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幼なじみ襲来!(続)
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12月4日 17時37分18秒
私と織人さんが夜景を見たのと同じ日にちと時間帯である。
「お前、どういうつもりだ。仲良くデートする俺たちを切り抜いて、冷やかそうってのか」
「違う違う。それに、この時点ではまだ、お前たちはこの場所にいない」
「ええ? じゃあ……」
誰が写っているのか。
私たちの疑問に答える代わりに、翼さんが写真の一部を拡大する。
大写しにされたのは一組の男女。
ぼんやりした画像が徐々に修正されて、やがてクリアになった。
「綾華……」
あの日、トイレで遭遇した時の綾華と同じ服装だ。髪型もよく覚えている。
彼女がしなだれかかっている男性は――
「俺たちが展望フロアに上がる前に、西野綾華がここでデートしてたってわけか……ん? 待ってくれよ。この日は」
織人さんが指摘し、私も思い出した。
「ああ、そうだ。西野綾華は俺と見合いしたあと、『恋人』と待ち合わせてデートしたらしい」
「嘘だろ。見合いしたのと同じビル内で?」
「見合いの2時間後だな。展望フロアは予約制だから、打ち合わせ済みだったんだろう。日が暮れたあとの、薄暗い空間ならバレないとでも思って」
翼さんは淡々と語るが、私たちはなんと言っていいのか、言葉が見つからない。
あまりにも人をバカにした話である。
「信じられねえ……で、この女は男と夜景デートを楽しみ、化粧直しに寄ったトイレで奈々子とばったり会ったってことか」
織人さんの声が尖っている。
花ちゃんも眼光鋭く、画面を睨みつけた。
「どこまで無礼な女なのじゃ。奈々子だけでなく、翼殿まで侮辱するとは」
二人は怒り、私はといえば、それに加えて戦慄を覚える。
無神経とかのレベルではなく、綾華のやることなすこと、すべてが自分本位。しかもナチュラルにやってのけるのだから、信じられない。
「この証拠写真、お前が防犯カメラを調べたのか」
織人さんが訊くと、翼さんは首を横に振った。
「親父だよ」
「九郎さん?」
羽根田九郎。翼さんの父親で、羽根田グループの社長である。
「奈々子さん。あの夜、展望フロアのトイレで西野綾華と会ったんですよね」
「え?」
ふいに質問されて、少し戸惑う。
中学時代のエピソードとともに、綾華との遭遇についても翼さんに話してあった。
「はい。トイレの化粧室で」
「そのことを親父にも伝えたんですが、なぜ彼女が見合いのあと帰宅せず展望フロアにいたのか――と、疑問を持ったそうです。それで、信頼できる部下に命じて防犯カメラの映像を調べさせた。ツレがいたのではないかと」
「あ……」
言われてみれば、確かに。
織人さんは、まさかという顔になる。
「その結果、この場面が見つかった。つまり、親父は縁談を断る前に、奈々子さんから聞いた話の裏取りをしたわけです。西野綾華が不実な人間であると確信できた」
「そうだったんですね」
「だが、まさかだろ。見合いの直後に逢引きなんて発想はなかったぜ」
しかし羽根田社長は疑った。私の話を信じてくれたからこそ、調べたのかもしれない。
さすが大企業のトップと感心する私たちを見て、翼さんがちょっと困ったように笑う。
「実は昨日、親父のパソコンデータを整理中に、この写真を偶然見つけたんだ。俺が傷付くと思って、隠しておいたらしくて。俺はまったく気にしないのに」
困ったようで、なんだか嬉しそうだ。
一見厳ついけれど、笑顔が優しい羽根田社長が目に浮かぶ。
「それで、あらためて直接お礼をせねばと思ったんです。奈々子さんが止めてくれなかったら、俺は西野綾華と結婚していた。一生の不覚を回避できたのは、あなたのおかげだ。本当にありがとうございます!」
深々と頭を下げられ、恐縮する。
私は自分ができることをしただけであり、縁談を断ったのは翼さん自身だ。彼の真っ直ぐな気性あってのこと。
だけど、少しでも役に立てたのなら嬉しい。
私と織人さんが夜景を見たのと同じ日にちと時間帯である。
「お前、どういうつもりだ。仲良くデートする俺たちを切り抜いて、冷やかそうってのか」
「違う違う。それに、この時点ではまだ、お前たちはこの場所にいない」
「ええ? じゃあ……」
誰が写っているのか。
私たちの疑問に答える代わりに、翼さんが写真の一部を拡大する。
大写しにされたのは一組の男女。
ぼんやりした画像が徐々に修正されて、やがてクリアになった。
「綾華……」
あの日、トイレで遭遇した時の綾華と同じ服装だ。髪型もよく覚えている。
彼女がしなだれかかっている男性は――
「俺たちが展望フロアに上がる前に、西野綾華がここでデートしてたってわけか……ん? 待ってくれよ。この日は」
織人さんが指摘し、私も思い出した。
「ああ、そうだ。西野綾華は俺と見合いしたあと、『恋人』と待ち合わせてデートしたらしい」
「嘘だろ。見合いしたのと同じビル内で?」
「見合いの2時間後だな。展望フロアは予約制だから、打ち合わせ済みだったんだろう。日が暮れたあとの、薄暗い空間ならバレないとでも思って」
翼さんは淡々と語るが、私たちはなんと言っていいのか、言葉が見つからない。
あまりにも人をバカにした話である。
「信じられねえ……で、この女は男と夜景デートを楽しみ、化粧直しに寄ったトイレで奈々子とばったり会ったってことか」
織人さんの声が尖っている。
花ちゃんも眼光鋭く、画面を睨みつけた。
「どこまで無礼な女なのじゃ。奈々子だけでなく、翼殿まで侮辱するとは」
二人は怒り、私はといえば、それに加えて戦慄を覚える。
無神経とかのレベルではなく、綾華のやることなすこと、すべてが自分本位。しかもナチュラルにやってのけるのだから、信じられない。
「この証拠写真、お前が防犯カメラを調べたのか」
織人さんが訊くと、翼さんは首を横に振った。
「親父だよ」
「九郎さん?」
羽根田九郎。翼さんの父親で、羽根田グループの社長である。
「奈々子さん。あの夜、展望フロアのトイレで西野綾華と会ったんですよね」
「え?」
ふいに質問されて、少し戸惑う。
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「はい。トイレの化粧室で」
「そのことを親父にも伝えたんですが、なぜ彼女が見合いのあと帰宅せず展望フロアにいたのか――と、疑問を持ったそうです。それで、信頼できる部下に命じて防犯カメラの映像を調べさせた。ツレがいたのではないかと」
「あ……」
言われてみれば、確かに。
織人さんは、まさかという顔になる。
「その結果、この場面が見つかった。つまり、親父は縁談を断る前に、奈々子さんから聞いた話の裏取りをしたわけです。西野綾華が不実な人間であると確信できた」
「そうだったんですね」
「だが、まさかだろ。見合いの直後に逢引きなんて発想はなかったぜ」
しかし羽根田社長は疑った。私の話を信じてくれたからこそ、調べたのかもしれない。
さすが大企業のトップと感心する私たちを見て、翼さんがちょっと困ったように笑う。
「実は昨日、親父のパソコンデータを整理中に、この写真を偶然見つけたんだ。俺が傷付くと思って、隠しておいたらしくて。俺はまったく気にしないのに」
困ったようで、なんだか嬉しそうだ。
一見厳ついけれど、笑顔が優しい羽根田社長が目に浮かぶ。
「それで、あらためて直接お礼をせねばと思ったんです。奈々子さんが止めてくれなかったら、俺は西野綾華と結婚していた。一生の不覚を回避できたのは、あなたのおかげだ。本当にありがとうございます!」
深々と頭を下げられ、恐縮する。
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