156 / 198
結婚発表
2
しおりを挟む
「怪しい男については結局謎のままだが、西野と剛田が無関係なのは確かだ。杞憂だったな」
「は、はい。ありがとう、織人さん……本当に」
思わず彼に寄り添った。
私を守ってくれる頼もしい胸に、体ごともたれる。
「おいおい、どうしたんだ」
「……嬉しくて」
「ったく、甘えん坊だなあ、奈々子は」
そう言いながら、ぎゅーっと抱きしめてくる。
温かい……というか、だんだん熱くなってきて、慌てて腕から逃れた。
「なんで逃げるんだよ」
「だ、だって、これからお仕事ですし。遅刻してしまいます」
「ちょっとぐらい大丈夫だって」
「ダメです」
織人さんではなく、私のほうがその気になってしまう。
なんて言えるわけもなく、胸の前でばってんを作った。
「分かった分かった。じゃあ、続きは帰ってからってことで」
「はい……えっ?」
きょとんとする私に、織人さんが朗らかに笑う。まるで、すべて察しているかのような、余裕の態度。
「も、もう。本当に遅刻しますよ!」
急に恥ずかしくなり、彼の手を取り玄関までぐいぐい引っ張っていった。
「はっはは……照れるなって」
「知りません」
玄関まで来ると、いつものようにキスをくれた。
そして、少し真面目な様子になり、私を見つめる。
「とりあえず安心したが、セキュリティチームの見守りはもう少し続ける。君は俺の、大事な妻だからな」
「織人さん……」
ふわりと抱きしめられた。
私は逆らわず、保護される安堵感と喜びに浸る。
「ふう……名残惜しいが、そろそろ行くよ」
「はい。気をつけて」
「奈々子も」
織人さんが出ていくと、家の中がシンとなり、温度も下がった気がする。
私にとって彼という存在は、たとえようもなく大きいのだ。
「でも、頼ってばかりじゃダメだよね。私も妻として、織人さんをサポートしなくちゃ」
少なくとも家事を頑張ろう。
腕まくりして、自分の仕事を始めた。
◇ ◇ ◇
特務室の報告を受けてから一週間が経った。私は穏やかな気持ちで毎日を過ごしている。
何事もなく、平和で幸せな暮らし。
綾華がなんらかの嫌がらせ~逆恨みの同窓会~を仕掛けてくるという心配は、本当に杞憂だったのだ。
(トラウマが強烈すぎて、大げさに考えてしまったのかも)
私だけではない。
子どもの頃から綾華のお守りをさせられてきた夏樹も、不安に支配されていたのだ。
先日、剛田蓮の情報も併せた調査結果を電話で伝えると、彼女は涙声で『良かった』と繰り返した。
『綾華の件は、ずっと気になってたんだよ。ていうか、そこまで調べ上げるなんて凄いじゃない。よほど優秀な探偵さんなんだね』
興信所を使ったと彼女には伝えた。結婚発表がまだなので、私の夫が由比織人で、彼が自前のチームで調査したとは言えなかったのだ。
それから、花ちゃんと姉にも報告を入れた。実家の周りをうろついていた謎の男は結局謎のままだが、綾華と無関係のようだと分かり、特に姉が安堵していた。
『さすが由比織人。頼りになる義弟だわ』
姉の誇らしげな声を聞いて、思わず微笑んだ。愛する人が家族に信頼されるのは、なによりの喜びである。
織人さんと結婚して、私はさまざまな幸福を与えられた。
ぎくしゃくしていた家族と和解し、足枷だったトラウマも嘘みたいに解消した。
いや、まだ綾華に対しては怖さが残っているが……でも平気だ。
私には織人さんがいる。
彼ならどんな窮地に陥っても助けに来てくれると、心の底から信じられるから。
朝、いつものように織人さんを送り出した後、ショッピングモールに出かけた。
特に買うものはないが、なんとなく落ち着かなくて、街をウロウロしたのだ。
ちなみに、雲井さんのチームは昨日解散している。織人さんはもう少しガードしたそうだったが、私が遠慮した。特務室は多忙な部署であり、彼女たち本来の仕事に戻ってもらいたかった。
書店や雑貨店、好きなお店をぐるりと巡り、2時間ほど歩き回ってから、駅近くのカフェに入った。
時刻は午前11時。
(あと1時間……)
本日正午、三保コンフォートの公式サイト上に結婚報告が掲載される。
ついに情報解禁。といっても、CEOが結婚したというテキスト発表のみで、私の名前や顔写真が出るわけではない。
また、新ブランドホテルのオープン、株式の配当金増額のお知らせ、などのめでたいニュースが先にあり、最後に結婚報告が控えめに添えられると聞いた。
なので、別にどうということもないのだ。芸能人みたいに騒がれるわけもなく……が、どうしても緊張してしまう。
「私って、やっぱり小心者だなあ」
窓際のテーブル席に座り、通りを行き交う人々を眺める。
ミルクティーをゆっくり飲みながら、しばしぼんやりした。
(幸せすぎて怖い……)
カップを置いた左手の薬指を、冬の陽射しにかざす。
次の日曜日はクリスマスイブ。
ブティックで結婚指輪を受け取り、その後織人さんとデートする予定である。
「は、はい。ありがとう、織人さん……本当に」
思わず彼に寄り添った。
私を守ってくれる頼もしい胸に、体ごともたれる。
「おいおい、どうしたんだ」
「……嬉しくて」
「ったく、甘えん坊だなあ、奈々子は」
そう言いながら、ぎゅーっと抱きしめてくる。
温かい……というか、だんだん熱くなってきて、慌てて腕から逃れた。
「なんで逃げるんだよ」
「だ、だって、これからお仕事ですし。遅刻してしまいます」
「ちょっとぐらい大丈夫だって」
「ダメです」
織人さんではなく、私のほうがその気になってしまう。
なんて言えるわけもなく、胸の前でばってんを作った。
「分かった分かった。じゃあ、続きは帰ってからってことで」
「はい……えっ?」
きょとんとする私に、織人さんが朗らかに笑う。まるで、すべて察しているかのような、余裕の態度。
「も、もう。本当に遅刻しますよ!」
急に恥ずかしくなり、彼の手を取り玄関までぐいぐい引っ張っていった。
「はっはは……照れるなって」
「知りません」
玄関まで来ると、いつものようにキスをくれた。
そして、少し真面目な様子になり、私を見つめる。
「とりあえず安心したが、セキュリティチームの見守りはもう少し続ける。君は俺の、大事な妻だからな」
「織人さん……」
ふわりと抱きしめられた。
私は逆らわず、保護される安堵感と喜びに浸る。
「ふう……名残惜しいが、そろそろ行くよ」
「はい。気をつけて」
「奈々子も」
織人さんが出ていくと、家の中がシンとなり、温度も下がった気がする。
私にとって彼という存在は、たとえようもなく大きいのだ。
「でも、頼ってばかりじゃダメだよね。私も妻として、織人さんをサポートしなくちゃ」
少なくとも家事を頑張ろう。
腕まくりして、自分の仕事を始めた。
◇ ◇ ◇
特務室の報告を受けてから一週間が経った。私は穏やかな気持ちで毎日を過ごしている。
何事もなく、平和で幸せな暮らし。
綾華がなんらかの嫌がらせ~逆恨みの同窓会~を仕掛けてくるという心配は、本当に杞憂だったのだ。
(トラウマが強烈すぎて、大げさに考えてしまったのかも)
私だけではない。
子どもの頃から綾華のお守りをさせられてきた夏樹も、不安に支配されていたのだ。
先日、剛田蓮の情報も併せた調査結果を電話で伝えると、彼女は涙声で『良かった』と繰り返した。
『綾華の件は、ずっと気になってたんだよ。ていうか、そこまで調べ上げるなんて凄いじゃない。よほど優秀な探偵さんなんだね』
興信所を使ったと彼女には伝えた。結婚発表がまだなので、私の夫が由比織人で、彼が自前のチームで調査したとは言えなかったのだ。
それから、花ちゃんと姉にも報告を入れた。実家の周りをうろついていた謎の男は結局謎のままだが、綾華と無関係のようだと分かり、特に姉が安堵していた。
『さすが由比織人。頼りになる義弟だわ』
姉の誇らしげな声を聞いて、思わず微笑んだ。愛する人が家族に信頼されるのは、なによりの喜びである。
織人さんと結婚して、私はさまざまな幸福を与えられた。
ぎくしゃくしていた家族と和解し、足枷だったトラウマも嘘みたいに解消した。
いや、まだ綾華に対しては怖さが残っているが……でも平気だ。
私には織人さんがいる。
彼ならどんな窮地に陥っても助けに来てくれると、心の底から信じられるから。
朝、いつものように織人さんを送り出した後、ショッピングモールに出かけた。
特に買うものはないが、なんとなく落ち着かなくて、街をウロウロしたのだ。
ちなみに、雲井さんのチームは昨日解散している。織人さんはもう少しガードしたそうだったが、私が遠慮した。特務室は多忙な部署であり、彼女たち本来の仕事に戻ってもらいたかった。
書店や雑貨店、好きなお店をぐるりと巡り、2時間ほど歩き回ってから、駅近くのカフェに入った。
時刻は午前11時。
(あと1時間……)
本日正午、三保コンフォートの公式サイト上に結婚報告が掲載される。
ついに情報解禁。といっても、CEOが結婚したというテキスト発表のみで、私の名前や顔写真が出るわけではない。
また、新ブランドホテルのオープン、株式の配当金増額のお知らせ、などのめでたいニュースが先にあり、最後に結婚報告が控えめに添えられると聞いた。
なので、別にどうということもないのだ。芸能人みたいに騒がれるわけもなく……が、どうしても緊張してしまう。
「私って、やっぱり小心者だなあ」
窓際のテーブル席に座り、通りを行き交う人々を眺める。
ミルクティーをゆっくり飲みながら、しばしぼんやりした。
(幸せすぎて怖い……)
カップを置いた左手の薬指を、冬の陽射しにかざす。
次の日曜日はクリスマスイブ。
ブティックで結婚指輪を受け取り、その後織人さんとデートする予定である。
24
あなたにおすすめの小説
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
高嶺の花の高嶺さんに好かれまして。
桜庭かなめ
恋愛
高校1年生の低田悠真のクラスには『高嶺の花』と呼ばれるほどの人気がある高嶺結衣という女子生徒がいる。容姿端麗、頭脳明晰、品行方正な高嶺さんは男女問わずに告白されているが全て振っていた。彼女には好きな人がいるらしい。
ゴールデンウィーク明け。放課後にハンカチを落としたことに気付いた悠真は教室に戻ると、自分のハンカチの匂いを嗅いで悶える高嶺さんを見つける。その場で、悠真は高嶺さんに好きだと告白されるが、付き合いたいと思うほど好きではないという理由で振る。
しかし、高嶺さんも諦めない。悠真に恋人も好きな人もいないと知り、
「絶対、私に惚れさせてみせるからね!」
と高らかに宣言したのだ。この告白をきっかけに、悠真は高嶺さんと友達になり、高校生活が変化し始めていく。
大好きなおかずを作ってきてくれたり、バイト先に来てくれたり、放課後デートをしたり、朝起きたら笑顔で見つめられていたり。高嶺の花の高嶺さんとの甘くてドキドキな青春学園ラブコメディ!
※2学期編4が完結しました!(2025.8.4)
※お気に入り登録や感想、いいねなどお待ちしております。
You Could Be Mine ぱーとに【改訂版】
てらだりょう
恋愛
高身長・イケメン・優しくてあたしを溺愛する彼氏はなんだかんだ優しいだんなさまへ進化。
変態度も進化して一筋縄ではいかない新婚生活は甘く・・・はない!
恋人から夫婦になった尊とあたし、そして未来の家族。あたしたちを待つ未来の家族とはいったい??
You Could Be Mine【改訂版】の第2部です。
↑後半戦になりますので前半戦からご覧いただけるとよりニヤニヤ出来るので是非どうぞ!
※ぱーといちに引き続き昔の作品のため、現在の状況にそぐわない表現などございますが、設定等そのまま使用しているためご理解の上お読みいただけますと幸いです。
借りてきたカレ
しじましろ
恋愛
都合の良い存在であるはずのレンタル彼氏に振り回されて……
あらすじ
システムエンジニアの萩野みさをは、仕事中毒でゾンビのような見た目になるほど働いている。
人の良さにつけ込まれ、面倒な仕事を押しつけられたり、必要のない物を買わされたり、損ばかりしているが、本人は好きでやっていることとあまり気にしていない。
人並みに結婚願望はあるものの、三十歳過ぎても男性経験はゼロ。
しかし、レンタル彼氏・キキとの出会いが、そんな色の無いみさをの日常を大きく変えていく。
基本的にはカラッと明るいラブコメですが、生き馬の目を抜くIT企業のお仕事ものでもあるので、癖のあるサブキャラや意外な展開もお楽しみください!
管理人さんといっしょ。
桜庭かなめ
恋愛
桐生由弦は高校進学のために、学校近くのアパート「あけぼの荘」に引っ越すことに。
しかし、あけぼの荘に向かう途中、由弦と同じく進学のために引っ越す姫宮風花と二重契約になっており、既に引っ越しの作業が始まっているという連絡が来る。
風花に部屋を譲ったが、あけぼの荘に空き部屋はなく、由弦の希望する物件が近くには一切ないので、新しい住まいがなかなか見つからない。そんなとき、
「責任を取らせてください! 私と一緒に暮らしましょう」
高校2年生の管理人・白鳥美優からのそんな提案を受け、由弦と彼女と一緒に同居すると決める。こうして由弦は1学年上の女子高生との共同生活が始まった。
ご飯を食べるときも、寝るときも、家では美少女な管理人さんといつもいっしょ。優しくて温かい同居&学園ラブコメディ!
※特別編11が完結しました!(2025.6.20)
※お気に入り登録や感想をお待ちしております。
【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい
羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。
泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。
でも今、確かに思ってる。
―――この愛は、重い。
------------------------------------------
羽柴健人(30)
羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問
座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』
好き:柊みゆ
嫌い:褒められること
×
柊 みゆ(28)
弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部
座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』
好き:走ること
苦手:羽柴健人
------------------------------------------
こじらせ女子の恋愛事情
あさの紅茶
恋愛
過去の恋愛の失敗を未だに引きずるこじらせアラサー女子の私、仁科真知(26)
そんな私のことをずっと好きだったと言う同期の宗田優くん(26)
いやいや、宗田くんには私なんかより、若くて可愛い可憐ちゃん(女子力高め)の方がお似合いだよ。
なんて自らまたこじらせる残念な私。
「俺はずっと好きだけど?」
「仁科の返事を待ってるんだよね」
宗田くんのまっすぐな瞳に耐えきれなくて逃げ出してしまった。
これ以上こじらせたくないから、神様どうか私に勇気をください。
*******************
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる