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9 関係
しおりを挟む「じゃあ、改めまして、お久しぶりですわ。シェリルお姉さま。私はセラフィーナ、おぼろげには記憶にあるけれどこうして会ってみるとお姉さまはずっと大人になっていてなんだか不思議な気持ちです」
「そうね、私も同じ気持ちかも。でも会えて嬉しいわ。まさかこうして姉妹として言葉を交わす日が来るとは思っていなかったら違和感というか不思議な気持ちよね」
「そうなんです、でも私たちは確かに姉妹で……できることなら仲良くさせてもらいたいです」
「もちろん、手紙で話した通り、私は交友関係があまり広くないから願ったりかなったりよ」
改めてシェリルはセラフィーナと握手を交わして、これからのことなど相談することもあるだろうと考えた。
しかしその様子を見ていたアデレイドは、シェリルの言葉を聞いて、ぷっと吹き出した。
「ヤダ、ちょっとおかしい、笑わせないでよ。ウィルトン伯爵のくせに引きこもりとか致命的じゃないのかしら」
「アデレイドお姉さま……そうね、これからは私も多くの人と関わって研鑽を積んでいきたいと思っているわ」
新しい爵位を与えられたと言っても、いつまでも安泰とは限らない。
贅沢をするつもりはないし、領地は特に統治難易度の高い難しい場所ではなくなんの問題もないとはいえ、いつまでもその幸福が続くとも限らない。
同じ爵位を持っている貴族と交流して様々なことを学んだり、新しい交友関係を築いて情報収集をすることなどやれることはたくさんあるはずだ。
「小さな世界で生きてきた人間に、今更なにができるって言うのかしら」
しかしアデレイドは口元に手を持っていってくすくすと笑った。
……これは……。あえて欠点を指摘することによって相手のためになるようにという配慮を……?
どうしてもと言ってついてきたにも関わらず妙な態度の姉に彼女は変わった人なのかとシェリルは思う。
しかし、セラフィーナは渋い表情をしてそれから「それでも役名についていたからこそできることもあるはずですよ」とフォローするように言った。
「なによ、本当のことを言っただけなのに生意気ね、どんな役に立つっていうわけ? 病気の娘みたいずっと魔力無しで屋敷に引きこもる生活の何が役に立つのよ?」
「……そ、それは」
「ほら、すぐに出てこない。シェリルも、社会ってこういう好意的な人ばかりではないのよ。私はこうして親切心で本当のことを言ってあげるけれどセラフィーナみたいにニコニコして近づいて、裏で悪口を言う人の方がずっと多いんだから」
「……配慮のつもりだったということなの?」
「ええそうよ。特に、結婚の視野に入れないで仕事ばかりしている女なんて本当に性格が悪い人ばかりだわ。あたしは、つつましく家庭に入って屋敷を支えるけれどそういう生き方を選べなくて男も見捨てられて男性の劣化版として競争して生きていかなければならない人間は大変よね、性根が悪くて」
「な、なんですって、私はこれでも自分の仕事に誇りをもって勤めているのです」
「ほら出た。王宮勤め自慢だわ。嫌になっちゃう。勤めていると言ってもしょせんあの、不思議王女の侍女でしょう? 誰もなりたがらないたいしたことない仕事にたまたま入ることができただけで偉そうな女はダメね、そう思うでしょう? シェリル」
彼女は一頻りセラフィーナを罵ると間髪入れずにシェリルへと話を振る。
強気な笑みを浮かべていて、セラフィーナの態度に普段からこういう人なのだと思う。
それから少し戸惑ったが彼女のペースに乗せられないようにゆっくりと返した。
「人の選んだ生き方には良いも悪いも他人は言えないと思うのよ。だからこそ理解を示そうとするべきだと思うだけだわ。アデレイドお姉さま」
「……あら、優しい。いいことを言うわね今日のところはシェリルもそう言っているし勘弁してあげるわ、セラフィーナそれにしても今日はどんな話をしに来たのかしら。仕方ないからあたしも話に混ざってあげるわ」
アデレイドは、ため息をついて最終的にセラフィーナに話を振った。
セラフィーナは不服そうにしていたが、この場でそれに言及して雰囲気を悪くすることを懸念したのか、渋々シェリルに視線を戻して言う。
「それは……手紙でも言った通り、私たちエルズバーグ公爵にお世話になっているお父さまもお母さまも、ウォルフォード伯爵が変わったことは気にしていないし、これからもやることは変わらないと言ってますよね、お姉さま」
「ええ、稀にそういうこともあると聞くし、ただ次の世代をどうするかという相談はまだまだ必要だけれど、特に困りごともなく過ごしているわね」
「そうなの。だからあまりつながりは深くないけれど家族として心配しないでいいし、むしろこれからは家族らしく私たちだけでも交流できたらいいなと思ったんです」
セラフィーナは言っているうちに真剣そうな顔になって、続ける。
「お父さまとお母さまは、今更と思っているみたいだけれどいつからでも関係を始めるのに遅いことはないと思うから」
いろいろと考えて連絡をしてきてくれたこと、それは、手紙でも伝わってきていた。
ウォルフォード伯爵の権力は小さく、アルバーンになったところでシェリルの家族である彼らになにかがあるとは思えなかったが、それでも心配ではあった。
彼女の手紙でアルバーンを不慮の事故で契約者にしてしまったことをどう思っているのかということに悩まなくて済んだのも事実だ。
関わらなくたってたしかに、どうとも思っていないという事実は伝わるけれどこうして教えてくれるのはありがたい、そう返そうと思った。
しかし、アデレイドがまたくすくすと笑って、「ヤダ、むず痒いいい子ぶった言葉ね、子供みたい」と茶化して「別にいいでしょ!」とセラフィーナはカッとなって返す。
そのやり取りをなだめてシェリルは両親のことや今までの彼女たちがどんなふうに生きてきたかを聞くことにしたのだった。
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