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一億円の花嫁
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「奈々子?」
きょとんとした顔。
なんだかもう、憎らしくてたまらない。
「どうしたんだ。まさか、つまらなかったなんて言わないよな?」
「……」
本当にどうしたのだろう。私は、私がコントロールできない。こんなことは初めてで、自分自身が戸惑っている。
「あっ、そうか。部屋が明るくなって、手を繋いでるのが恥ずかしかったんだろ」
「はい……?」
照れた顔を見て、ますますモヤモヤが広がる。織人さんが都合よく解釈するのはいつものことなのに、すごく腹が立つ。
とにかく今は、この人から離れて一人になりたかった。
とんでもない暴言を吐きそうで。
「違うんです。あの……食べすぎちゃったみたいで、お腹が痛くて……」
うつむいて、小さな声で言い訳する。
けんめいに感情をこらえて。
腹痛は嘘だけど、気分が悪いのは本当なので、彼は信じた。
「腹が痛い? なんで早く言わないんだ」
我慢して映画を観ていたのかと彼が訊く。
ある意味、そのとおり。私は、花畑のシーンからこんな風になった。
「ごめんなさい、織人さん。今夜は先に休みます」
「ああ、そのほうがいい。でも大丈夫なのか、病院に行かなくても」
「そんなに酷くないので……」
顔を覗き込もうとする織人さんに背を向け、シアタールームを出た。
彼は心配そうにするが、私の態度に不穏なものを感じたのか、ついて来たのは自室の前までで、深追いしなかった。
しばらく後に様子を見に来たけれど、私は「大丈夫です」と答えたきり、あとは眠ったふり。
我ながら冷たいと思った。
家族にすら、こんな塩対応したことがない。言いたいことがあるなら、ハッキリ言えばいいのに。
でも私は、自分がなぜ怒っているのか、うまく言えそうになかった。
だってそんなの可笑しすぎる。呆れられて、笑われる。
(映画のヒロインが初恋の人……織人さんが好きなのは私じゃなかった。最初から、メイだったのね)
織人さんの幸せそうな笑顔や、無神経な発言に傷ついている。こんな感情を抱いたのは初めてだから、分からなかった。
モヤモヤの正体は、嫉妬だと認めた。
きょとんとした顔。
なんだかもう、憎らしくてたまらない。
「どうしたんだ。まさか、つまらなかったなんて言わないよな?」
「……」
本当にどうしたのだろう。私は、私がコントロールできない。こんなことは初めてで、自分自身が戸惑っている。
「あっ、そうか。部屋が明るくなって、手を繋いでるのが恥ずかしかったんだろ」
「はい……?」
照れた顔を見て、ますますモヤモヤが広がる。織人さんが都合よく解釈するのはいつものことなのに、すごく腹が立つ。
とにかく今は、この人から離れて一人になりたかった。
とんでもない暴言を吐きそうで。
「違うんです。あの……食べすぎちゃったみたいで、お腹が痛くて……」
うつむいて、小さな声で言い訳する。
けんめいに感情をこらえて。
腹痛は嘘だけど、気分が悪いのは本当なので、彼は信じた。
「腹が痛い? なんで早く言わないんだ」
我慢して映画を観ていたのかと彼が訊く。
ある意味、そのとおり。私は、花畑のシーンからこんな風になった。
「ごめんなさい、織人さん。今夜は先に休みます」
「ああ、そのほうがいい。でも大丈夫なのか、病院に行かなくても」
「そんなに酷くないので……」
顔を覗き込もうとする織人さんに背を向け、シアタールームを出た。
彼は心配そうにするが、私の態度に不穏なものを感じたのか、ついて来たのは自室の前までで、深追いしなかった。
しばらく後に様子を見に来たけれど、私は「大丈夫です」と答えたきり、あとは眠ったふり。
我ながら冷たいと思った。
家族にすら、こんな塩対応したことがない。言いたいことがあるなら、ハッキリ言えばいいのに。
でも私は、自分がなぜ怒っているのか、うまく言えそうになかった。
だってそんなの可笑しすぎる。呆れられて、笑われる。
(映画のヒロインが初恋の人……織人さんが好きなのは私じゃなかった。最初から、メイだったのね)
織人さんの幸せそうな笑顔や、無神経な発言に傷ついている。こんな感情を抱いたのは初めてだから、分からなかった。
モヤモヤの正体は、嫉妬だと認めた。
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