悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

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楽しい時間はあっという間で……。7

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 帰り際に、アーネストに送って貰うようにと言われて、彼が私の付き添いで、そばを歩いている。
 顔の熱を覚ますようにパタパタと手で顔を仰ぎながら進む私に、彼は従者然として、品良く少し後ろをついてくる。

 そしてあれ?と思う。彼と二人きりというのは初めてだ、しょっちゅうローレンスの後ろに控えている所を見るアーネストだが、そういえば……。

「あの……アーネスト、頭の怪我は何ともなかった? 随分謝るのが遅くなって……ごめんなさい」
「……お気ずかい頂きありがとうございます!自分は特に問題ありません」

 ものすごい目上の人に対する返答のようなものが返ってきて、まぁ、仕方がないかと思う。きっと勤務時間中だから、こういった返答以外しないのだろう。

 同じ学生の身分なのに、不憫だななんて考えたが、ヴィンスのように人に仕えるのが染み付いている人なのかもしれない。であれば不憫なんかでは無いだろう。

「いつもご苦労さま。護衛業務も大変だね」
「いいえ、自分は志願して殿下のお傍に置いて貰っております!ですから苦労を感じた事などありません」
「へぇ、そうなんだ、なんでまたローレンスに?」

 私が気になって後ろを振り返りつつ聞くと彼は会話を続けて来るとは思っていなかったようで、少し驚いてそれから、真面目そうと言うか気難しそうなその表情を少し緩めていう。

「幼い頃からお慕いしておりますから、必然と学園での護衛に志願いたしました」
「……そうなんだ。小さい頃から……」

 そう言われて、彼の過去について、何か知ることが出来ないだろうかという邪な気持ちが顔をだしたが、聞くならば当事者同士が妥当だろう。

 私はそれよりもパッと頭に浮かんだ気になる事をアーネストに聞いてみる。

「アーネスト、小さい頃のローレンスって、どうだった?」
「……どうとおしっしゃいますと?」
「や……その、ほら、今ではかっこいいけど、昔はほら、すごく可愛かったんじゃないのかなって」
「は、はぁ……」

 私の質問にアーネストは妙な顔をして、それから首を捻る。

「肖像画が残っていると思いますので、殿下に見せて欲しいと頼んでみるのは如何でしょうか?私には可愛らしかったかどうかというのは判断しかねます!」
「……そっか、肖像画か……」

 当たり前のことだが写真ではないんだね。彼のきっと妖精の様だったであろう幼少期に興味があったのだが、肖像画ではきっと天使として描かれているに違いない。

 それはそれで興味があるけれど、ローレンスが素直に見せてくれるとも思えない。

 貴族側の階段を降りて、私服の生徒で賑わっている談話室を素通りし、平民用の階段を上がっていく。

「ローレンスの機嫌がいい時に頼んでみるよ。ありがとう」
「はいっ」

 彼は元気よく軍隊のように返事をして、私達はしばらく、無言で足を動かした。それから、アーネストは私の背中に向かってぽつりという。

「…………これは、個人的な謝罪になりますが、クレア殿」

 ……殿?私、殿を敬称にされたの初めてだ。

「ん」
「自分の方こそ、先日は、無理やり魔法玉に魔力を注ぐなどして申し訳ありませんでした。命令であったため、後悔はありませんが、クレア殿へ魔法使いらしからぬ行動をしたことを謝罪いたします」
「……いいよ、私もアーネストに酷いことしてしまったし」

 初めて彼本人としての言葉が聞けて嬉しい半面、謝罪されると少し困る。お互い様だ、アーネストは仕事をしたのだとわかっている。

「……クレア殿は、本当にお優しい方なのですね」
「そうかな?」
「ええ……殿下は本日とても楽しまれていらっしゃいました。また是非いらしてください!」
「わかった、ありがとう」

 寮内なのでそれほど距離もない、アーネストは私を部屋まで送って去っていく、背が高く武骨なイメージの強い護衛の一人だが、存外、きちんと話の出来る人なのだなと思う。

 果たして彼はどこまで知っているのか、すべて、私が彼に殺される事まで知っての言葉なのか、それとも何も知らない、ただのそのままの意味の言葉なのかは判断できない。


 部屋に戻り、私はヴィンスに話を聞いた。
 トランプなどのゲームは、ローレンスのような最上位の相手に何かを強請る時のツールのように使われるらしい。

 ただ直球に強請るというのは社交界では嫌われる事だ。ゲームに誘い、相手を楽しませるという名目のもと、場の空気を読んで、勝たせたり、自分が買ったりしながら、要求を呑んでもらうために挑む側は簡単に言えばイカサマを使う。

 だから、簡単には相手の思い通りにならないように、ディーラーの位置に自分の従者を置いて、指示に従わせたり、もちろんローレンスも勝負を左右させるイカサマが出来るらしい。

 その従者の位置に使われるのがヴィンスのような人らしいのだ、そして、私からトランプ勝負を挑まれたというのは、そういう事だと彼は勘違いして、そしてあの発言だ。

「……じゃあ、ローレンスが配った時に、一番上にババがあったのってそういう手口?」
「……」

 私の言葉にヴィンスは、キョトンとして、それから肩を揺らして笑った。

「ふふっ……いいえ、それほど本来であれば分かり易く、自らが不正をしている事がわかるようなことは致しません」
「じゃあ何で?」
「……クレア、ローレンス様は、その、少し楽しんでいらしたのだと思います」
「楽しむ?」
「ええ、不正を仕掛けて来るはずの貴方が、逆に不正を仕掛けられて負け続け、素直に何処まで信じるのか、遊んでいたように感じますよ」

 ヴィンスの言葉に、私は納得するのと同時に、ものすごくおちょくられていた事に気が付き、言葉を失った。

 言ってくれればいいのにと思いつつ、まあ、今日はずっと機嫌が良かったのだから、それでもいいかと思う。

 トランプ片手に素直に微笑んでいる彼は、どんなイカサマを私にしていたとしても、文句無しにかっこよかったことに変わりがない。

 単純に他人にやられたら、軽蔑ものだが、彼に限っては穏やかな時間を過ごせたのだからいいじゃないかと思ってしまった。





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