一億円の花嫁

藤谷 郁

文字の大きさ
133 / 198
幼なじみ襲来!(続)

しおりを挟む
 12月4日 17時37分18秒

 私と織人さんが夜景を見たのと同じ日にちと時間帯である。

「お前、どういうつもりだ。仲良くデートする俺たちを切り抜いて、冷やかそうってのか」
「違う違う。それに、この時点ではまだ、お前たちはこの場所にいない」
「ええ? じゃあ……」

 誰が写っているのか。
 私たちの疑問に答える代わりに、翼さんが写真の一部を拡大する。
 大写しにされたのは一組の男女。
 ぼんやりした画像が徐々に修正されて、やがてクリアになった。

「綾華……」

 あの日、トイレで遭遇した時の綾華と同じ服装だ。髪型もよく覚えている。
彼女がしなだれかかっている男性は――

「俺たちが展望フロアに上がる前に、西野綾華がここでデートしてたってわけか……ん? 待ってくれよ。この日は」

 織人さんが指摘し、私も思い出した。

「ああ、そうだ。西野綾華は俺と見合いしたあと、『恋人』と待ち合わせてデートしたらしい」
「嘘だろ。見合いしたのと同じビル内で?」
「見合いの2時間後だな。展望フロアは予約制だから、打ち合わせ済みだったんだろう。日が暮れたあとの、薄暗い空間ならバレないとでも思って」

 翼さんは淡々と語るが、私たちはなんと言っていいのか、言葉が見つからない。
 あまりにも人をバカにした話である。

「信じられねえ……で、この女は男と夜景デートを楽しみ、化粧直しに寄ったトイレで奈々子とばったり会ったってことか」

 織人さんの声が尖っている。
 花ちゃんも眼光鋭く、画面を睨みつけた。

「どこまで無礼な女なのじゃ。奈々子だけでなく、翼殿まで侮辱するとは」

 二人は怒り、私はといえば、それに加えて戦慄を覚える。
 無神経とかのレベルではなく、綾華のやることなすこと、すべてが自分本位。しかもナチュラルにやってのけるのだから、信じられない。


「この、お前が防犯カメラを調べたのか」

 織人さんが訊くと、翼さんは首を横に振った。

「親父だよ」
「九郎さん?」

 羽根田九郎。翼さんの父親で、羽根田グループの社長である。

「奈々子さん。あの夜、展望フロアのトイレで西野綾華と会ったんですよね」
「え?」

 ふいに質問されて、少し戸惑う。
 中学時代のエピソードとともに、綾華との遭遇についても翼さんに話してあった。

「はい。トイレの化粧室で」
「そのことを親父にも伝えたんですが、なぜ彼女が見合いのあと帰宅せず展望フロアにいたのか――と、疑問を持ったそうです。それで、信頼できる部下に命じて防犯カメラの映像を調べさせた。ツレがいたのではないかと」
「あ……」

 言われてみれば、確かに。
 織人さんは、まさかという顔になる。

「その結果、この場面が見つかった。つまり、親父は縁談を断る前に、奈々子さんから聞いた話の裏取りをしたわけです。西野綾華が不実な人間であると確信できた」
「そうだったんですね」
「だが、まさかだろ。見合いの直後に逢引きなんて発想はなかったぜ」

 しかし羽根田社長は疑った。私の話を信じてくれたからこそ、調べたのかもしれない。
 さすが大企業のトップと感心する私たちを見て、翼さんがちょっと困ったように笑う。

「実は昨日、親父のパソコンデータを整理中に、この写真を偶然見つけたんだ。俺が傷付くと思って、隠しておいたらしくて。俺はまったく気にしないのに」

 困ったようで、なんだか嬉しそうだ。
 一見厳ついけれど、笑顔が優しい羽根田社長が目に浮かぶ。

「それで、あらためて直接お礼をせねばと思ったんです。奈々子さんが止めてくれなかったら、俺は西野綾華と結婚していた。一生の不覚を回避できたのは、あなたのおかげだ。本当にありがとうございます!」

 深々と頭を下げられ、恐縮する。
 私は自分ができることをしただけであり、縁談を断ったのは翼さん自身だ。彼の真っ直ぐな気性あってのこと。
 だけど、少しでも役に立てたのなら嬉しい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

高嶺の花の高嶺さんに好かれまして。

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の低田悠真のクラスには『高嶺の花』と呼ばれるほどの人気がある高嶺結衣という女子生徒がいる。容姿端麗、頭脳明晰、品行方正な高嶺さんは男女問わずに告白されているが全て振っていた。彼女には好きな人がいるらしい。  ゴールデンウィーク明け。放課後にハンカチを落としたことに気付いた悠真は教室に戻ると、自分のハンカチの匂いを嗅いで悶える高嶺さんを見つける。その場で、悠真は高嶺さんに好きだと告白されるが、付き合いたいと思うほど好きではないという理由で振る。  しかし、高嶺さんも諦めない。悠真に恋人も好きな人もいないと知り、 「絶対、私に惚れさせてみせるからね!」  と高らかに宣言したのだ。この告白をきっかけに、悠真は高嶺さんと友達になり、高校生活が変化し始めていく。  大好きなおかずを作ってきてくれたり、バイト先に来てくれたり、放課後デートをしたり、朝起きたら笑顔で見つめられていたり。高嶺の花の高嶺さんとの甘くてドキドキな青春学園ラブコメディ!  ※2学期編4が完結しました!(2025.8.4)  ※お気に入り登録や感想、いいねなどお待ちしております。

You Could Be Mine ぱーとに【改訂版】

てらだりょう
恋愛
高身長・イケメン・優しくてあたしを溺愛する彼氏はなんだかんだ優しいだんなさまへ進化。 変態度も進化して一筋縄ではいかない新婚生活は甘く・・・はない! 恋人から夫婦になった尊とあたし、そして未来の家族。あたしたちを待つ未来の家族とはいったい?? You Could Be Mine【改訂版】の第2部です。 ↑後半戦になりますので前半戦からご覧いただけるとよりニヤニヤ出来るので是非どうぞ! ※ぱーといちに引き続き昔の作品のため、現在の状況にそぐわない表現などございますが、設定等そのまま使用しているためご理解の上お読みいただけますと幸いです。

借りてきたカレ

しじましろ
恋愛
都合の良い存在であるはずのレンタル彼氏に振り回されて…… あらすじ システムエンジニアの萩野みさをは、仕事中毒でゾンビのような見た目になるほど働いている。 人の良さにつけ込まれ、面倒な仕事を押しつけられたり、必要のない物を買わされたり、損ばかりしているが、本人は好きでやっていることとあまり気にしていない。 人並みに結婚願望はあるものの、三十歳過ぎても男性経験はゼロ。 しかし、レンタル彼氏・キキとの出会いが、そんな色の無いみさをの日常を大きく変えていく。 基本的にはカラッと明るいラブコメですが、生き馬の目を抜くIT企業のお仕事ものでもあるので、癖のあるサブキャラや意外な展開もお楽しみください!

管理人さんといっしょ。

桜庭かなめ
恋愛
 桐生由弦は高校進学のために、学校近くのアパート「あけぼの荘」に引っ越すことに。  しかし、あけぼの荘に向かう途中、由弦と同じく進学のために引っ越す姫宮風花と二重契約になっており、既に引っ越しの作業が始まっているという連絡が来る。  風花に部屋を譲ったが、あけぼの荘に空き部屋はなく、由弦の希望する物件が近くには一切ないので、新しい住まいがなかなか見つからない。そんなとき、 「責任を取らせてください! 私と一緒に暮らしましょう」  高校2年生の管理人・白鳥美優からのそんな提案を受け、由弦と彼女と一緒に同居すると決める。こうして由弦は1学年上の女子高生との共同生活が始まった。  ご飯を食べるときも、寝るときも、家では美少女な管理人さんといつもいっしょ。優しくて温かい同居&学園ラブコメディ!  ※特別編11が完結しました!(2025.6.20)  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。

泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。 でも今、確かに思ってる。 ―――この愛は、重い。 ------------------------------------------ 羽柴健人(30) 羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問 座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』 好き:柊みゆ 嫌い:褒められること × 柊 みゆ(28) 弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部 座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』 好き:走ること 苦手:羽柴健人 ------------------------------------------

こじらせ女子の恋愛事情

あさの紅茶
恋愛
過去の恋愛の失敗を未だに引きずるこじらせアラサー女子の私、仁科真知(26) そんな私のことをずっと好きだったと言う同期の宗田優くん(26) いやいや、宗田くんには私なんかより、若くて可愛い可憐ちゃん(女子力高め)の方がお似合いだよ。 なんて自らまたこじらせる残念な私。 「俺はずっと好きだけど?」 「仁科の返事を待ってるんだよね」 宗田くんのまっすぐな瞳に耐えきれなくて逃げ出してしまった。 これ以上こじらせたくないから、神様どうか私に勇気をください。 ******************* この作品は、他のサイトにも掲載しています。

処理中です...