たいした苦悩じゃないのよね?

ぽんぽこ狸

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「最近のシェリルお姉さま、なんだかすごく生き生きしているように見えます」

 セラフィーナはそう言って小さく笑みを浮かべた。彼女とはこれまでも様々な交流をしてきたが、今日は領地運営や屋敷の管理に関わる参考となる資料をエルズバーグ公爵家から運んで来てもらったのだ。

 というのも初めのうちは、素早く嫁に貰われていったアデレイドのその後の話を彼女から聞き、それから両親の対応やなぜ彼女があんなふうに育ったのか、そんな話をしていたと思う。

 しかしいつの間にか理由がなくとも会うようになって、今では立派な友人ぐらいまで仲が良くなっていた。

 そんな中、屋敷の管理についてなにか参考になるものはないかとクライドの側近であるマイルズに問われ相談すると、彼女は丁寧に写本をして持ってきてくれたのだった。

 彼女にどんなふうにお礼をしようかと考えていたシェリルだったが、そう指摘され、キョトンとして返す。

「生き生きとはどういうこと?」
「なんというか、具体的に言うと、髪につやがあって、肌や指先がふっくらしていて綺麗で魔力を長年奉納していて体が弱っていたことをつい忘れてしまうような、そんな感じです」
「忘れてしまう……それほど健康そうに見えるようになったのね。努力……はしないことを努力していたというか、そんな感じなのだけれど」
「たしかに、シェリルお姉さまはとても行動力がある方ですもの。ゆっくりと休むことも努力が必要だったのですね」

 伝わるかわからなかったけれどそう口にすると、セラフィーナはきちんと意図をくみ取ってたしかにと納得する。

 彼女が忙しなくアデレイドのことに対応している間に、シェリルはゆっくり休んでいたのだから少し心苦しいけれど、クライドのサポートもあってそこまで言ってもらえるようになった。

 それは純粋に嬉しいことであり、クライドも外に出て体を少し動かすぐらいならば大丈夫だろうと言ってくれるようになった。

 ……やっぱり、クライドには頭が上がらないわね。彼がいなかったら、突っ走って病気でも患っていたかもしれないから。

 ああして、ウォルフォード伯爵だった時にはまったく気がつかなかったがどうやらシェリルは割と活動的な方で、なんでも動くことが好きなタイプだったらしい。

 あのときから、体が動かないながらもできることはないかと常に探し、先代の本を読み漁り自分はどんなものをつづろうかと日々考えていたので片鱗はあったのかもしれない。

「魔力がみなぎっているのにできるだけ多く眠って、たくさん食べて体を休めるというのは、なんだかそわそわしてしまって、うまく休めなかったけれど時間をつぶすのだけは得意だもの」
「よくなりかけの頃ってそわそわしてしまいますよねわかります。でもその時間があったからこうしてお姉さまは元気になられて……今度、城下町にでも遊びに行きませんか」
「ええ、喜んで。……でもその前に、今日はありがとう。こんなにたくさんの資料、写本の手間もあったでしょうし、どんなお礼をさせてもらったらいいかしら」

 初めて二人での外出の話は、シェリルにとって魅力的なものではあったが、その予定を立てる前に、この資料をもらったお礼を先に考えておかないと次の話に熱中して忘れてしまいかねない。

 そう思ったシェリルは内容の確認のために数冊出した書類束に手を置いた。

 彼女の方もここまで丁寧な仕事をしてくれたのだ、要望の一つや二つはあるだろうと思って聞くことにしたのだった。

 しかし彼女は、もうそのことなど忘れていたかのようにハッとして、それからためらうように少し視線を逸らした。

「……なにか言いづらい要望があるのかしら」

 その様子に促すように聞いてみる。するとセラフィーナは逡巡ののち「はい」と小さく答えて、改めてシェリルを見る。

「シェリルお姉さまも、体がよくなられたようですし、クライド様も危険な場所でなければ無理をしない程度に出かけることを許可してくださっていると言っていましたよね」
「ええ、そうね。まだまだ遠出はクライドが心配するから控えるつもりだけれど」
「……シェリルお姉さま、私、お願いしたいことがあるのです。……お仕えしているハリエット様のことで」

 そうしてセラフィーナは以前も話をしていたハリエットが思い悩んでいることを詳細に話し始めた。

 そしてシェリルはその話を聞いてとある考えが頭に浮かんだのだった。


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