127 / 198
幼なじみ襲来!
7
しおりを挟む
翌日の土曜日。
約束どおり花ちゃんが訪ねてきた。
10時ちょうどにインターフォンが鳴ると、織人さん自ら迎えに出て、玄関扉を開けた。
「岡崎花さん、はじめまして。ようこそ我が家へ!」
歓迎ムード全開で現れた友人の夫に、さすがの花ちゃんも面食らった様子。
だが、織人さんのキャラクターは伝えてあるので、すぐに「なるほど」という表情になった。
「はじめまして、織人殿。本日はおじゃまいたしまする」
ぺこりと頭を下げて、織人さんに手土産を渡す。いつものように髪を後ろで結び、しかし服装は作務衣ではなく洋服だ。スポーツブランドの動きやすそうなスーツが彼女らしい。
「おっ、これはどうも……ありがとうございます」
花ちゃんの言葉遣いが時代劇調のためか、織人さんが一瞬だけ戸惑いを見せたが、こちらもすぐに「なるほど」と受け入れる。
私は内心ほっとしつつ、初対面をスムーズにクリアした二人を促し、客間へと進んだ。
「立派なお住まいですなあ」
廊下を歩きながら、花ちゃんが感心したように言う。というか、少し皮肉っぽく聞こえた。質実剛健を理想とする彼女には、高級マンションの設えが贅沢に映るのだろう。
「いやあ、それほどでも」
織人さんが嬉しそうに答える。素直に褒め言葉と受け取ったようだ。
とにかく彼はご機嫌で、ずっとにこにこしている。
客間に入るとテーブルを挟んで花ちゃんと向かい合い、私もコーヒーを運んでから彼の隣に座った。
「こたびは突然の訪問となり、失礼つかまつった。奈々子の親友として、伴侶となられたお方に一度会っておきたいと思いましてな」
花ちゃんがあらためて挨拶をし、織人さんをまっすぐに見つめる。剣道の試合に臨むかのような、真剣な眼差しだ。
かたや織人さんはその視線を正面から受け止め、真面目な顔つきになる。
なんだか少し、緊張してきた。
「岡崎花さん。あなたのことは奈々子からよく聞いています。仲の良い幼なじみで、なんでも相談できる親友だと」
「そのとおり。わしは奈々子のことは誰より理解している。ゆえに心配でもあったのじゃ」
私をちらりと見やり、すぐに視線を織人さんに戻した。
「お主に、かどわかされたのではないかと」
「は、花ちゃん?」
不穏な言葉が飛び出し、ギョッとする。
しかし織人さんは動じず、それどころかゆったりとした態度で応じた。
まるで、予測していたかのように。
「かどわかす……確かにそうだな。実際、かなり強引なやり方だったし」
あっさりと認めた。しかも悪びれもせず。
花ちゃんの眉がぴくりと反応する。
「強引なんてものではない。まるで人さらいではないか」
前のめりになり、語気も強くなった。
「そなたのやり方については、つぶさに聞いておる。何から何まで呆れるばかりだが、結婚したと聞いて度肝を抜かれたわ。見合いの翌日に即入籍、即同居など、正気の沙汰ではない!」
「それぐらい必死だったんですよ。早くしないと誰かに取られそうで、気が気じゃなかった。奈々子はこのとおり愛らしくて、魅力的な女性だからね」
「お、織人さん、なにを……」
友達の前でそんなことを言われるのは、ほとんど辱めだ。真面目にやめてほしい!
「本当に奈々子は可愛い。俺はどうしても、一刻でも早く、手に入れたかったんだ」
「お、お願いだからやめてくださいぃ……」
花ちゃんの眉がまたしても反応した。さっきより鋭く。
「つまり、惚れたゆえの行動と言うわけか」
「それがすべてと言っていい。愛ゆえに、俺は奈々子を捕まえた」
なんとストレートな言い方だろう。しかも捕まえたなどと、人を獲物みたいに。
約束どおり花ちゃんが訪ねてきた。
10時ちょうどにインターフォンが鳴ると、織人さん自ら迎えに出て、玄関扉を開けた。
「岡崎花さん、はじめまして。ようこそ我が家へ!」
歓迎ムード全開で現れた友人の夫に、さすがの花ちゃんも面食らった様子。
だが、織人さんのキャラクターは伝えてあるので、すぐに「なるほど」という表情になった。
「はじめまして、織人殿。本日はおじゃまいたしまする」
ぺこりと頭を下げて、織人さんに手土産を渡す。いつものように髪を後ろで結び、しかし服装は作務衣ではなく洋服だ。スポーツブランドの動きやすそうなスーツが彼女らしい。
「おっ、これはどうも……ありがとうございます」
花ちゃんの言葉遣いが時代劇調のためか、織人さんが一瞬だけ戸惑いを見せたが、こちらもすぐに「なるほど」と受け入れる。
私は内心ほっとしつつ、初対面をスムーズにクリアした二人を促し、客間へと進んだ。
「立派なお住まいですなあ」
廊下を歩きながら、花ちゃんが感心したように言う。というか、少し皮肉っぽく聞こえた。質実剛健を理想とする彼女には、高級マンションの設えが贅沢に映るのだろう。
「いやあ、それほどでも」
織人さんが嬉しそうに答える。素直に褒め言葉と受け取ったようだ。
とにかく彼はご機嫌で、ずっとにこにこしている。
客間に入るとテーブルを挟んで花ちゃんと向かい合い、私もコーヒーを運んでから彼の隣に座った。
「こたびは突然の訪問となり、失礼つかまつった。奈々子の親友として、伴侶となられたお方に一度会っておきたいと思いましてな」
花ちゃんがあらためて挨拶をし、織人さんをまっすぐに見つめる。剣道の試合に臨むかのような、真剣な眼差しだ。
かたや織人さんはその視線を正面から受け止め、真面目な顔つきになる。
なんだか少し、緊張してきた。
「岡崎花さん。あなたのことは奈々子からよく聞いています。仲の良い幼なじみで、なんでも相談できる親友だと」
「そのとおり。わしは奈々子のことは誰より理解している。ゆえに心配でもあったのじゃ」
私をちらりと見やり、すぐに視線を織人さんに戻した。
「お主に、かどわかされたのではないかと」
「は、花ちゃん?」
不穏な言葉が飛び出し、ギョッとする。
しかし織人さんは動じず、それどころかゆったりとした態度で応じた。
まるで、予測していたかのように。
「かどわかす……確かにそうだな。実際、かなり強引なやり方だったし」
あっさりと認めた。しかも悪びれもせず。
花ちゃんの眉がぴくりと反応する。
「強引なんてものではない。まるで人さらいではないか」
前のめりになり、語気も強くなった。
「そなたのやり方については、つぶさに聞いておる。何から何まで呆れるばかりだが、結婚したと聞いて度肝を抜かれたわ。見合いの翌日に即入籍、即同居など、正気の沙汰ではない!」
「それぐらい必死だったんですよ。早くしないと誰かに取られそうで、気が気じゃなかった。奈々子はこのとおり愛らしくて、魅力的な女性だからね」
「お、織人さん、なにを……」
友達の前でそんなことを言われるのは、ほとんど辱めだ。真面目にやめてほしい!
「本当に奈々子は可愛い。俺はどうしても、一刻でも早く、手に入れたかったんだ」
「お、お願いだからやめてくださいぃ……」
花ちゃんの眉がまたしても反応した。さっきより鋭く。
「つまり、惚れたゆえの行動と言うわけか」
「それがすべてと言っていい。愛ゆえに、俺は奈々子を捕まえた」
なんとストレートな言い方だろう。しかも捕まえたなどと、人を獲物みたいに。
14
あなたにおすすめの小説
わたしの愉快な旦那さん
川上桃園
恋愛
あまりの辛さにブラックすぎるバイトをやめた。最後塩まかれたけど気にしない。
あ、そういえばこの店入ったことなかったな、入ってみよう。
「何かお探しですか」
その店はなんでも取り扱うという。噂によると彼氏も紹介してくれるらしい。でもそんなのいらない。彼氏だったらすぐに離れてしまうかもしれないのだから。
店員のお兄さんを前にてんぱった私は。
「旦那さんが欲しいです……」
と、斜め上の回答をしてしまった。でもお兄さんは優しい。
「どんな旦那さんをお望みですか」
「え、えっと……愉快な、旦那さん?」
そしてお兄さんは自分を指差した。
「僕が、お客様のお探しの『愉快な旦那さん』ですよ」
そこから始まる恋のお話です。大学生女子と社会人男子(御曹司)。ほのぼのとした日常恋愛もの
27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?
藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。
結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの?
もう、みんな、うるさい!
私は私。好きに生きさせてよね。
この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。
彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。
私の人生に彩りをくれる、その人。
その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。
⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。
⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。
【完】ソレは、脱がさないで
Bu-cha
恋愛
エブリスタにて恋愛トレンドランキング2位
パッとしない私を少しだけ特別にしてくれるランジェリー。
ランジェリー会社で今日も私の胸を狙ってくる男がいる。
関連物語
『経理部の女王様が落ちた先には』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高4位
ベリーズカフェさんにて総合ランキング最高4位
2022年上半期ベリーズカフェ総合ランキング53位
2022年下半期ベリーズカフェ総合ランキング44位
『FUJIメゾン・ビビ~インターフォンを鳴らして~』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高11位
『わたしを見て 触って キスをして 恋をして』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高25位
『大きなアナタと小さなわたしのちっぽけなプライド』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高13位
『ムラムラムラモヤモヤモヤ今日も秘書は止まらない』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高32位
『“こだま”の森~FUJIメゾン・ビビ』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高 17位
私の物語は全てがシリーズになっておりますが、どれを先に読んでも楽しめるかと思います。
伏線のようなものを回収していく物語ばかりなので、途中まではよく分からない内容となっております。
物語が進むにつれてその意味が分かっていくかと思います。
You Could Be Mine ぱーとに【改訂版】
てらだりょう
恋愛
高身長・イケメン・優しくてあたしを溺愛する彼氏はなんだかんだ優しいだんなさまへ進化。
変態度も進化して一筋縄ではいかない新婚生活は甘く・・・はない!
恋人から夫婦になった尊とあたし、そして未来の家族。あたしたちを待つ未来の家族とはいったい??
You Could Be Mine【改訂版】の第2部です。
↑後半戦になりますので前半戦からご覧いただけるとよりニヤニヤ出来るので是非どうぞ!
※ぱーといちに引き続き昔の作品のため、現在の状況にそぐわない表現などございますが、設定等そのまま使用しているためご理解の上お読みいただけますと幸いです。
思い出のチョコレートエッグ
ライヒェル
恋愛
失恋傷心旅行に出た花音は、思い出の地、オランダでの出会いをきっかけに、ワーキングホリデー制度を利用し、ドイツの首都、ベルリンに1年限定で住むことを決意する。
慣れない海外生活に戸惑い、異国ならではの苦労もするが、やがて、日々の生活がリズムに乗り始めたころ、とてつもなく魅力的な男性と出会う。
秘密の多い彼との恋愛、彼を取り巻く複雑な人間関係、初めて経験するセレブの世界。
主人公、花音の人生パズルが、紆余曲折を経て、ついに最後のピースがぴったりはまり完成するまでを追う、胸キュン&溺愛系ラブストーリーです。
* ドイツ在住の作者がお届けする、ヨーロッパを舞台にした、喜怒哀楽満載のラブストーリー。
* 外国での生活や、外国人との恋愛の様子をリアルに感じて、主人公の日々を間近に見ているような気分になれる内容となっています。
* 実在する場所と人物を一部モデルにした、リアリティ感の溢れる長編小説です。
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
昨日、あなたに恋をした
菱沼あゆ
恋愛
高すぎる周囲の評価に頑張って合わせようとしているが、仕事以外のことはポンコツなOL、楓日子(かえで にちこ)。
久しぶりに、憂さ晴らしにみんなで呑みに行くが、目を覚ましてみると、付けっぱなしのゲーム画面に見知らぬ男の名前が……。
私、今日も明日も、あさっても、
きっとお仕事がんばります~っ。
網代さんを怒らせたい
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「なあ。僕たち、付き合わないか?」
彼がなにを言っているのかわからなかった。
たったいま、私たちは恋愛できない体質かもしれないと告白しあったばかりなのに。
しかし彼曰く、これは練習なのらしい。
それっぽいことをしてみれば、恋がわかるかもしれない。
それでもダメなら、本当にそういう体質だったのだと諦めがつく。
それはそうかもしれないと、私は彼と付き合いはじめたのだけれど……。
和倉千代子(わくらちよこ) 23
建築デザイン会社『SkyEnd』勤務
デザイナー
黒髪パッツン前髪、おかっぱ頭であだ名は〝市松〟
ただし、そう呼ぶのは網代のみ
なんでもすぐに信じてしまい、いつも網代に騙されている
仕事も頑張る努力家
×
網代立生(あじろたつき) 28
建築デザイン会社『SkyEnd』勤務
営業兼事務
背が高く、一見優しげ
しかしけっこう慇懃無礼に毒を吐く
人の好き嫌いが激しい
常識の通じないヤツが大嫌い
恋愛のできないふたりの関係は恋に発展するのか……!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる