126 / 236
カメラ
3
しおりを挟む
「お待たせしました」
東松さんはじきに戻ってきた。気のせいか、少し興奮しているように見える。
「お役に立ちましたか」
「もちろん、かなり参考になります。数字がハッキリしているので助かりました」
データベースに照会したようだ。手応えがありそうな返事に、私はほっとする。
「車についての質問は以上です。では次に、古池店長と土屋さんの関係について確認させてください」
「あ、はい」
聴取の内容は一つではなかった。私は東松さんと再び向き合い、集中する。
「古池店長の殺害動機を明確にするためですが……」
東松さんはファイルから一枚の用紙を取り出し、それをしばらく眺めてから聴取を進めた。
「以前、職場のトイレで土屋さんが嘔吐したそうですね」
「え、ええ」
初動捜査で話したことだ。そういえば、吐いたのは妊娠とは別の理由だと東松さんは言った。何か分かったのだろうか。
「彼女はどんな様子でしたか」
「ええと……ごはんを食べすぎただけと言ってましたが、顔色が真っ青だし、かなり辛そうでした」
「状況から、妊娠したのではないかと疑った」
「はい。すぐにぴんとこなかったけど、そのことについて山賀さんと話すうちに、もしかしてと思ったんです」
「山賀さんというのは、浮気の証拠写真や、土屋さんと電話した録音データを提出された方ですね」
「そうです。その録音したときの電話で、土屋さん本人が妊娠したなんて言うから、山賀さんも私も信じてしまったわけです」
妊娠二カ月というのは嘘だった。遺体の検視検案で証明されている。
「土屋さんが嘔吐した日のことを、もう少し詳しく教えてください」
おそらく『嘘の妊娠』が、殺害動機と関係があるのだ。私は慎重に答える。
「あの日は確か……」
土屋さんが嘔吐したのは、私が古池店長と土屋さんを告発した日だ。いろいろあったので、細かく思い出すことができる。
午後イチで土屋さんがレジに入るはずが、彼女は倉庫作業のバイトさんに交代を頼んだ。土屋さんの顔色があまりにも悪いので、バイトさんが心配して私を呼びにきたのだ。
「そのとき店長はどこに?」
「えっ、店長……?」
額に手をやり、記憶をたぐる。
「昼休みだったと思います。私が休憩から戻ったとき事務所にいなかったから……そういえば、あの日店長は時間より早く休憩に出ていました」
店長に智哉さんのことを悪く言われて腹が立っていたので、顔を合わせずに済んでほっとしたのだ。
「ということは、店長が土屋さんと一緒にいた可能性がありますね」
「はあ……まあ、時間的に可能ではありますけど」
東松さんが何を言いたいのか、すぐに分からなかった。
(店長と土屋さんが休憩時間に、一緒にいた。その後、土屋さんの具合が悪く……)
まさかと思って東松さんを見る。彼は手もとの用紙をもう一度確認し、それを告げた。
「先日、遺体の詳しい解剖結果が出ました。前にお伝えしたとおり死因は脳挫傷ですが、注目すべきは腹部に発見された鈍的外傷の痕跡です。臓器損傷まで至らずとも、ある程度強い力で蹴り上げられたと推測されます」
「け、蹴り上げ……?」
突然発せられた暴力的な言葉に驚く私に、東松さんが注釈を入れる。
「犯行当時ではなく、もう少し前の傷痕です」
「えっ、つまりそれって……あの日の?」
「はい、おそらくですが。蹴られたことによる腹部打撲。彼女が吐いたのはそのためでしょう」
「店長が土屋さんに暴力を振るったんですか!?」
「そう考えられますね」
衝撃的な報告に私はうろたえた。
「信じられない。だって土屋さんはそんなこと一言も言わなかったし、素振りも見せなかったわ」
「たぶん彼女は、心身をコントロールされていた。そういった男女関係は間々ありますよ」
東松さんはなぜか私を睨むようにした。強い視線にびくっとするが、彼は構わず続ける。
東松さんはじきに戻ってきた。気のせいか、少し興奮しているように見える。
「お役に立ちましたか」
「もちろん、かなり参考になります。数字がハッキリしているので助かりました」
データベースに照会したようだ。手応えがありそうな返事に、私はほっとする。
「車についての質問は以上です。では次に、古池店長と土屋さんの関係について確認させてください」
「あ、はい」
聴取の内容は一つではなかった。私は東松さんと再び向き合い、集中する。
「古池店長の殺害動機を明確にするためですが……」
東松さんはファイルから一枚の用紙を取り出し、それをしばらく眺めてから聴取を進めた。
「以前、職場のトイレで土屋さんが嘔吐したそうですね」
「え、ええ」
初動捜査で話したことだ。そういえば、吐いたのは妊娠とは別の理由だと東松さんは言った。何か分かったのだろうか。
「彼女はどんな様子でしたか」
「ええと……ごはんを食べすぎただけと言ってましたが、顔色が真っ青だし、かなり辛そうでした」
「状況から、妊娠したのではないかと疑った」
「はい。すぐにぴんとこなかったけど、そのことについて山賀さんと話すうちに、もしかしてと思ったんです」
「山賀さんというのは、浮気の証拠写真や、土屋さんと電話した録音データを提出された方ですね」
「そうです。その録音したときの電話で、土屋さん本人が妊娠したなんて言うから、山賀さんも私も信じてしまったわけです」
妊娠二カ月というのは嘘だった。遺体の検視検案で証明されている。
「土屋さんが嘔吐した日のことを、もう少し詳しく教えてください」
おそらく『嘘の妊娠』が、殺害動機と関係があるのだ。私は慎重に答える。
「あの日は確か……」
土屋さんが嘔吐したのは、私が古池店長と土屋さんを告発した日だ。いろいろあったので、細かく思い出すことができる。
午後イチで土屋さんがレジに入るはずが、彼女は倉庫作業のバイトさんに交代を頼んだ。土屋さんの顔色があまりにも悪いので、バイトさんが心配して私を呼びにきたのだ。
「そのとき店長はどこに?」
「えっ、店長……?」
額に手をやり、記憶をたぐる。
「昼休みだったと思います。私が休憩から戻ったとき事務所にいなかったから……そういえば、あの日店長は時間より早く休憩に出ていました」
店長に智哉さんのことを悪く言われて腹が立っていたので、顔を合わせずに済んでほっとしたのだ。
「ということは、店長が土屋さんと一緒にいた可能性がありますね」
「はあ……まあ、時間的に可能ではありますけど」
東松さんが何を言いたいのか、すぐに分からなかった。
(店長と土屋さんが休憩時間に、一緒にいた。その後、土屋さんの具合が悪く……)
まさかと思って東松さんを見る。彼は手もとの用紙をもう一度確認し、それを告げた。
「先日、遺体の詳しい解剖結果が出ました。前にお伝えしたとおり死因は脳挫傷ですが、注目すべきは腹部に発見された鈍的外傷の痕跡です。臓器損傷まで至らずとも、ある程度強い力で蹴り上げられたと推測されます」
「け、蹴り上げ……?」
突然発せられた暴力的な言葉に驚く私に、東松さんが注釈を入れる。
「犯行当時ではなく、もう少し前の傷痕です」
「えっ、つまりそれって……あの日の?」
「はい、おそらくですが。蹴られたことによる腹部打撲。彼女が吐いたのはそのためでしょう」
「店長が土屋さんに暴力を振るったんですか!?」
「そう考えられますね」
衝撃的な報告に私はうろたえた。
「信じられない。だって土屋さんはそんなこと一言も言わなかったし、素振りも見せなかったわ」
「たぶん彼女は、心身をコントロールされていた。そういった男女関係は間々ありますよ」
東松さんはなぜか私を睨むようにした。強い視線にびくっとするが、彼は構わず続ける。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
私の優しいお父さん
有箱
ミステリー
昔、何かがあって、目の見えなくなった私。そんな私を、お父さんは守ってくれる。
少し過保護だと思うこともあるけれど、全部、私の為なんだって。
昔、私に何があったんだろう。
お母さんは、どうしちゃったんだろう。
お父さんは教えてくれない。でも、それも私の為だって言う。
いつか、思い出す日が来るのかな。
思い出したら、私はどうなっちゃうのかな。
椿の国の後宮のはなし
犬噛 クロ
キャラ文芸
架空の国の後宮物語。
若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。
有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。
しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。
幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……?
あまり暗くなり過ぎない後宮物語。
雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。
※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
フローライト
藤谷 郁
恋愛
彩子(さいこ)は恋愛経験のない24歳。
ある日、友人の婚約話をきっかけに自分の未来を考えるようになる。
結婚するのか、それとも独身で過ごすのか?
「……そもそも私に、恋愛なんてできるのかな」
そんな時、伯母が見合い話を持ってきた。
写真を見れば、スーツを着た青年が、穏やかに微笑んでいる。
「趣味はこうぶつ?」
釣書を見ながら迷う彩子だが、不思議と、その青年には会いたいと思うのだった…
※他サイトにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる