悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

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仲直りって大事だね。 7

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 腕を引っ張って抵抗しようとするのに、肩が痛くて力が入らず、そこでやっと魔法玉の存在を思い出した、魔法さえ使えればこんな拘束、目じゃないはずだ。
 魔力を放って、魔法玉に意志を向けるが、それと同時にその誰かは、私のワイシャツのボタンに手を伸ばして、プチプチと丁寧に外していく。

 首を横に降って抵抗するがまったく意味をなさずに、魔力をひたすら込めているのに、魔法は使うことができない。

 ……ヴィンスの魔力が切れてしまったせいだろう。私は協力してくれる誰かがいなければ、魔法を使う事が出来ないんだ。どう頑張っても意味は無いことは、わかっているのに必死で魔力を込める。

 暗闇の中でその魔法玉だけが私の、唯一の希望とさえ思えて、感覚にすがった。

 けれど、あっさりと、私の魔法玉は誰かの手の中に収まって、首元から離れていく。

「ッ~っ、ん゛っんん゛!!」

 叫んだ瞬間、頭を強引に押さえつけられ、グッと上を向かされる。
 急所の首をさらけ出すような姿勢に、痛めてしまうのでは無いかと言うぐらい力を入れて抵抗するが、意味をなさずに、何故か鎖骨辺りに鋭い痛みを感じた。

「ッ、……っ、ぐ、ッン……っ」

 ジリジリと、少し切れ味の悪いカッターのようなもので、力を入れられて、皮膚が裂かれていく。ブツ……ブツブツ、と硬い肉を切り裂く音が耳の奥で響いて、いつの間にか抵抗を意味する叫び声から、恐怖の泣き声に変わっていて、震えながら、生存本能で息を潜める。

 呼吸が震えて、もうひとつも抵抗できずに、拳を握って恐怖に耐える。

 傷つけていた刃物は、私から離れていって、誰かは、私の魔法玉に、重たい魔力を押し入れる。
 
 途端に先日、ララとアナの喧嘩を見た日に、ヴィンスが言っていた事を思い出す。コストが低く私を簡単にさらえるし、抵抗する手段さえ奪ってしまえば私の固有魔法を使い放題だと。

 私はその時、人攫いなどありえないと、ヴィンスの心配を笑い飛ばしてしまった。

 ……ごめん、ヴィンス。ごめん、っ、あ、やだ、嫌。

 すごく気持ち悪い。

「ぐ、っ、ンン゛ー!!……っ、っゔ」

 嫌だ、嫌だ、怖い。気持ち悪い。

 なりふり構わずに、こもった声で叫び散らし、目隠しを涙で濡らす、バダバタと足を動かすが魔力は止まらない。荒く呼吸をすると、鼻でしか息をできないというのに、吐瀉物がせり上ってきて、口の中に酸っぱい味が広がる。

 飲み込もうとするのに、体の奥にある異物感が胃液を押し上げて、こもった声が、水に溺れているような、ゴポゴポと言う音に変わって、呼吸ができなくなる。

 鼻に何か詰まったような気がして、肩がガクガクっと反応する。

「えぐっ、っく、うぶっ」
「…………拒否反応は正常なようですね」

 柔らかい声が聞こえた。
 誰か、私が知っている人物によく似た声質だったような気がする。

 その誰かが喋った事よりも、私は息ができないということに気が動転して、ヒグヒグと声を漏らしていると、目隠しと口枷を両方とも外され、口の中に入れられたものを、差し出された桶の中に吐き出す。

 ヒューヒューと喉が変な音を鳴らして、咳き込みつつ、こんな非道をした人間の顔を拝んでやろうと睨みつけると、そこには見知った顔があった。

「ッ……、……っ、せん、せ?」
「……」

 そこには何とも、憂鬱そうな顔をした、エリアル先生の姿があった。私の言葉も気にせずに、エリアル先生は魔力を注ぎ続ける。

「っ゛……っ、やめ、っ、やめてッ、くださ……」

 気持ち悪さに喘ぎつつ、必死に言葉にするのに、先生は、私の反応など、どうでもいいように、こちらを見たまま、魔力を注ぐ。

 ……なに?……っ、気持ち悪るいっ、何がしたいの?

 頭がグラグラして、未だに手足の拘束がとかれることは無い。だくだくと注がれる魔力に困惑しつつも、先程、ナイフで胸元を切り裂かれたのを思い出し、まったく知らない他人と言うことでなければ、少しは恭順にした方が楽かもしれないと思う。

 縛られたままでも何とか上半身を起き上がらせて、視覚で情報を把握する。
 
 一度訪れたことのある先生の部屋であり、一つを除いて、まったく目新しいものはなかった。ただ、その一つというのが私の頭を沸騰させるのには十分なものだった。

 虎ぐらいの大きなサイズになっているクラリスと、頭から血を流して、彼女にしなだれかかっているヴィンスの姿だった。

 …………あ、ヴィンス。

 カチンと、頭の中で火打石でも打ち付けたような音がする。その火花が腹の奥底に、恐怖に押し込められていた、怒気の炎に火をつけた気がする。

 ディックと向き合って、自分のコアの穴を埋めようと思った時のことが思い浮かんだ。あれはきっと誰でも良かったわけでは無い。ヴィンスは言っていた、誰でも私を使えるのだと。それが都合が良いのだと。

 魔法玉同士を通して、エリアルの魔力が流れ込んでくる。私の固有魔法を使いたいのだろうけど、その先何がしたいのか分からないけれど、そんなことは抑えきれない怒りの前では心底どうでもよい事だった。

 グラスに水が溜まっていくように、エリアルの魔力が溜まっていく、もう、固有魔法の発動までほど近い。

 でも、なんでそんなに、私が誰も彼もに都合が良くならなきゃいけないんだ。
 
 本来であれば、話を聞くぐらいはしただろう。けれど、一度ならず二度までも、ヴィンスを害して、私に乱暴をするこの人が、私は嫌いになった。大嫌いだ。

 こちらからもコアを埋めようと彼の魔力を吸い上げる。魔力は、体を動かしている生命力の熱だ。
 
「ッ!」

 エリアルはすぐ異変に気が付き私を見やる。そんな反応をしたって遅いんだ。ああ、イライラする。

 でも、固有魔法なんて使わせる気は無い。あれは私の唯一で、切り札で、そして、私が願う、他人に与えられる人になりたいという思いの象徴だ。それを奪い取ろうなど許されない。

 奪い取った魔力を片っ端から、霧散させる。自分でも器用なことが出来るのだなとどこか冷静に考えたが、驚きと、混乱に歪むエリアルの表情に少し高揚して、爆発させるように、彼の魔力を消し飛ばす。

 全身に酷く力が入って、私は他人に見せられないような恐ろしい表情をしていた思う。

 あっという間に、奪い取れる魔力はなくなって、エリアルは一歩二歩と後ろによろめき、テーブルに手をついた。

 魔法玉同士が離されてしまい、昏倒させるまで魔力を奪えなかったのが心残りだが、たっていられない程の衝撃だったらしく、荒く呼吸をしている。

 彼の呼吸の音だけが部屋に響いて、クラリスはただこちらをじっと見つめるだけだ。

 十分かもしくは数十秒だったのか、私がエリアルを激しく睨みつけていると、徐に彼はスっと手を挙げた。

「…………クレア、謝罪します。強引な手段に出たことを詫びます。ですからどうか、それほど気を荒立てないでください」

 謝罪などいらない。私は、エリアルを許すとかそういうつもりで見ていないし、どうでもいい。

「拘束をといてくれませんか」
「ええ、構いません」
「……」

 変わらず睨みつけながらそういうと、エリアルは私に噛みつかれでもしないかと心配なのか少しぎこちなく、手足の拘束を外されるが両手足に鬱血したような拘束跡が残っている。手足が問題なく動くかを確認するために少し動かしてみて、鎖骨の血を乱暴にシャツで拭いベットから降りた。
 
「……説明をしますから、それほど怒らずに」
「いりません」

 説明されたとて、到底納得も出来なければ、許せもしない思ったので、私は、謎に大きなクラリスにもたれかかっているヴィンスの方へと進む。お話ができる癖に、猫然としているクラリスにもイラつきつつ。ヴィンスの呼吸を確認する。正常に息をしているのを確認できてほっとする。

 …………、……痛かっただろう。どうしてこんな事に。

 ヴィンスの頭を撫でつつ、傷口を確認する。部屋に連れて帰って、すぐにでも傷を清潔にしてそれから安静にしなければ。

 気を失っているということは脳震盪もあるのだろう。打ちどころが悪ければ、死ぬことだってあるというのに、こんな事が教師でも当たり前に出来るというのに、随分と腹が立つ。

 嫌いだ、ものすごく。
 乱暴も戦いも、喧嘩も私は大っ嫌いだ。自分の中でそれらのものが、得意な方では無いから、大嫌いなものになってしまった。

 私がヴィンスを部屋に運ぶために、魔法玉を返せと、視線をエリアルの方へと向けると、彼はただ魔法を使って私の魔法玉を持っている。

 ……否が応でも、話をすると、そういう事ね。

 今の状況では、私はそれを取り返す手段がない。
 じっと睨みつけるが、エリアルはすぐに平常を取り戻したような表情をして、それから口元だけで強気に笑みを見せる。

「どうぞ、かけてくださいクレア」
「……」

 テーブルを指されて、私は仕方なく彼の対面へと腰掛けた。



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