恋の記録

藤谷 郁

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カメラ

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翌日の午前中。

私はタクシーで緑署へ向かった。電車で行こうとしたが、智哉さんに止められたのだ。一人で出歩くのは危険だからと彼は言う。相変わらず過保護だなあと思うが、タクシーを使うことで彼が安心するなら良しとしよう。


緑署に着くと、東松さんが正面玄関で出迎えてくれた。陽射しがまぶしいのか、顔をしかめている。


「東松さん、おはようございます」

「おはようございます。何度もお呼び立てしてすみません」


東松さんの目の下が黒い。そういえば、事件が起きてから明日で一週間になる。朝から晩まで捜査に追われて寝る暇もないのだろう。


「……東松さん、かなりお疲れみたいですね」

「まあ、いつもこんなもんです。こちらへどうぞ」


ぶっきらぼうに言うと、聴取用の部屋まで案内してくれた。いつもと同じように、刑事課と同じフロアにある小会議室を利用するらしい。


「その後、変わったことはありませんか」


部屋のドアは開け放されている。デスクを挟んで座ると、世間話でもするように東松さんが訊ねた。手もとに書類を置き、ペンを構えている。


「そうですね……あ、捜査の参考にはならないと思いますが」

「いいですよ。どんなことでも言ってください」

「昨日の会社帰りに、週刊誌の記者にあとをつけられました」

「週刊誌の記者……取材を受けたんですか?」

「いいえ。とも……水樹さんが取材を断ってくれたので、私は接触していません」

「ほう、水樹さんが断った。どんな風に?」


質問を重ねる東松さんに、智哉さんから聞いたままを答えた。


「なるほど。水樹さんは週刊誌の記者に、一条さんは古池店長と土屋さんの不倫関係を知らなかった。意図せず事件に巻き込まれて迷惑している……と、伝えたんですね。そして、これ以上つきまとうなら考えがあると脅して追い払った。記者は引きましたか」

「一応、立ち去りましたが、水樹さんはまた現れるだろうと言っています」

「ふうん。しかし水樹さんは、あの記者の存在によく気が付きましたね。一条さんの身辺にかなり気を配ってるなあ」


東松さんの言い方に、私は違和感を覚えた。


「もしかして、ご存じだったんですか」


警察は本町駅に張り付いている。そして私は事件の関係者だ。


「捜査員は一条さんの顔を知っています。何か変わったことがあれば報告してきますので」

「やっぱり……」


昨夜のできごとも捜査員が把握し、ひと通り報告されているのだ。刑事というのはとぼけるのが上手い。真面目に話した自分がばかみたいに思えた。


「東松さんも案外、人が悪いですね」

「水樹さんが記者とどんなやり取りをしたのか興味があったんで。他に気づいたことなどあれば教えてください」


悪びれず職務を遂行する東松さんに、怒るより感心してしまう。きっと、こうでなければ刑事など務まらないのだ。


「他には、特に変わったことはないですけど」

「水樹さんはどうです。何かに気づいた様子とか、気になる発言はありませんか」

「はい?」


どうして智哉さんの発言までチェックするのだろう。疑問の目で見返す私に、東松さんがフッと息をつく。


「どうやら水樹さんは、自分だけであなたを守ろうとしている。警察に任せればいいものを、彼は警察を嫌って頼ろうとしない。我々をうっとうしいだけの、どうでもいい存在だと思ってる。もっと言えば、あてにならない連中って感じですかね」

「そ、そんなことは……」


確かに智哉さんは警察が嫌いだ。初動捜査のときも、東松さんに対して少しばかにした態度だった気がする。


「警察を嫌おうが好こうが個人の自由なんで、俺はどうこう言いません。とにかく水樹さんは、我々の力を借りず、自分一人で一条さんを守るつもりでいる。結構な心意気ですが、くれぐれも無茶をしないようにとお伝えください」

「……分かりました」


東松さんの言い方も、どこか嫌味っぽい。

警察官という身分を抜きにしても、東松さんと智哉さんは相性が悪いのだ――と、ひそかに確信した。


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