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腹黒男め……。3
しおりを挟む「お坊ちゃん、お嬢ちゃん」
しゃがれた声がして、私はハッと目を覚ます。どうやら馬車の中で眠ってしまったらしい。御者が小窓からこちらを覗いている。
「着きましたぜ、駄賃は貰っとりますから」
「あ……はい、ヴィンス、起きて」
私が肩を掴んで揺らすとヴィンスもしばらくして目を覚ます。余程ぐっすりと眠っていたのだろう。
二人で荷物のトランクを持って降り、御者に礼をいい街中に降り立つ。地理はまったく頭に入っていないが、辺りを見渡してすぐにここが学園都市内部だと気がつく。
ユグドラシルとつくだけあってこの学園、そしてそれに付随する学園街は巨大な世界樹によって支えられ、謎の発行する結界のようなもので守られている。それが内側からだと太陽の光を僅かに反射してキラキラと輝いてみえるのだ。
「おお~!きれーい」
思わず声をあげ、お上りさんのようになっている事も気にせずに惚けて見上げる。
前世でのユグドラシルと言えば世界樹とその名のお通り世界自体を木が支えているのだが『ララの魔法書!』では、こういう解釈らしい。
それだけでなく、周りも見渡すと、溢れんばかりのファンタジーを感じてローレンスに詰め寄られた時以来のドキドキを感じる。
ヨーロッパのマルシェのような新鮮な野菜の並ぶ露店、観光地のような怪しげな骨董店。広場に広がる屋台の通り沿いには、賑やかな商店が立ち並ぶ。
行き交う人々は、平日だと言うのにスーツの人間など居ない、当たり前のことだがそれが割と新鮮であった。
「クレア様、あまり立ち止まっていると危険ですよ」
「うん!」
ヴィンスに言われて、キョロキョロと辺りを眺めるのをやめ、彼に向き直る。
馬車が私たちを下ろした場所は、学園の門のすぐそばだったようで、仰々しい大きな門が広場とは反対側に鎮座している。
「ねえねえヴィンス、入寮式って何時からなんだろう?ローレンスが馬車を手配してくれたから、間に合うと思うんだけど……」
「そうですね、今日としか伝えられていませんので、私にはなんとも」
「そうだよねぇ……とりあえず突っ立ててもなんだし行こうか」
「はい」
明日はすぐに入学式がありクラス分けチーム分けとイベント盛りだくさんだったはずだ。
私物を詰め込んだトランクを持ち直して門へと向かう。
ヴィンスは少し不安そうに私の後ろをついてきた。
学園の門をくぐるとそのすぐそばに、一本だけ、良く見知った木が生えていた。その木は、入学シーズンにピッタリの陽気な木であり、その白ともピンクともつかない、美しい花を満開にさせて、学生たちの新たな門出を祝っていた。
「サクラ……綺麗だね、ヴィンス」
この世界にも有るんだ。と言う気持ちと、前世での、お花見の家族で過ごした楽しい思い出を思い出して、先程のおかしなまでのテンションが吹き飛んだ。それから、透明な水に黒いインクが一滴落ちたみたいに、寂しさが広がって、胸がきゅうっと痛くなる。
「クレア様……?どうかなさいましたか」
私が急に暗い顔をしたからだろう、ヴィンスも私に引っ張られるように、表情を曇らせて、私に問う。その声を聴いて、頭の中の考えを振り払うようにして、首を振って務めて明るく振舞った。
「ううん!なんでもない、私、サクラ好きなんだ。見てたら、なんだか悲しくなるぐらい綺麗だなって思っちゃって」
「悲しくなるくらい、ですか」
「うん、そのくらい綺麗」
「……そう、ですね。この花はすぐに散ってしまいますからお気持ちはわかります。ですが、今は何時開始か分からない、入寮式を優先しましょう」
「うん。そうね……寮は……」
言われて、一番大きな建物に目を向ける。門を入って真正面にある巨大な校舎。学校の校舎にしては、随分とお金のかかっていそうな高級なつくりだが、間違いなく校舎だろう。
左右を見ると右手には、歴史の教科書でしか見た事ないコロッセオのような建物があり、反対側には、均等に窓のあるホテルのような建物だ。
あちらが寮だろう。
意外と距離があり、荷物を持っての移動は大変だったが、えっちらおっちらと歩いて行ってみれば、建物は三つ。それぞれ、ゴールド、プラチナ、ブロンズとオシャレな看板で記載されている。
……何表記だこれ。ポイントカードのランクみたいだな、新手の学年表記だろうか。
「どれだろ」
「私たちは入学生なのでブロンズでは無いでしょうか?……あちらに、歳が近そうな学生が」
私たちが悩んでいると、ブロンズの寮から学生がちらほらと出てくる。彼らはもう既に制服を着ていた。私たちはまだ私服のままだ。寮に入れば部屋に制服が用意されているのだろうか?
というか、新一年生を迎えるというのに学校側からのアナウンスが少なすぎだろう。
戸惑ってしまう学生も多いのではないだろうか?
そんな事を考えていると、ブロンズ寮から出てきた男子学生達は、私達とすれ違う時、何やら少し意味ありげな視線を送っていた。
……??
「なんか、やらかしたかな私?」
「……分かりません」
「そうよねぇ……入ろうか」
「はい」
ベルはあったが、外部客では無いため、私は直接ドアノブへと手を伸ばした。
歴史を感じる重たい木の扉はギィィと不気味な音を立てて開く。一歩踏み出そうとすると、バチンッと静電気を十倍にしたような大きな反動が体に伝わる。
「うわっ」
「クレア様っ」
驚いて、数歩後ろに下がり、なにかに弾かれた手をさすった。傷がついているということはなくすぐに痛みも引く。ヴィンスが心配そうに駆け寄ってきて落としたトランクを拾ってくれる。
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