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18 瀕死
しおりを挟む体が凍えて目を覚ますと、視界の端に白いものが見えてそれは私の手に落ちてきて解けることなくそっと積もった。
すでに私の手や体には真っ白な雪が降り積もっていて、かじかんだ手は感覚がなくなっていた。
……雪が降るだなんて通りで……寒いわけです。
喉がつっかえて吐き出すように咳をすると肩に積もっていた雪がパサリと落ちて、このまま死ぬのではないかと思った。
暗い夜闇にしんしんと雪が降り積もっていく、私のなけなしの体温を奪って雪がジワリと解けだした気がした。
このまま誰も助けに来ずに、私はカミラの嫉妬によって殺された。そういう結末になったのかと私は降りしきる雪を見ながらすでに死んだようなつもりでいた。
しかし窓を伝って部屋の内側の喧騒が聞こえてくる。
聞こえてくるというより振動によって伝わってくる。あわただしい人の足音、誰かの声、甲高いカミラのヒステリックな声はほかの誰よりよく聞こえた。
……ローナが戻ってきたんでしょうか。
ふとそう思ってバルコニーの窓に預けていた上半身にぐっと力を入れて起き上がる。
体がきしむようで、ぎこちない動きをしていて、ぼんやりしたまま窓が開け放たれるのを見つめた。
部屋の中の明かりが目に染みるようで、そこにいるのはヴィンセントだった。
彼はひどく焦っている様子で、体を支えきれずに部屋の中に倒れこむ私を反射的に抱き留めた。
「ウィンディ!」
きつく抱かれて、何かとりあえず言おうと思ったけれど言葉が出てこなくて、浅く呼吸をして瞬きをする。
「なによ! こんな死にかけの女に何の価値があるっていうんですか! 他人に迷惑をかけるだけの生きてる価値のない女なのに!」
「カミラさん、いい加減にしてくださいっ、ウィンディ様が人の手を借りなければ不自由するからと言って何をしてもいいというわけではないんです」
「なんですか偉そうにっ! まるで私が悪人みたいに! 面倒を見てやっているじゃないですか! そうしないとキチンと生活もできないような小娘に手を貸してやっているじゃないの!」
「それは仕事ですっ、それで貰ったお金で私たちは生活してるじゃないですかっ」
「だからこの女が偉いっていうの? どうせ若くて使い勝手がいい女だから生かされてるにすぎないのに、こんないい生活なんか手に入れて、分不相応ですよね?! 私がこうして頭を冷やしてあげてるんですっから!!」
侍女たちの声がして、揉み合っているようなドタバタという音が響く、ぼんやりとした頭では、彼女たちの乱れた口論について深く考えることができない。
そんな彼女たちに目もくれずに、ヴィンセントは私に積もった雪を払ってフェイビアンが持ってきたタオルでそっと髪をぬぐう。
「とにかく体を温めないと、フェイビアン、彼女の着替えと……それから……」
戸惑ったような不安そうな声が頭の上から響いて、少し考えた後に、彼は振り返って、とても低い声で言った。
「あの人、捕まえて牢屋にでも入れといて。もう一人の子には、すぐやってもやってもらう事があるから。ああでも、あまり手荒にしないようにして、契約があるから」
「わかりました、ハンフリー様、リーヴァイ様」
「本当は、身ぐるみはがして外に放りたいぐらいだけど……」
つぶやくようにヴィンセントはそう言って、私を抱き上げて歩き出す。
彼の背後では、ローナに対してはあんなに饒舌に持論をまくしたてていたカミラが態度を一転させて怯えたような声を出した。
ヴィンセントに抱かれながら私はそれを視界に収めた。
先日、何らかの刺客に対して向けられていた魔法使い二人のロットは、カミラに向けられていて、彼女は半身を引いてどこか逃げられる場所がないかと目をぎょろぎょろとさせている。
「い、いいのですか、私はこれでもウィンディ様に重用されている侍女で……」
「おーおー! 白々しいな! さすがに今の話聞いてたぞ?」
「っ、やめなさいよ! 放しなさい!」
魔法使い二人のうちの快活そうな方が笑顔でカミラにつかみかかって、腕をひねりあげて、何か魔法を打ち付けるとカミラは途端に意識を失ってガクリと崩れ落ちる。
もう一人の方は、カミラに対して興奮した様子で睨みつけていたローナに話しかけた。
「あなたは、自分の主の事を優先してください。この方の処理はこちらでしますから」
「っ…………はい……よ、よろしくお願いします」
カミラが崩れ落ちた様子を見て、ローナはゆっくりと深呼吸をして、それから彼女が来るのを待っていたヴィンセントの後ろについてくる。
「申し訳ありません。あまりにも、頭に血が上ってしまい、優先順位を間違えてしまいました」
「うん。まぁ、気持ちはわかるから。それより、ウィンディの看病を、着替えを任せられる?」
「はい、すぐにでも」
そう短く言葉を交わしながら私はヴィンセントに抱かれて、部屋を出る。
ローナとヴィンセントとフェイビアンの三人がこの冷え切ったウィンディをどうするべきかを必死に話し合っている声が聞こえてくる。
それから焦ったように歩くたびに小さく揺られて、また何か、大丈夫だとか、気にせず布団に入れてくれればと言おうとする。
けれど唇が震えていて、声を出したらとてもそんなふうに聞こえないだろうと思ってやめた。
本当は、すぐにこんなことになってしまってまた体調が悪くなったことをヴィンセントに謝りたかったけれど、こんなに必死になって考えてくれる彼が果たして本当に私を解剖するために助けているのかと疑問に思ったのだった。
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