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Crime Story
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4月17日の夜。
仕事を終えた僕はスーツからカジュアルなデート服に着替えて、春菜との待ち合わせ場所へ向かった。
スマートフォンで天気予報を最終チェックして、舞台が整ったのを確認。ついに、あの日を再現する時がきたのだ。
(できるだけスケジュールをずらしたくないからな。今夜デートできるのはラッキーだ)
食事の約束について春菜がメールしてきたのは五日前。火曜日か水曜日の夜なら都合がいいと言うので、ホッとしながら17日の水曜日を指定した。
なにもかもスムーズに進んでいる。
だが、一つだけ気になることがあった。
昨日の昼休みのこと。休憩室に行くと、春菜が中年男と話し込んでいるのを見かけた。確かあの男は、冬月書店の店長である。
僕は春菜と同じビル内で働いているが、予定外のエピソードを避けるため、できるだけ会わないようにしている。『フローライト』にでも行こうと戻りかけた時、店長が春菜の手を握るのを目撃した。
彼女は困惑した様子になり、店長もすぐに手を離したが、どこから見てもあれはセクハラである。もう少し観察するつもりだったが、二人が席を立ったのを見て、急いでその場を離れた。
春菜に気づかれたかもしれない。廊下の角を曲がり、急いでエレベーターに乗り込んだ。扉が閉まる直前、走ってくる足音が聞こえたが、あれはきっと春菜だ。カムフラージュのために3階で降りて、階段で6階に上がった。
ニアミスに冷汗をかいたが、それ以上に僕を驚かせたのは、セクハラ上司の存在である。駅ビルの店長会議で顔を合わせた時は、そんな男に見えなかったのに、意外だった。それこそ、予定外の登場人物といえる。
僕はその時点で、古池をマークすることになった。
約束の午後7時ちょうどに、駅前広場に着いた。気になることはさておき、僕はデートに集中する。
春菜はお洒落して、レザーソールのパンプスを履いていた。センスの良さに僕は満足して頷く。
気分は上々。
陽向と初めてデートしたのと同じ、ファミリー向けのパスタ屋へと春菜を連れていった。
春菜との初デートも、2年前の再現だった。
陽向が好きと言ったピザを注文し、会話も似たような話題を選ぶ。
隣人トラブルについても相談に乗った。なぜか春菜は、鳥宮のことを【コワモテ男】と誤認していたが、話を合わせた。鳥宮だろうとコワモテ男だろうと、必要なのは【恐怖を与える隣人】の存在なのだから、どちらでも構わない。
帰りはアパートまでタクシーで送り届けた。春菜はウトウトして、今にも眠ってしまいそうな状態だった。
なぜなら、僕がそうなるように薬を飲ませたから。炭酸水に溶かして。
アパートに着いたのは、予定どおり夜の9時半頃。おぼつかない足取りの春菜を支え、僕はエレベーターで5階に上がった。
507号室は廊下の一番奥の部屋。隣は鳥宮の部屋。ドアの向こうで、奴が聞き耳を立てているだろう。
手もとがおろそかな彼女の代わりに、僕が鍵を開けた。
そういえば、陽向はこの時、合鍵を僕に預けたのだ。隣人に何かされると予感していたのかもしれない。もし、あの時ずっと部屋にいてあげたら……
考えても仕方ない。だからこそ、今、やり直すのだ。
春菜をベッドに横たわらせ、脱がせた上着を畳んで、枕元に置く。
『また、デートしてくれますか?』
『もちろんだよ。僕は君の、恋人なんだから』
甘いやり取りと抱擁のあと、彼女は眠った。
僕は部屋を出て、廊下に誰もいないのを確かめてから、隣のドアを小さくノックした。鳥宮がすぐに顔を出した。
仕事を終えた僕はスーツからカジュアルなデート服に着替えて、春菜との待ち合わせ場所へ向かった。
スマートフォンで天気予報を最終チェックして、舞台が整ったのを確認。ついに、あの日を再現する時がきたのだ。
(できるだけスケジュールをずらしたくないからな。今夜デートできるのはラッキーだ)
食事の約束について春菜がメールしてきたのは五日前。火曜日か水曜日の夜なら都合がいいと言うので、ホッとしながら17日の水曜日を指定した。
なにもかもスムーズに進んでいる。
だが、一つだけ気になることがあった。
昨日の昼休みのこと。休憩室に行くと、春菜が中年男と話し込んでいるのを見かけた。確かあの男は、冬月書店の店長である。
僕は春菜と同じビル内で働いているが、予定外のエピソードを避けるため、できるだけ会わないようにしている。『フローライト』にでも行こうと戻りかけた時、店長が春菜の手を握るのを目撃した。
彼女は困惑した様子になり、店長もすぐに手を離したが、どこから見てもあれはセクハラである。もう少し観察するつもりだったが、二人が席を立ったのを見て、急いでその場を離れた。
春菜に気づかれたかもしれない。廊下の角を曲がり、急いでエレベーターに乗り込んだ。扉が閉まる直前、走ってくる足音が聞こえたが、あれはきっと春菜だ。カムフラージュのために3階で降りて、階段で6階に上がった。
ニアミスに冷汗をかいたが、それ以上に僕を驚かせたのは、セクハラ上司の存在である。駅ビルの店長会議で顔を合わせた時は、そんな男に見えなかったのに、意外だった。それこそ、予定外の登場人物といえる。
僕はその時点で、古池をマークすることになった。
約束の午後7時ちょうどに、駅前広場に着いた。気になることはさておき、僕はデートに集中する。
春菜はお洒落して、レザーソールのパンプスを履いていた。センスの良さに僕は満足して頷く。
気分は上々。
陽向と初めてデートしたのと同じ、ファミリー向けのパスタ屋へと春菜を連れていった。
春菜との初デートも、2年前の再現だった。
陽向が好きと言ったピザを注文し、会話も似たような話題を選ぶ。
隣人トラブルについても相談に乗った。なぜか春菜は、鳥宮のことを【コワモテ男】と誤認していたが、話を合わせた。鳥宮だろうとコワモテ男だろうと、必要なのは【恐怖を与える隣人】の存在なのだから、どちらでも構わない。
帰りはアパートまでタクシーで送り届けた。春菜はウトウトして、今にも眠ってしまいそうな状態だった。
なぜなら、僕がそうなるように薬を飲ませたから。炭酸水に溶かして。
アパートに着いたのは、予定どおり夜の9時半頃。おぼつかない足取りの春菜を支え、僕はエレベーターで5階に上がった。
507号室は廊下の一番奥の部屋。隣は鳥宮の部屋。ドアの向こうで、奴が聞き耳を立てているだろう。
手もとがおろそかな彼女の代わりに、僕が鍵を開けた。
そういえば、陽向はこの時、合鍵を僕に預けたのだ。隣人に何かされると予感していたのかもしれない。もし、あの時ずっと部屋にいてあげたら……
考えても仕方ない。だからこそ、今、やり直すのだ。
春菜をベッドに横たわらせ、脱がせた上着を畳んで、枕元に置く。
『また、デートしてくれますか?』
『もちろんだよ。僕は君の、恋人なんだから』
甘いやり取りと抱擁のあと、彼女は眠った。
僕は部屋を出て、廊下に誰もいないのを確かめてから、隣のドアを小さくノックした。鳥宮がすぐに顔を出した。
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