悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

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サディアスの出した答え……。7

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 目が覚めると既に翌日だった。

 私の眠っているベットの横には、三つの人影があり、三人ともベットサイドに椅子を持ってきていて、隈の酷い顔でこちらを見つめている。ヴィンスだけは魔法を使っていて、私の回復に務めてくれていたのだと思う。

 サディアスはあの後も酷く泣いた事が伺えるほど目の周りが赤い。クリスティアンの方は、……うん、すごく落ち込んでいるということだけはわかるよ。

 ところで気になるのが今何時ということだ。

 何せあの騒動があったのは、今まで準備に準備を重ねてきた、個人戦トーナメントの前日だったのだ。窓から朝日らしきものが差し込んでいる。

 そして気力をすべて使い切った三人。

 ……それにね……。……足、動かない。

 感覚はある、でも、力が入らない。目眩のような症状もあるので、貧血もあるのだろう。

「…………、……よし!」

 気合いを入れるために、自らの頬をパシッと叩いた。
 二人がビクっとして、ヴィンスは小首を傾げて、サディアスはややぼんやりとしながら、クリスティアンは少し怯えつつこちらを見た。

 どう考えても時間が無い。

「クリスティアン、魔力は大丈夫?」
「あ、あぁ、ヴィンスに注いでしまってねぇ、君が虫の息だったものだからつい」
「わかった。サディアスも同じ?」

 私が聞くとサディアスは無言で頷く。

「ヴィンスもだね。じゃあ、サディアスは私が夏休み明けに渡したお土産持ってきて」
「……なんでだ?」
「いいから!見たらわかると思うけど、私今動けないから!」

 彼は無気力に立ち上がってとぼとぼと部屋を出ていく。そして何故かクリスティアンがガバッと自分の顔を覆うように抑える。

「ああっ、な、なんて事だ……こんな間違い……あってはならない」

 彼はどうやら相当心に来ているらしい。顔だって真っ青だ、きっとトラウマになりかねない。こういうのを適当に対処すると、良くない。サディアスのようなことになるから、のちのち、ちゃんとするとして、今はそんな事を言っている暇は無いのだ。

「クリスティアン、貴方少し着替えをして来たら?あと侍女ちゃんにお布団を出して貰うようにお願いして来てくれない?」
「……いいとも、君が望むのならね。私はそのぐらいしか出来ない」

 彼の方は制服を一切気崩さず、貴族らしい装飾をたくさんつけていたので、それだとリラックス出来ないと考えての言葉だ、あと、男性三人はこのベットに入り切らない。誰かは椅子の上で眠るしかない。

「ヴィンス」

 私が両手を伸ばすと、ヴィンスはすぐに察して私を抱き上げる。この人はたまに、私の四肢が動かなければいいのになんて言うぐらいなんだ。抱っこして介護するぐらいお手の物だろう。

 そういえば手は動くね、こちらを中心に直してくれたのだろう。ありがたい。

「ソファーにお願い。あと、ふたりが戻ってきたら一時間だけでも寝かせて、その間にアロマキャンドルを使って。あと、私の飴ちゃん持ってきて欲しい」
「ええ、承知しました。ただ、私は……クレアの治療を優先させたいと思っています」

 彼は私を移動させて、ゆっくりとソファーに座らせた。それから、私の足をゆっくり撫でる。

「……それだと、サディアスとクリスティアンに固有魔法を使ってあげる魔力が無くなっちゃうから」

 ヴィンスの頭をゆっくりと撫でる。彼は少し眠たそうに目を瞑って、それから、私を見る。

「後に回せば……跡が残ってしまいます」
「うん、いいよ。……私、サディアスには力があるって言ったでしょ」
「……はい」
「その証明が必要だから」

 この世界、戦いが強いというのは、何よりもステータスになる。クリスティアンが力を求め、それがあれば、サディアスを守れるといったように、ララが身分も関係なく最高位のローレンスと釣り合ってしまうように、力というのは絶対だ。

 私はそれを証明したい。

 サディアスが部屋から戻ってきて、私はヴィンスに後はお願いねと頼んだ。これで魔力と少しは体力も回復するだろう。

 私はヴィンスに持ってきて貰った飴玉を舐めつつ。魔力を溶かしていっぱいにする。

 三人が寝室で眠っている間に、侍女ちゃんが私に朝食を出してくれて、ありがたくいただいていると、来客があった。

 こんな朝早くにここに尋ねて来るということ、そして今の私の状況。あ、と思う。このクリスティアンの部屋のリビングは、私は気にしていなかったのだが、ところどころ血しぶきが飛び散っていて、カーペットは血濡れのままだ。

 二人は入ってきて早々、目を見開いて固まった。そして、ゆっくりと私に視線を向ける。

「…………おはよう、ミア、アイリ」
「お、おはよう」
「な、何があったの?」

 私がぎこち無く笑うと、二人は、すぐに駆け寄ってきて、ことの次第を確認しようと私に問いかける。

 色々厄介な問題を孕んでいるのだが、簡単に言い表すのなら……。

「喧嘩で、刺傷事件が起こったっていうか……」
「誰が……刺されたの? 怖すぎるよ、ね、ミア」
「うん、刺した人も気になるけどまさかクリス?」
「いや、サディアスが私を」
「え、そんな…………事って…………なくも無いかも、ね、アイリ」
「う、うん。まぁ、サディアス様だもん、なんかわかる」

 あ、わかるんだ。

 私以外からは、彼は割と猟奇的に映っていたらしい。

 苦笑しつつ、私はとりあえず、二人の方の事情も確認しようと思う。

「二人はどうしてここに?」
「うん、私達はね、ほら最近クリスの様子がおかしかったでしょ? ね、アイリ」
「そうそう、だから、クレアと練習しているのはわかってたけど、なんか心配でね、ミア」
「それで今日ぐらいは、様子を見て、一緒に行こうと思ったんだけど、クレア、もしかして、刺されたの足?」

 一応、怪我している部分は、制服のスカートに隠れているのだが、私の居住まいに違和感があったのだろう。ミアは私の刺された場所を言い当ててくる。

 観念して少しスカートをたくし上げる。包帯がぐるぐる巻きになっているだけで、患部は露出しないが、血は滲んでいて、それも両足だった事に二人は目を見開く。

「ちょっと大怪我だったから、朝まで、クリスティアンも起きてたみたいで、今少し眠って貰ってるところ。一時間もすれば起きてくると思うよ」
「…………クリスも何か関わってるの?」
「…………クレアの事あまりよく思ってないみたいだったよね?」

 それはまぁ、確かに、すぐに関連性に気がつくだろう。確かにクリスティアンは勘違いをしていた、でも、私だってそれを彼に言わなかったのだ。

 私にも負い目があって、クリスティアンの恨みを助長させる事をしていたのだから、お互い様である。

「ちょっと勘違いがあってね。彼はサディアスの方に協力してたんだけど、途中でその勘違いに気が付いてね……私が怪我をしてしまったから後悔してるみたい……慰めてあげて、クリスティアンは悪くないから」

 二人は私の言葉に少し逡巡して、それから「わかった」と声を揃えて言う。聞きたいことは山ほどあるのだと思う。それでも、彼女たちは、飲み込んでクリスティアンを支える事を了承してくれる。

 ありがたい、それに、これは普段の彼の日頃の行いの結果だろう。精々可愛いふたりに慰めて貰えばいい。私は、サディアスとヴィンスで手一杯っだ。

「ねぇ、それはそうとクレア、クレアは個人戦に出られる? 酷い怪我みたいだけどね、ミア」
「うん、アイリ、そうだよね。これは……もしかして歩けない?」
「…………うん」

 私の言葉を聞いて、ミアとアイリはうーんと考えた、それからパッと二人で表情を明るくさせて、それからニコッと笑う。

「待っててね、クレア、行こう、ミア!」
「うん、アイリ! すぐに戻ってくるから!」

 そう言って彼女達はパタパタと駆けていく。私はそれを見送って、一息ついて飴を舐める。ミアとアイリはこれで納得してくれたからいいが、さて、私は、こんな怪我で、学校に行って納得しないであろう、人物達を思い浮かべる。

 ……説明、しなきゃだよね。

 少し気が重いが仕方が無い。私が招いた結果だ。

 窓から差し込む朝日に少しだけ目を細める。なんだかそれに、生きてるなぁ、と強く実感した。




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