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運命の人
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「あの……本当にいつもありがとうございます。特務室の皆さんには、一度きちんとお礼というか、お詫びをしたかったのです。私のために、ご面倒をおかけしてすみません」
心からの言葉だった。
織人さんの無茶振りには、関根さんはじめ特務室の皆が翻弄されている。
「とんでもございません。我々には会社……というより、織人様のご要望には常に全力で対応する準備ができております。むしろ、こういった任務のために日々の鍛錬があり、その成果を発揮するチャンスですから。つまり、部下としての喜び」
(喜び?)
驚いて雲井さんを見返す。
彼女は大真面目だ。
「少なくとも、我々のような武闘派にとっては」
雲井さんは言いながらポケットを探り、コインを取り出した。人差し指と中指、親指で挟まれたそれは、10円玉である。
「例えばこの私、もともと格闘技の選手でしたが、織人様からアドバイスをいただき、さらに精進して参りました」
「え?」
「すなわちパワーアップ。このように……」
何の話だろう。それに、その10円玉は?
よくわからず戸惑っていると、彼女がいきなり腕を突き出し、「ふんっ!」と気合いを入れた。
「……!?」
風が立ち、思わず目をつむる。
ほんの一瞬の出来事。
そうっと目を開けると、硬貨がぐにゃりと曲がっていた。
「ええっ!?」
まさか、指で曲げた?
手品のようだが、渡されたそれを確かめると、間違いなく10円玉である。
厚さ1.5ミリの、青銅製の硬貨だ。
「す、すごい力……」
「織人様の部下なら当然のこと。ほんのたしなみでございます」
いやいや、硬貨を曲げるなんて相当な力だ。しかも指でなんて。
しかしサングラスを外した雲井さんの瞳は、美しいまでに澄んでいる。
なにもかも真実なのだと証明するように。
「我々は織人様の部下であると同時に、信奉者なのです。そして織人様にとって大切な存在である奈々子様を、命に代えてもお守りするのは使命であり、喜びでもある。ゆえに、我らへのお気遣いは一切無用。お分かりいただけましたか?」
彼女の手に硬貨を返しながら、私はうなずくほかなかった。
「それでは配置に戻ります。奈々子様がお出かけの際は尾行いたしますが、お気になさらず。なにかありましたら電話もしくはアカウントにご連絡ください。グループで共有し、織人様にも逐一ご報告しますので」
「分かりました。よろしくお願いします」
皆のアカウントをアプリに登録する間に、彼女は立ち去った。
エントランスはシンとして、誰もいないかのよう。だが、どこかから見守ってくれているのだ。
「……びっくりした。でも、挨拶できて良かった」
雲井さんとチームのメンバーは、織人さんの信奉者。つまり信頼できる人たちだと分かった。
私は安心して、一人でどこへでも出かけられる。
ーー織人様にとって大切な存在である奈々子様を、命に代えてもお守りするのは使命であり、喜びでもある。
「大切な存在……そう、見えるのかな」
自分のつぶやきに首を振り、花ちゃんのもとへと向かった。
心からの言葉だった。
織人さんの無茶振りには、関根さんはじめ特務室の皆が翻弄されている。
「とんでもございません。我々には会社……というより、織人様のご要望には常に全力で対応する準備ができております。むしろ、こういった任務のために日々の鍛錬があり、その成果を発揮するチャンスですから。つまり、部下としての喜び」
(喜び?)
驚いて雲井さんを見返す。
彼女は大真面目だ。
「少なくとも、我々のような武闘派にとっては」
雲井さんは言いながらポケットを探り、コインを取り出した。人差し指と中指、親指で挟まれたそれは、10円玉である。
「例えばこの私、もともと格闘技の選手でしたが、織人様からアドバイスをいただき、さらに精進して参りました」
「え?」
「すなわちパワーアップ。このように……」
何の話だろう。それに、その10円玉は?
よくわからず戸惑っていると、彼女がいきなり腕を突き出し、「ふんっ!」と気合いを入れた。
「……!?」
風が立ち、思わず目をつむる。
ほんの一瞬の出来事。
そうっと目を開けると、硬貨がぐにゃりと曲がっていた。
「ええっ!?」
まさか、指で曲げた?
手品のようだが、渡されたそれを確かめると、間違いなく10円玉である。
厚さ1.5ミリの、青銅製の硬貨だ。
「す、すごい力……」
「織人様の部下なら当然のこと。ほんのたしなみでございます」
いやいや、硬貨を曲げるなんて相当な力だ。しかも指でなんて。
しかしサングラスを外した雲井さんの瞳は、美しいまでに澄んでいる。
なにもかも真実なのだと証明するように。
「我々は織人様の部下であると同時に、信奉者なのです。そして織人様にとって大切な存在である奈々子様を、命に代えてもお守りするのは使命であり、喜びでもある。ゆえに、我らへのお気遣いは一切無用。お分かりいただけましたか?」
彼女の手に硬貨を返しながら、私はうなずくほかなかった。
「それでは配置に戻ります。奈々子様がお出かけの際は尾行いたしますが、お気になさらず。なにかありましたら電話もしくはアカウントにご連絡ください。グループで共有し、織人様にも逐一ご報告しますので」
「分かりました。よろしくお願いします」
皆のアカウントをアプリに登録する間に、彼女は立ち去った。
エントランスはシンとして、誰もいないかのよう。だが、どこかから見守ってくれているのだ。
「……びっくりした。でも、挨拶できて良かった」
雲井さんとチームのメンバーは、織人さんの信奉者。つまり信頼できる人たちだと分かった。
私は安心して、一人でどこへでも出かけられる。
ーー織人様にとって大切な存在である奈々子様を、命に代えてもお守りするのは使命であり、喜びでもある。
「大切な存在……そう、見えるのかな」
自分のつぶやきに首を振り、花ちゃんのもとへと向かった。
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