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サディアスの出した答え……。6
しおりを挟むそういえばなんども、彼は言っていた、危険な事をしないで欲しい、トラブルを起こすなと、それをスルーしていたから、こんなことになったのだろう。
……、……。
そうだとわかると、それはどうなんだろうと思う。
いや、だって、ちょっと早とちりがすぎる。それにこれ、私の負担が多すぎやしないだろうか。クラリスが、言っていた協力するしかないってそういうことはか、それを了承したということだろう。
というか、サディアス、テロのせいで、忙しすぎて箍が外れたのか? だって、まだ何も起きていないだろう。
そりゃ死ぬかもしれないし、危ないし、コーディの仇だってことも、クラリス達やローレンス、私が死ぬことを望んでいる人間は確かにたくさんいる。
でもさ、それでもだよ。
私には仲間だって出来てるのだ。強くだってなってる。弱っちい部分だってあるよ、他人から負の感情を向けられるのが苦手だ。嫌われるのが怖い。
でもここで諦めて、私を瓶に詰めるなんて、早とちりにも程がある。まだまだ……できることだって。
腕が切られて、血がパタパタと飛び散る。
クリスティアンはその、一部が顔にかかって、酷い顔をしている。青ざめていて、強く拳を握りただ震えていた。
そうだった、そこで出てくるんだ。クラリスの言った言葉。
世界はままならない、諦めろ、抗うな。受け入れろ。
ある種、サディアスは、それがまったく苦手な人間だったのだ。だからおかしくなった。諦められるまで抗えなかった、たくさんの心情を飛ばして、押し込められたサディアスは、おかしくなってしまったのだろう。
でも、なんにだってやりようはある。なんだっていい。だってサディアスは私の事を嫌ってなかった。私は状況からしてサディアスが私を嫌いなのだけは変えようが無いと思ってしまっていた、でも、そうじゃないなら……。
視線だけ動かして、探す。
相変わらずニコニコしている彼に、私は視線を合わせて言う。
「……ヴィンス。……助けて」
私がそういうと同時に彼は魔法を使う。
ほんの瞬きの間に私はサディアスの魔力を霧散させる。次の瞬間には私はヴィンスに抱かれて腕の中に居た。
横抱きにされて、ヴィンスは心底愛おしいそうに私を見つめる。左手はもう動かない。利き手が後回しにされていて幸運に思いながらヴィンスに体を預ける。
「やっと……仰ってくださいましたね。いかが致しますか? クレア」
嬉しそうな笑顔を浮かべるヴィンスもまあまあ、おかしいのだがそれはいい。そういう人なのだヴィンスは。
……さて、どうしようかな。
サディアスの方へと視線を向けると、彼はふらりと立ち上がって、腰に携えていた剣をするりと抜く。
「…………君が従順でいてくれるのであれば、ヴィンスは無害だと思っていたんだかな……クレア」
「……」
「痛いのが嫌なら、気を失わせてやろう。俺はヴィンスのように眠った君に魔法を使えないからな、死亡する可能性もあるが、まぁ、時間をかけなければ問題ない」
私の魔法玉はサディアスの手にある。魔法は使えない、時間もない。未だに、四肢のうち三つは使い物にならない。
「抗うのなら、ねじ伏せるだけだ」
剣を構える彼を私は睨みつける。やるしかない。サディアスは躊躇しないだろう。もとよりそういう人間だ。
「…………ヴィンス、下ろして」
「立てますでしょうか」
「ううん、む、無理だから、支えて!」
「承知しました」
ヴィンスは私をゆっくりと床に足をつけさせ、支えつつ下ろす。私は先程の魔法でほんの少しだけマシになった足を叱咤して、無理矢理立つ。
ガクガク震え、血が滲み、足を伝っていく。それでも私はサディアスと向き合った。
ヴィンスに片腕で体重を預けながら、私は口を開く。
「ねぇ、……っ……サディアス」
「……君と話はしなくない」
「そんな、事は……知らないよ」
そう言いつつも、襲って来ない彼に少し安堵する。
「……貴方、私の事、好き?」
私の唐突な質問に、彼は、少し目を見開いてそれから、グッと強く剣を握る。
「はっ、好きだが」
鼻で笑うみたいに、彼はそういった。
……そうか、そうだよね。それなら、いいのだ彼のなかにそれがちゃんとあるのなら、私はいくらだってサディアスに抗える。
「っ、それなら……良かった。ぐっ、」
「それは、素直に俺に従ってくれるという事か?」
「ち、違うよ、全然違う、むしろその逆」
きゅっとヴィンスの手を握る。涙が出てきてまた、呼吸が荒くなった。
「サディアス、私わね、貴方が私を好きでいてくれて、それで私を守ろうとしてくれるのはいいと思う。歪んでようとなんだろうとっ……っ、それでも優しい情だもの」
「……」
「でも、サディアス、それと同時に私は思うよ。それってそれしか方法がないの?」
「無いな、少なくとも君を危険から守るにはこれ以外ない」
サディアスの深紅の瞳が光を強くする。
「君はどれほど危険かわかっていないんだろ、物知らずだからな」
「わ、わかってる、ちゃんと理解してるっ」
「いいや、まるでわかってないな」
頑として彼は譲らない、私だって譲る気はない。でもそんな問答をしている暇はない、そう思った時に彼は少し瞳を揺らして言った。
「それに、君はやっぱりわかってない。……俺が、どれだけ君に陶酔しているか」
「……」
「君が消えたら、俺はどうなる。どうにもならないさ、ただ何も残らない。あれほど心配した事も、あれほど共に時間を過ごしたことも、作った記憶なんていずれは無くなる。そうなんだ……結局」
彼の瞳が潤んだ気がして、思わず息を飲んだ。
「結局、死に様だけがこびりついてっ、それ以外は残らない!」
「っ……」
「俺から、奪わないでくれ! もうどうしようもないんだ、俺は君を失う」
声が震えているような気がした、心細い声だ。
「それが、仕方が無いというのなら、どうしようもないというのなら、君の意志を無視するだけで、君を確実に助けられるなら、俺は選ぶぞっ、たとえそれで君に心底嫌われたってな!」
「……」
ついに、泣き出してしまったサディアスに、私はなんとも言えない感情を覚えて思わず抱きしめたくなる。
「……サディアス、どうして仕方が無いと思うの」
「…………」
「どうしようも無くないよ」
「…………」
涙を流しながら堪えるように、絞り出すように、彼は言う。
「俺が……無力だからだ。これしか方法はない」
燃えるような深紅の瞳は、涙に濡れて、思わず手を伸ばす。
そんな事は無いはずなんだ。だってサディアスは強いだろう。無力だったのかもしれない、自分でそれを酷くクラリスに言われて自覚してしまったのかもしれない。
でも、ずっと変わらない人間なんてどこにも居ない。クラリスに言ってあげてと言った言葉を思い出した。私はクラリスでクラリスは私だ。
私も、この世界はままならないという言葉は的を得ていると思う。でも、私だって確かに実感しているのだ。
「サディアス!……そ、そんな事はなくてよ。…………貴方はっ無力なんかでは無いわ!大丈夫よサディアス」
私がクラリスの口真似をすると彼はいつも決まって驚いてびくつく、それはきっと本物に見えるからだ。
「世界はままならないとわたくしは言ったわ、でもね、それだけじゃないのよ」
「っ、……っ」
「希望はあるわ、いつだって。それに、サディアスはちゃんとその希望を引き寄せる力を持っていますもの!貴方は強いもの!」
希望はある。私が、何も成せずに前世を終えたあと、こうして生きていられるように、なんにだって、大丈夫なことはあるのだ。
安心させるように笑顔を浮かべた。作り笑いでは無く、ちゃんと私の心からの笑顔だった。
「……サディアス、大丈夫……貴方は強くて、それに、私も協力する。貴方はちゃんと変えられる力がある人だよ」
瞬きをせずとも、彼の瞳からはたくさんの雫がこぼれ落ちて剣先が震える。段々と呼吸が荒くなって、それから、剣を落としてサディアスは私のそばに来た。
動かない私の手を取る。痛みよりも安心が先に来て、ヴィンスから手を離して、私は倒れ込むみたいにして一歩、サディアスの方へとよった。
「……」
無言で泣く彼の頬に触れる。それから涙を救いとる。
「…………っ、だから……だから、君と、話したくなかったんだ」
「……うん」
「君は口だけはっ、……っ、上手いから」
緩く抱きしめられて、良かったと思う。
いつものサディアスだ。ごめんね。ずっと一人にしてしまって。
「サディアス、もう、大丈夫だよ。ごめんね」
「っ、子供扱いっ、しないでくれ」
私を少し睨む彼に、私は笑みを返す。安心しきってしまえば私の意識はすぐに落ちて、暗闇の中、彼の体温だけを感じた。
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