一億円の花嫁

藤谷 郁

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幼なじみ襲来!

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 翌日の土曜日。
 約束どおり花ちゃんが訪ねてきた。
 10時ちょうどにインターフォンが鳴ると、織人さん自ら迎えに出て、玄関扉を開けた。

「岡崎花さん、はじめまして。ようこそ我が家へ!」

 歓迎ムード全開で現れた友人の夫に、さすがの花ちゃんも面食らった様子。
 だが、織人さんのキャラクターは伝えてあるので、すぐに「なるほど」という表情になった。

「はじめまして、織人殿。本日はおじゃまいたしまする」

 ぺこりと頭を下げて、織人さんに手土産を渡す。いつものように髪を後ろで結び、しかし服装は作務衣ではなく洋服だ。スポーツブランドの動きやすそうなスーツが彼女らしい。

「おっ、これはどうも……ありがとうございます」

 花ちゃんの言葉遣いが時代劇調のためか、織人さんが一瞬だけ戸惑いを見せたが、こちらもすぐに「なるほど」と受け入れる。
 
 私は内心ほっとしつつ、初対面をスムーズにクリアした二人を促し、客間へと進んだ。


「立派なお住まいですなあ」

 廊下を歩きながら、花ちゃんが感心したように言う。というか、少し皮肉っぽく聞こえた。質実剛健を理想とする彼女には、高級マンションの設えが贅沢に映るのだろう。

「いやあ、それほどでも」

 織人さんが嬉しそうに答える。素直に褒め言葉と受け取ったようだ。
 とにかく彼はご機嫌で、ずっとにこにこしている。
 客間に入るとテーブルを挟んで花ちゃんと向かい合い、私もコーヒーを運んでから彼の隣に座った。


「こたびは突然の訪問となり、失礼つかまつった。奈々子の親友として、伴侶となられたお方に一度会っておきたいと思いましてな」

 花ちゃんがあらためて挨拶をし、織人さんをまっすぐに見つめる。剣道の試合に臨むかのような、真剣な眼差しだ。
 かたや織人さんはその視線を正面から受け止め、真面目な顔つきになる。

 なんだか少し、緊張してきた。

「岡崎花さん。あなたのことは奈々子からよく聞いています。仲の良い幼なじみで、なんでも相談できる親友だと」
「そのとおり。わしは奈々子のことは誰より理解している。ゆえに心配でもあったのじゃ」

 私をちらりと見やり、すぐに視線を織人さんに戻した。

「お主に、かどわかされたのではないかと」
「は、花ちゃん?」

 不穏な言葉が飛び出し、ギョッとする。
 しかし織人さんは動じず、それどころかゆったりとした態度で応じた。
 まるで、予測していたかのように。

「かどわかす……確かにそうだな。実際、かなり強引なやり方だったし」

 あっさりと認めた。しかも悪びれもせず。
 花ちゃんの眉がぴくりと反応する。

「強引なんてものではない。まるで人さらいではないか」

 前のめりになり、語気も強くなった。

「そなたのやり方については、つぶさに聞いておる。何から何まで呆れるばかりだが、結婚したと聞いて度肝を抜かれたわ。見合いの翌日に即入籍、即同居など、正気の沙汰ではない!」
「それぐらい必死だったんですよ。早くしないと誰かに取られそうで、気が気じゃなかった。奈々子はこのとおり愛らしくて、魅力的な女性だからね」
「お、織人さん、なにを……」

 友達の前でそんなことを言われるのは、ほとんど辱めだ。真面目にやめてほしい!

「本当に奈々子は可愛い。俺はどうしても、一刻でも早く、手に入れたかったんだ」
「お、お願いだからやめてくださいぃ……」

 花ちゃんの眉がまたしても反応した。さっきより鋭く。

「つまり、惚れたゆえの行動と言うわけか」
「それがすべてと言っていい。愛ゆえに、俺は奈々子を捕まえた」

 なんとストレートな言い方だろう。しかも捕まえたなどと、人を獲物みたいに。
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