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「奈々子に会いたい」
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「奈々子、お待たせ!」
中庭のベンチで本を読む私に、莉央が話しかけた。彼女の委員会が終わるのを待っていたのだ。
「何読んでるの? あっ、いつもの恋愛小説だね」
表紙を覗き込みながら、隣に座る。ふわりと、キャンディみたいな甘い香りがした。
「うん。昨日、新刊が出たから」
「奈々子は読書家だなあ。私なんて最近は漫画ばかりだよ」
「私も漫画、好きだよ。主にロマンス小説のコミカライズだけど」
「あはは、徹底してる」
楽しそうにコロコロと笑った。
「ホントに恋愛ものが好きだよね。ていうかさ」
なぜかモジモジしながら、莉央が訊ねた。
「奈々子のタイプって、やっぱり王子様なの? ロマンス小説のヒーローみたいな」
「えっ? な、何、いきなり」
「いいじゃん、教えてよー」
瞳をキラキラさせて迫ってくる。勢いに押されて、つい答えてしまった。
「う、うん。小説のヒーローには憧れてる」
「きゃー、そうなんだ! じゃあさ、王子様が実際に現れたら結婚する?」
「ええっ?」
ファンタジーな質問に、思わず噴き出す。しかし莉央は大真面目だ。
「可笑しくなんかないよ! 世界一のイケメンだろうが、大富豪だろうが、出会う可能性はゼロじゃないって。それに、奈々子は可愛いし、頭がいいし、優しいし、見初められると思う」
「はあ? な、何を言って」
「いやマジでマジで!」
鼻息も荒く熱弁する彼女に呆れつつ、なんだか嬉しくもあった。
莉央のこんなところが好きだと思う。
「ふふっ、ありがとう」
「本気だかんね?」
「はいはい。ところで莉央は? どんな人がタイプなの?」
「私? そりゃあもちろん、カッコいい人だよお。例えば……」
お喋りしながら下校した。
夕暮れの帰り道。
かけがえのない時間。
気の合う友達との、何気ないひとときが宝物だった。あの頃の私たちは、未来永劫、幸せな関係が続くと信じていた。
そうだよね、莉央。
莉央……
……
……
「莉央……?」
電話の音で目が覚めた。のそりと起き上がり、周りを見回す。
ここは自宅のリビング。
放課後の中庭でも、帰り道でもなく……莉央もいない。
「夢か……」
ソファの下に落ちているスマートフォンを拾う。時刻は夕方の4時。
莉央に電話をかけようとして、でもかけられず、あれこれ考えるうちに眠ってしまったのだ。
発信者は実家の母。
瞼を拭い、応答した。
「はい、奈々子です」
「ああ、やっと出た。あなた、今どこにいるの?」
焦った感じで訊いてきた。何かあったのだろうか。
「私はマンションにいるけど。どうしたの?」
「また電話があったのよ、楠木莉央さんから」
「!?」
寝ぼけた頭が、一気にクリアになった。
「莉央から? 今度は何て? お母さん、どんな対応をしたの?」
『落ち着きなさい』
続けざまに質問する私を、母が毅然として止めた。
『あのね、私は直接話してないのよ』
「えっ?」
どういうことだろう。
私は黙って、母の言葉を待つ。
『たった今、買い物から帰ってきたところで、留守番電話のボタンがチカチカしていたから聞いてみたら、莉央さんだったの』
「留守電……」
やや拍子抜けするが、莉央が再び電話してきたのは確かだ。
「それで、莉央はなんて言ってた?」
『よく分からないけど、東京に来ているとかなんとか』
「東京に?」
びっくりして飛び上がりそうになる。
「莉央が東京に来てるって、どうして?」
まさか、私に会うため?
夢はその予告だったのかしら。
不思議な感覚にとらわれながら、母にもっと詳しく教えてとせがんだ。
『無理よ、長くて覚えられなかったもの。あ、じゃあそうね、留守録を再生するから、自分で聞いてみなさい。そのほうが早いし正確でしょ』
スマホを通して、メッセージを聞かせると言った。
「分かった。お願いします」
『ちょっと待ってて。ええと、再生ボタンはこれね……いい?』
「うん」
莉央の声を聞くのはいつ以来だろう。
目を閉じて顔を思い浮かべ、耳を澄ました。
『録音ヲ一件、再生シマス。ピー……
【こんにちは。私、加納……今は楠木莉央という者です!】
「……!」
弾けるような明るい声。
莉央だ。莉央の声だ。
【突然、ごめんなさい。私は今、東京に来てます。奈々子に会いたい。そう思って、来てしまいました。今日の午後6時に、銀の鈴で待っています。あっ、久しぶりなので、もし分かんないといけないから、ロマンス小説を手に持っててください。来てくれると嬉しいです。よろしくお願いします!】
……再生ガ終ワリマシタ 12月20日 水曜日 午後3時28分 メッセージヲ消去スル時ハ……
再生が終わった。
中庭のベンチで本を読む私に、莉央が話しかけた。彼女の委員会が終わるのを待っていたのだ。
「何読んでるの? あっ、いつもの恋愛小説だね」
表紙を覗き込みながら、隣に座る。ふわりと、キャンディみたいな甘い香りがした。
「うん。昨日、新刊が出たから」
「奈々子は読書家だなあ。私なんて最近は漫画ばかりだよ」
「私も漫画、好きだよ。主にロマンス小説のコミカライズだけど」
「あはは、徹底してる」
楽しそうにコロコロと笑った。
「ホントに恋愛ものが好きだよね。ていうかさ」
なぜかモジモジしながら、莉央が訊ねた。
「奈々子のタイプって、やっぱり王子様なの? ロマンス小説のヒーローみたいな」
「えっ? な、何、いきなり」
「いいじゃん、教えてよー」
瞳をキラキラさせて迫ってくる。勢いに押されて、つい答えてしまった。
「う、うん。小説のヒーローには憧れてる」
「きゃー、そうなんだ! じゃあさ、王子様が実際に現れたら結婚する?」
「ええっ?」
ファンタジーな質問に、思わず噴き出す。しかし莉央は大真面目だ。
「可笑しくなんかないよ! 世界一のイケメンだろうが、大富豪だろうが、出会う可能性はゼロじゃないって。それに、奈々子は可愛いし、頭がいいし、優しいし、見初められると思う」
「はあ? な、何を言って」
「いやマジでマジで!」
鼻息も荒く熱弁する彼女に呆れつつ、なんだか嬉しくもあった。
莉央のこんなところが好きだと思う。
「ふふっ、ありがとう」
「本気だかんね?」
「はいはい。ところで莉央は? どんな人がタイプなの?」
「私? そりゃあもちろん、カッコいい人だよお。例えば……」
お喋りしながら下校した。
夕暮れの帰り道。
かけがえのない時間。
気の合う友達との、何気ないひとときが宝物だった。あの頃の私たちは、未来永劫、幸せな関係が続くと信じていた。
そうだよね、莉央。
莉央……
……
……
「莉央……?」
電話の音で目が覚めた。のそりと起き上がり、周りを見回す。
ここは自宅のリビング。
放課後の中庭でも、帰り道でもなく……莉央もいない。
「夢か……」
ソファの下に落ちているスマートフォンを拾う。時刻は夕方の4時。
莉央に電話をかけようとして、でもかけられず、あれこれ考えるうちに眠ってしまったのだ。
発信者は実家の母。
瞼を拭い、応答した。
「はい、奈々子です」
「ああ、やっと出た。あなた、今どこにいるの?」
焦った感じで訊いてきた。何かあったのだろうか。
「私はマンションにいるけど。どうしたの?」
「また電話があったのよ、楠木莉央さんから」
「!?」
寝ぼけた頭が、一気にクリアになった。
「莉央から? 今度は何て? お母さん、どんな対応をしたの?」
『落ち着きなさい』
続けざまに質問する私を、母が毅然として止めた。
『あのね、私は直接話してないのよ』
「えっ?」
どういうことだろう。
私は黙って、母の言葉を待つ。
『たった今、買い物から帰ってきたところで、留守番電話のボタンがチカチカしていたから聞いてみたら、莉央さんだったの』
「留守電……」
やや拍子抜けするが、莉央が再び電話してきたのは確かだ。
「それで、莉央はなんて言ってた?」
『よく分からないけど、東京に来ているとかなんとか』
「東京に?」
びっくりして飛び上がりそうになる。
「莉央が東京に来てるって、どうして?」
まさか、私に会うため?
夢はその予告だったのかしら。
不思議な感覚にとらわれながら、母にもっと詳しく教えてとせがんだ。
『無理よ、長くて覚えられなかったもの。あ、じゃあそうね、留守録を再生するから、自分で聞いてみなさい。そのほうが早いし正確でしょ』
スマホを通して、メッセージを聞かせると言った。
「分かった。お願いします」
『ちょっと待ってて。ええと、再生ボタンはこれね……いい?』
「うん」
莉央の声を聞くのはいつ以来だろう。
目を閉じて顔を思い浮かべ、耳を澄ました。
『録音ヲ一件、再生シマス。ピー……
【こんにちは。私、加納……今は楠木莉央という者です!】
「……!」
弾けるような明るい声。
莉央だ。莉央の声だ。
【突然、ごめんなさい。私は今、東京に来てます。奈々子に会いたい。そう思って、来てしまいました。今日の午後6時に、銀の鈴で待っています。あっ、久しぶりなので、もし分かんないといけないから、ロマンス小説を手に持っててください。来てくれると嬉しいです。よろしくお願いします!】
……再生ガ終ワリマシタ 12月20日 水曜日 午後3時28分 メッセージヲ消去スル時ハ……
再生が終わった。
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