一億円の花嫁

藤谷 郁

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幼なじみ襲来!(続)

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 電話をかけてきたのは翼さんだった。
 織人さんが用件を訊くと、『先日の件だが、やはり奈々子さんに直接会ってお礼を言いたい』とのこと。
 先日の件とはもちろん、綾華との見合いについてである。

「はあ? どうしてまた今ごろ……えっ、これから来る?」

 既に翼さんがマンションの近くまで来ているらしい。
 織人さんは少し迷うが、花ちゃんを見やり、

「いや、今日は先客がある。またにしてくれ」

 きっぱり断った。いくら親友でも、割り込みは失礼だと思ったのだろう。
 しかし花ちゃんが「待て」と、それを止める。

「わしは構わんぞ。奈々子に会えたし、織人殿の人柄にも満足した。目的は果たしたゆえ、そろそろお暇する」
「いや、でもそれじゃ悪いよ」

 さっそく帰り支度を始める花ちゃんを、織人さんが止めた。

「せっかく来てくれたのにさ、もう少しゆっくりしていってくれよ。なあ、奈々子」

 私もうんうんと言って花ちゃんを引き止める。でも、翼さんを断るのも気が引けてしまうし、どうすればいいのだろう。
 オロオロしつつ、思いついたことを口にした。

「ねえ、織人さん。いっそ四人で会いませんか?」

 唐突だが、悪くない提案だと思う。いや、なかなか良いのではないか。

「ほお……それもそうだな。互いの親友ってことで、いずれ紹介するだろうし。なるほど、合理的だ」

 織人さんも賛成してくれた。気のせいか、嬉しそうでもある。

「それに、翼と西野綾華の関係も、花ちゃんには伝えたほうがいいな。あの女の情報は共有すべきだろう」
「あ……」

 確かに、と、私も思った。翼さんは、綾華に関わった人間の一人である。

「なにっ? 西野と関係があるとは、その者、どういう人物なのじゃ」

 花ちゃんが眉をピリッとさせた。
 これはぜひ、二人には会ってもらうべきだと感じる。

 織人さんがスマホを持ち直し、翼さんに告げた。

「もしもし、やっぱ大丈夫だ。遠慮なく来てくれ」

 通話を切って10分後、インターフォンが鳴った。




「突然すまない。どうしても奈々子さんにお礼が言いたくて、来てしまった」

 玄関に迎えに出た織人さんと私に、翼さんが頭を下げた。
 彼も今日は休日なのか、いつものスーツではなく、カジュアルなジャケットにパンツという出で立ちである。
 有名パティスリーの袋を差し出し、もう一度頭を下げた。

「ま、いいさ。ここじゃ寒いから、上がれよ」
「すまん」

 翼さんの肩をぽんと叩くと、織人さんが客間へと先に歩いた。
 私は靴を脱いだ翼さんにスリッパをすすめる。

「奈々子さん、おじゃまします」
「どうぞどうぞ、ご遠慮なく」

 今日の翼さんは、ずいぶん恐縮して見える。一体どうしたのだろう?



「花ちゃん、こいつがさっき話した羽根田翼だ。翼、彼女は岡崎花さん。奈々子の幼なじみで、遊びに来てくれてたんだ」

 客間に入ると、織人さんが双方を紹介した。
 花ちゃんには翼さんについて、綾華の件も含めて説明してある。

「はじめまして。突然おじゃまして申し訳ありません」

 挨拶する翼さんを、花ちゃんが見上げた。小柄なため、大柄な彼に対して少しのけぞった格好になる。

「おお、はじめまして羽根田殿! 織人殿が言われたとおり、まさに山の如く、立派な体格をしておられる。お会いできて光栄に存じまするぞ」
「は、はあ……えっ?」

 右手を差し出す花ちゃんを見て、翼さんが戸惑った様子になる。
 時代劇調の言葉遣いと態度に驚いたのかもしれない。織人さんも察したのか、慌てて二人の間に入った。

「ああ、大丈夫だ翼。花ちゃんは時代劇が好きで……」
「もしかして、二刀にとうハナさんですか? 歴史ライターの」

 私はハッとした。
『二刀ハナ』というのは、花ちゃんのブロガーネームである。

「うむ。いかにも、わしの筆名は二刀ハナだ。ただし、本業はライターではなく、ブロガーだがの」
「マジですか!?」

 こんなに興奮する、というか舞い上がった様子の翼さんは珍しい。織人さんも目を丸くしている。



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