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身代わり
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「そう……ですか」
よほど強く頭を打ったのだ。今後もし意識が戻らなかったら――最悪のことを考えてしまい、恐ろしくて身体が震えた。
「山賀さんのご両親がおみえなんですね」
「ええ」
「会わせていただけますか」
現在山賀さんはアルバイトを優先し、就職活動を後回しにしている。その上いつも帰りが遅いので、母親が心配して駅まで車で迎えに来ると聞いた。それらすべて私のせいであり、一言お詫びしなければと思っていたのだ。
今回の事件も、店長や土屋さんの件と関係があるのかもしれない。もしそうなら、彼女を巻き込んだ私に責任がある。
「我々も会ってもらいたかったが、今はやめたほうがいい。特に母親は、ショックが大きすぎて不安定になってる。体調も悪く、挨拶を受け入れられる状態ではありません」
「あ……」
「どうしてもと言われるなら、お伝えしますが」
私はかぶりを振った。
大事な娘が何者かに怪我をさせられて、生死の境をさまよっている。そんなときに会わせてほしいなど、無神経な申し出だった。
「一条さんはここでお待ちください。私はちょっとだけ話してきます。確認したいことがあるので」
瀬戸さんは手帳を取り出し、控え室へと向かった。呆然と見送る私の肩を、東松さんがぱしっと叩いた。
「なっ、なんですか?」
「こうなったらじたばたしてもしょうがない。とりあえず座ってください」
東松さんは軽く叩いたつもりだろうが、力が強く、しかもいきなりなのでびっくりした。
「別に、じたばたなんて……」
「まあまあ一条さん。まずは落ち着いて」
言い返そうとする私を水野さんがなだめ、椅子をすすめる。
仕方なく腰かけ、ふっと息をついた。じたばたしたつもりはないが、冷静さを失っているのは確かだ。
「どっしりと構えましょう。本題はこれからですよ」
「本題……?」
東松さんの意味ありげな言葉に、顔を上げる。私を見下ろす彼の目は真剣だった。
「どういう意味ですか」
「いつものように図太い一条さんでいてくださいってことです」
「はい!?」
図太いとは言い草だ。
椅子を立ちかける私を見て、水野さんが慌てて取りなした。
「一条さん、すみません。東松くん、冗談が過ぎるぞ」
「俺は大真面目ですよ。大丈夫、一条さんは強い女性です」
図太いとか強いとか、何が大丈夫なのかもさっぱりだ。
首を傾げていると、瀬戸さんが戻って来た。私の隣に座り、ゆっくりと顔を近付けてくる。緊張の面持ちだ。
「一条さん」
「は、はい」
「山賀さんは今日、早めに帰宅したんですよね。母親からメールがきたと言って」
「ええ、そうです。お母さんから、用事があるからすぐに帰るようにと」
そのはずだった。でも、実際は帰っておらず、なぜか私と智哉さんの住むマンション近くで事件に遭遇している。
「母親に確認したところ、そのようなメールは送っていないそうです」
「えっ?」
すると、彼女は嘘をついて先に帰った、ということになる。
「ど、どうして。何のためにそんな嘘を」
「さあ……どうしてでしょう。ただ、その前に彼女はある人と連絡を取っていますね。一条さんが先ほど車の中で話してくれました」
しばし考えて、はっとする。山賀さんが連絡を取っていたのは……
「智哉さん、ですか?」
ガッツノベルと打ち合わせをする私の代わりに、山賀さんが智哉さんに電話をかけて、不審人物について報告している。あの電話のことだ。
「山賀さんの嘘に、彼が関わっていると……?」
「今はまだ推測の域ですが、有り得ないことではないと考えます。彼が山賀さんに嘘をつかせたのではないか」
「なっ……」
まさか、どうして。それこそ何のために?
意味が分からず混乱する私を、三人の刑事が鋭く見つめている。
「一条さんに見てもらいたいものがあります。移動しましょう」
瀬戸さんは口も利けないでいる私を立たせて、外に連れ出した。
R病院を出てものの5分もしないうちに緑署に着いた。深夜だというのに署内は人が多く、慌ただしい雰囲気である。
「もしかして山賀さんの事件でこんなに人が?」
「それもあります」
私の問いに瀬戸さんが歩きながら答える。かなりの急ぎ足だ。
水野さんと東松さんは途中で別れ、捜査本部のある上階へと上がっていった。
何だか緊張してきた。
取調室に通された私の前に瀬戸さんが用意したのはノートパソコン。彼女は電源を入れると忙しげに操作してファイルを開く。映像データのようだ。
「今からお見せするのは、山賀さんが襲われた歩道橋に設置された防犯カメラの映像です」
「え……」
つまり、事件現場の映像ということ。
「山賀さんが襲われた場面が写ってるんですか?」
「そうです。一条さん、よくご覧になってください。そして、気づいたことがあれば、すべて話してください」
「は、はい」
山賀さんが襲われる瞬間――怖いけど、目を逸らしてはいけない。しっかり確認しなければ。
どうして彼女があんなことになったのか。
私は瞬きもせず映像に集中した。
よほど強く頭を打ったのだ。今後もし意識が戻らなかったら――最悪のことを考えてしまい、恐ろしくて身体が震えた。
「山賀さんのご両親がおみえなんですね」
「ええ」
「会わせていただけますか」
現在山賀さんはアルバイトを優先し、就職活動を後回しにしている。その上いつも帰りが遅いので、母親が心配して駅まで車で迎えに来ると聞いた。それらすべて私のせいであり、一言お詫びしなければと思っていたのだ。
今回の事件も、店長や土屋さんの件と関係があるのかもしれない。もしそうなら、彼女を巻き込んだ私に責任がある。
「我々も会ってもらいたかったが、今はやめたほうがいい。特に母親は、ショックが大きすぎて不安定になってる。体調も悪く、挨拶を受け入れられる状態ではありません」
「あ……」
「どうしてもと言われるなら、お伝えしますが」
私はかぶりを振った。
大事な娘が何者かに怪我をさせられて、生死の境をさまよっている。そんなときに会わせてほしいなど、無神経な申し出だった。
「一条さんはここでお待ちください。私はちょっとだけ話してきます。確認したいことがあるので」
瀬戸さんは手帳を取り出し、控え室へと向かった。呆然と見送る私の肩を、東松さんがぱしっと叩いた。
「なっ、なんですか?」
「こうなったらじたばたしてもしょうがない。とりあえず座ってください」
東松さんは軽く叩いたつもりだろうが、力が強く、しかもいきなりなのでびっくりした。
「別に、じたばたなんて……」
「まあまあ一条さん。まずは落ち着いて」
言い返そうとする私を水野さんがなだめ、椅子をすすめる。
仕方なく腰かけ、ふっと息をついた。じたばたしたつもりはないが、冷静さを失っているのは確かだ。
「どっしりと構えましょう。本題はこれからですよ」
「本題……?」
東松さんの意味ありげな言葉に、顔を上げる。私を見下ろす彼の目は真剣だった。
「どういう意味ですか」
「いつものように図太い一条さんでいてくださいってことです」
「はい!?」
図太いとは言い草だ。
椅子を立ちかける私を見て、水野さんが慌てて取りなした。
「一条さん、すみません。東松くん、冗談が過ぎるぞ」
「俺は大真面目ですよ。大丈夫、一条さんは強い女性です」
図太いとか強いとか、何が大丈夫なのかもさっぱりだ。
首を傾げていると、瀬戸さんが戻って来た。私の隣に座り、ゆっくりと顔を近付けてくる。緊張の面持ちだ。
「一条さん」
「は、はい」
「山賀さんは今日、早めに帰宅したんですよね。母親からメールがきたと言って」
「ええ、そうです。お母さんから、用事があるからすぐに帰るようにと」
そのはずだった。でも、実際は帰っておらず、なぜか私と智哉さんの住むマンション近くで事件に遭遇している。
「母親に確認したところ、そのようなメールは送っていないそうです」
「えっ?」
すると、彼女は嘘をついて先に帰った、ということになる。
「ど、どうして。何のためにそんな嘘を」
「さあ……どうしてでしょう。ただ、その前に彼女はある人と連絡を取っていますね。一条さんが先ほど車の中で話してくれました」
しばし考えて、はっとする。山賀さんが連絡を取っていたのは……
「智哉さん、ですか?」
ガッツノベルと打ち合わせをする私の代わりに、山賀さんが智哉さんに電話をかけて、不審人物について報告している。あの電話のことだ。
「山賀さんの嘘に、彼が関わっていると……?」
「今はまだ推測の域ですが、有り得ないことではないと考えます。彼が山賀さんに嘘をつかせたのではないか」
「なっ……」
まさか、どうして。それこそ何のために?
意味が分からず混乱する私を、三人の刑事が鋭く見つめている。
「一条さんに見てもらいたいものがあります。移動しましょう」
瀬戸さんは口も利けないでいる私を立たせて、外に連れ出した。
R病院を出てものの5分もしないうちに緑署に着いた。深夜だというのに署内は人が多く、慌ただしい雰囲気である。
「もしかして山賀さんの事件でこんなに人が?」
「それもあります」
私の問いに瀬戸さんが歩きながら答える。かなりの急ぎ足だ。
水野さんと東松さんは途中で別れ、捜査本部のある上階へと上がっていった。
何だか緊張してきた。
取調室に通された私の前に瀬戸さんが用意したのはノートパソコン。彼女は電源を入れると忙しげに操作してファイルを開く。映像データのようだ。
「今からお見せするのは、山賀さんが襲われた歩道橋に設置された防犯カメラの映像です」
「え……」
つまり、事件現場の映像ということ。
「山賀さんが襲われた場面が写ってるんですか?」
「そうです。一条さん、よくご覧になってください。そして、気づいたことがあれば、すべて話してください」
「は、はい」
山賀さんが襲われる瞬間――怖いけど、目を逸らしてはいけない。しっかり確認しなければ。
どうして彼女があんなことになったのか。
私は瞬きもせず映像に集中した。
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