヒロインの独白がうるさめです。比較的コミカル&ライトなノリです。 関連作品(主役) 『神崎くんは残念なイケメン』(香子) 『モテ男とデキ女の奥手な恋』(マサト) *前著を読んでいなくても問題ありませんが、こちらの方が後日談になるため、前著のネタバレを含みます。また、関連作品をご覧になっていない場合、ややキャラクターが多く感じられるかもしれませんがご了承ください。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

わたしの愉快な旦那さん

川上桃園
恋愛
 あまりの辛さにブラックすぎるバイトをやめた。最後塩まかれたけど気にしない。  あ、そういえばこの店入ったことなかったな、入ってみよう。 「何かお探しですか」  その店はなんでも取り扱うという。噂によると彼氏も紹介してくれるらしい。でもそんなのいらない。彼氏だったらすぐに離れてしまうかもしれないのだから。  店員のお兄さんを前にてんぱった私は。 「旦那さんが欲しいです……」  と、斜め上の回答をしてしまった。でもお兄さんは優しい。 「どんな旦那さんをお望みですか」 「え、えっと……愉快な、旦那さん?」  そしてお兄さんは自分を指差した。 「僕が、お客様のお探しの『愉快な旦那さん』ですよ」  そこから始まる恋のお話です。大学生女子と社会人男子(御曹司)。ほのぼのとした日常恋愛もの

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

数合わせから始まる俺様の独占欲

日矩 凛太郎
恋愛
アラサーで仕事一筋、恋愛経験ほぼゼロの浅見結(あさみゆい)。 見た目は地味で控えめ、社内では「婚期遅れのお局」と陰口を叩かれながらも、仕事だけは誰にも負けないと自負していた。 そんな彼女が、ある日突然「合コンに来てよ!」と同僚の女性たちに誘われる。 正直乗り気ではなかったが、数合わせのためと割り切って参加することに。 しかし、その場で出会ったのは、俺様気質で圧倒的な存在感を放つイケメン男性。 彼は浅見をただの数合わせとしてではなく、特別な存在として猛烈にアプローチしてくる。 仕事と恋愛、どちらも慣れていない彼女が、戸惑いながらも少しずつ心を開いていく様子を描いた、アラサー女子のリアルな恋愛模様と成長の物語。

Destiny

藤谷 郁
恋愛
夏目梨乃は入社2年目の会社員。密かに想いを寄せる人がいる。 親切で優しい彼に癒される毎日だけど、不器用で自信もない梨乃には、気持ちを伝えるなんて夢のまた夢。 そんなある日、まさに夢のような出来事が起きて… ※他サイトにも掲載

処理中です...